#19【書評】世界は経営でできている
「世界は経営でできている」。なんとも奇妙な題名である。人によっては世界は「経営=金儲け」でできていると思ってなんと資本主義的な題名だろうと思うかもしれない。
しかし読めばわかってくる。確かに世界は経営でできていると。
さて、今日紹介する本は岩尾俊兵氏著、講談社現代新書の「世界は経営でできている」である。
本書は経営学者である著者が、我々が普段生活していると起こってくるさまざまな問題が実は「経営」によって解決できるということを豊富な例と、ウィットに富んだ文章で紹介してくれる一冊だ。
ちなみに本書は経営者やビジネスマンだけに向けて書かれた本ではない。というよりむしろそういった側面に関係ない主婦の方や学生にこそ読んでほしい一冊である。実際本書の中で
と述べているし、どんな人にとっても本書は楽しめるものになっている。何より文章自体が平易でテンポがいいので、読書は苦手という人にもお勧めできる。
では、ここからいよいよ本書の内容に入っていこう。
そもそも経営とはなんなのか?
そもそも経営とはなんだろうか?我々が経営という言葉を使う時、それはほとんどの場合暗黙に「企業を」ということを想定している。つまり、経営とは会社を運営することであると思っていることが多い。
しかし本書の冒頭で筆者は経営の定義についてこう述べている。
つまり、経営というのは別に会社を運営管理していくことではなく、自分と相手をどちらも幸せにしていく行動に他ならないのである。
そして、この定義に照らし合わせると日常に潜むたくさんのことに、実は経営が必要であることがわかってくる。
全ての経営で大切な「価値創造」と「冷静な視点」
計15章全てを読んでみて気づいたのは、どんな経営においても必要なのは「自ら価値を創造しようとする気概」と「状況を客観的に観察できる冷静な視点」の二つである。
価値というのはどこかに自然と存在しているものでない。金やダイヤモンドだって、人間がそこに価値を見出したからこそ価値あるものになっているわけで、科学的な成分だけで見ればただの金属と炭素である。
価値を創造するとき、ベクトルが必ず自分以外の他者に向かっている。(自分に向けて価値を創造することもあるかもしれないが、一般的な意味での価値創造といえばそれは明らかに他者を向いている)
つまり、価値を創り出すには自分以外の誰かのことを嫌でも考える必要があるのだ。それは自分のことだけを考えることより遥かに難しい。自分のことはある程度自分で知ることができるが、相手のことは想像して、考えなければならない。
しかし、この難しい局面を乗り越えて初めて価値は生まれるのである。
そして、この「相手のことを考える」という場面において、二つ目の要素である「状況を観察する冷静な視点」が必要になってくる。
たとえば、結婚して夫婦で喧嘩することが増えたという状況を例にして考えてみよう。ケンカの理由はさまざまであるが、妻が夫がやった家事に対して「もっとちゃんとやって」と言ったところ、夫側は「自分はちゃんとやったのになんでこんな文句を言われなければいけないのだ」と反発する、という状況はどんな夫婦にも起こり得る理由だろう。
この場合、ただ「相手は自分のことを全然わかっていない」と思ってしまってはそこで話が終わってしまう。そこでお互いが一旦冷静になって相手にとっての価値を考える必要がある。
価値を考える時、常にそのベクトルは相手を向いていなければいけない。
ので、この時に相手にとって家事をすることの価値はどんなものかをまず考えてみる、そして自分が相手に感じている価値と相手が思っている価値とを擦り合わせていくことで初めてこの問題は解決されるだろう。
この時どれだけ冷静に相手にとっての価値を考えることができるかを決めるものが「状況を冷静に観察する視点」なのだ。
「いや夫婦ならこんなめんどくさいことせずに察してわかるよ」とか思っている人ほど危険だ。そもそもの話、夫婦など元を正せば他人なのである。家族というのは確かにただの他人と言える存在ではないが、だからと言ってどんな問題も「いや家族だし・・・」とか言い始めてしまったらそれは新たな喧嘩を生み、なんの価値も生み出すことにならない。
いかにお互いにお互いのことをわかっていると思っていたとしても、時には冷静になって相手の価値について考えてみることで関係性というのは長く、うまくいくのではないか。
価値創造は幸せだ
本書では一貫して、経営することを重要視する。それはつまり価値創造を重視することである。
その理由は、結局それが1番人を幸せにするからだ。人は誰かから価値を奪うこともできる。実際に歴史上誰かの価値を奪った出来事はみなさんご存知の通り数え切れないほどある。
しかし、それは同時に、価値を奪いことは誰も幸せにしないという事実も証明してきたのだ。
つまり、人を幸せにするのは価値創造しかないのである。価値創造こそが我々を幸福にしうるものであり、世の中に対してたくさんの価値を提供できる人ほど、その人自身も世の中から価値をいただくことができるのではないだろうか。
そうやって価値の創造を全ての人間で循環させていくことができれば、それはすなわち幸福を循環させることに他ならない。そして微力ながら私自身その循環の一員としてこれからも何かしら価値を提供したいと思わせてくれたこの本はそれだけでも価値のある本だろう。
ぜひみなさんも価値を創造することがどれだけの効果をもたらしてくれるのかを本書を読んで体験してみてほしい。
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