#17 【書評】会社という迷宮
最近は「常識」という言葉が忌避されるようになってきた。多様性という旗印のもと、それぞれの個性や特徴を大切にするという社会的風潮はもちろんいい側面もあると思う。
しかし、あえて言いたい。「常識」というものは我々が社会を構成していく上で最も重要である。常識とは言い換えれば「当たり前」であるが、この当たり前というものの重要性をもう一度見直してみたい。
そして、それには本書「会社という迷宮」がぴったりだと思った。
さて今日紹介するのは長年コンサルティングに携わってきた石井光太郎氏の著書「会社という迷宮」である。
本書は、長年コンサルティングという職業からさまざまな会社と関わってきた著者が、現代の経営に対してさまざまな問題提起をしていく一冊になっている。
このように書くといわゆるビジネス書のように聞こえてしまい、それ以外の人にとってはあまり関係ないものと思われるかもしれない。
実際私がこの本を手に取ったのは、自らが経営学を専攻している学生でありその道に関心があるという理由に他ならない。しかし読んでみてわかるのはこの本はビジネス書ではなく、むしろ「哲学書」や「倫理書」であるということだ。
人間が生きていくに必要な哲学を、「企業・経営」という立場から論じただけであり、決してビジネスマンや経営者だけに意味のある本ではない。
むしろ、それに関係ない人にぜひ読んで欲しい内容である。
我々が実はわかっていない「当たり前」
本書に書かれていることはよく考えればどれも「当たり前」なのである。しかしそれは本質的であり、大いなる納得感を読者に与えてくれる。
当たり前というのは、本質であるがゆえに当たり前になるのであるが、それを「本質」といって関心するのは我々がいかに普段当たり前のことを考えられていないのかという証明になっている。
そう、我々は当たり前などと普段は口にしながら実はそれを全くできていないのである。だからこそ、今一度本当の意味で「当たり前」に立ち返ってその重要性を知ることが必要だろう。
この本の重要な点はここである。書いてあることは至って普通、その普通を我々がいかに読み取り自らを反省できるかどうかがこの本の真の意味を捉えるために重要なのだ。
しかしながら、「なんだ、当たり前のことしか書いてないじゃん」といって読む人ほど、実は全くその当たり前ができていないことが多い。
それは当たり前が、当たり前が故にあまり重要視されないからだ。しかし、本来はむしろ逆でとてつもなく重要であるからこそそれが長い時間の中で「当たり前」になっていったのである。
例えば時間に遅れない、とか食事のマナーに気をつけるなどはいい例であるが、実際あなたはそれを実行できているだろうか?
今少しでも「ウッ」と思った人は、むしろ自分を内省できている証拠である。
当たり前はプラスにはならない
当たり前が重要視されない理由の一つして、当たり前はプラスを産まないことにある。当たり前の役割というのはプラスを産むのではなくて、マイナスを産まないことにある。
結局、企業はプラスを求める。そうなると必然的にプラスを産まない当たり前というのは蔑ろにされるという論理だ。
これは人間にとっても十分に言えることだ。例えば、人との付き合いにおいて「他人に優しく」などというのは常識である。誰もが小さい頃から人には優しくと教わる。
しかし優しいからといって特別プラスになるわけではない。(ただしかし、恋愛で大切なポイントと聞くと「優しい」とかが普通に出てくるので「優しい」という特性はあまり当たり前ではないのかもしれない)
ただ、こうして「当たり前」の重要性がどんどんと抜け落ちていくとどこかのタイミングでまずいと思う時が来る。そうしてそのタイミングで我々は初めて気づくのだ。「どうしてあんな当たり前のことができなかったのだろう」と。
ものを言わない「当たり前」
当たり前はいわば空気のようなものだ。ある時には特に何も感じないのに、なくなった時にはもう手遅れ。当たり前の方からはそれが失われていることを教えてくれない。
ここが、「当たり前」の難しいところなのだ。
あるのが当たり前だと思っているといつの間にかなくなっている。
では、どうすれば「当たり前」を手放さないようにすることができるのか?
その答えは「常に当たり前を意識するしかない」である。これこそ当たり前であるが、それを続けていくことはきっと想像以上に難しいはずだ。
私自身、完璧にできているかと言われれば程遠い。何より本書を通して当たり前の重要性を私自身が大いに学ぶことができた。ぜひみなさんも一読して、この本の深みを感じてみてほしい。
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