地方採用こそ「当たり前」を。合説に『ノースーツ』『名前のないブース』本当の狙い
2021年3月。『しがと、じんじ。』を営むいろあわせは、150社が出展する合同企業説明会『しがジョブフェスティバル』(主催:滋賀県、滋賀経済産業協会)を運営しました。
「リアル会場」と「オンライン配信」を組み合わせ、延べ565人の求職者が参加。コロナ禍ながら、県主催のこの説明会を近年でもっとも盛り上がった回にすることができました。
従来の合同企業説明会にないポイントとしては、『ノースーツ』『名前のないブース』といった特徴的な施策を行っています。
一方で、それが直接の成功要因だとは捉えていません。何よりも「参加者が求めていることは?」を考えて、丁寧なアプローチを当たり前に重ねていったことが、純粋に結果へと結びついたと思うのです。
今日は実際の参加法人の反応を交えながら、そんな「当たり前の積み重ねの先にしか、ローカルの採用戦略は成り立たない」ということをお伝えしていきます。
素の魅力を引き出し合う『しがジョブフェスティバル』
そもそも地方には(地方にも)、きちんと想いを持ち社員を大切にしていたり、地域で着実に顧客の心を掴みつつグローバルでも成果をあげていたりと、都心部に本社を置くような企業に決して魅力で劣らない仕事の選択肢がたくさんあります。
ただし、知名度の高くない中小法人やBtoB企業を中心に、その良さが求職者にうまく伝えられていない課題がある。これを解決すべく、滋賀県が毎年開催する合同説明会を一新したのが『しがジョブフェスティバル』です。
特徴的な施策の1つは『おたのしみブース』。フラットな視点で企業を知ってもらえるよう、ブースに社名を載せない試みをしました(希望企業のみ)。
このブースに出展すると、名前から来る先入観をはぶき、採用担当者や現場社員の魅力のみで求職者と向き合うことができます。特に小さな法人や「知るひとぞ知る」ようなBtoB企業にとって、大きなメリットになればと意図しました。
実際の出展法人からは、事後アンケートで「いつもより着席率が高く感じた」「パネルを見て興味を持って来てくれた方がたくさんいた」「業界に対するイメージ向上につながった」との言葉を頂きました。『おたのしみブース』法人の合説への満足度は、5段階で4.14(全体は3.97)です。
また、写真を見てわかるように、法人側も求職者も私服で話をしています。これは人同士が互いの素の魅力に触れ合いやすいよう、『ノースーツ』を参加条件に盛り込んだからです。
参加企業からは、「壁が低くなったように感じ、会話も弾んだ」「学生から楽に参加できて良かったと聞いた」「ヒールの靴では多くの企業を回れないので、良いと思う」などの声が事後アンケートで集まり、是非については「賛成」80.1%、「どちらでもない」19.1%という結果になりました。
他にも『気になるポスト』『先輩ナビゲーター』『お悩み相談室』など、求職者に細かい接点づくりや配慮を行なった3日間。集まった求職者は延べ数で対面が475人、オンラインが90人となり、大学生をはじめ既卒生・一般求職者・留学生など、さまざまな人に参加してもらうことができました。
“奇”をてらった戦略ではない
当初の想定を上回る盛り上がりを見せてくれた今回の合同説明会。ポイントはどこにあったのでしょうか?
特徴的なブース設営や、スーツの有無についてここまで触れてきましたが、実はそれらはコアではありません。細かな一連の施策を通じて、「求職者にとってのネガティブ要素」をできるだけ排除しようと取り組んだ姿勢が、一番の成功要因だったと考えています。
そもそもローカルでの採用には、ある種のネガティブイメージとの戦いがあります。「閉鎖的」「成長できなそう」「ダサそう」……など実態とはかけ離れたマイナスの想像を、多くの求職者が勝手にしてしまっているんです。
従来の採用活動でそのイメージが生まれている以上、何かアプローチを変えなくてはいけません。もちろん変えることによるメリット・デメリットがありますが、両者を比較して「メリットのほうが大きい」と思える施策を一つひとつ実行したのが、今回の説明会です。
例えば『ノースーツ』。よく勘違いされるのですが、「スーツを着せたくない」わけではありません。スーツを着てピリっとした姿で就活をしてもらうことにも、意味はあるでしょう。
でも、実際に就活生に話を聞くと、慣れないスーツを着ることで緊張してしまい、「きちんとしないと……」ということばかりに意識が向いて、好奇心を持って話を聞いたり自分を表現したりすることに全くエネルギーを割けていないことがわかります。これは合同説明会の意義を考えたとき、特にローカルの法人にとってはかなりのデメリットです。
ピリっとさせることにこだわってしまうと、そもそものネガティブイメージを覆す大事なチャンスを失ってしまいます。まずは就活のハードルを下げ、以降の個別説明会に行きたくなる「きっかけ」をたくさん提供できることが大事なはず。
そうやってメリット・デメリットを天秤にかけ、今回は『ノースーツ』を掲げる意味があると考えました。(「ピリっとした姿を見たい」というニーズもありましたが、それは各社個別の説明会でお願いしました)
背景を知らないと、こうした施策は“奇”をてらったものに思えるかもしれません。けれど実際は、求職者に寄り添う方法を考えていったときに、ただ純粋に一番良いと思える選択をしていっただけなんです。
地方こそ、人に真摯に向き合う必要がある
今回の取り組みはどれも、決して地方だけで有効なものではありません。都市部も含め全国各地で真似していただきたいものばかりです。
もちろん変えるにはみんなの労力がかかります。新しく配慮すべき箇所もでてきます。それはある意味で「手間」がかかることです。
ただ、特にローカルの法人にとっては、そうした手間をきちんとかけ「どうすれば求職者がアプローチしやすいか」「どうやって本質的な魅力に触れてもらうか」と考えていくことが、採用を前に進める唯一の方法ではないかと思います。
なぜなら、地方には都市部ほど人がいないからです。当たり前のことをきちんと重ねたところにしか、エントリーが集まらないからです。
これは例えば、飲食店なども一緒です。一定の集客が見込みやすい都市部のお店に比べ、地方で人通りのない立地にあるお店は、きちんとおいしいものをつくって丁寧な接客をして、やっていることをちゃんと発信しないと生き残れません。逆にそれができているお店には、SNSなどの口コミでしっかり人が集まるようになっています。
同じことがローカルの採用に言えます。こだわりをもって丁寧にやるべきことをやり、人への向き合い方を見直す。相手に与える情報や、過ごす時間の「質」を高める。
そうした姿勢を好意的に感じる人が増えているのが、今の時代です。だからこそ地方の生存戦略として、人への寄り添い方をみんなで丁寧に見直していけたらいいなと僕たちは考えています。
北川雄士/Yuji Kitagawa
滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(Twitter/Facebook)
(編集:佐々木将史)
【しがと、じんじ。について】
“滋賀ではたらく魅力を再発見する”『しがと、しごと。』プロジェクトの一環で運営される、ローカルで採用活動に取り組む人事担当者のコミュニティです。
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