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会社の“根っこ”を張る仕事なんです。──SHIMADA・士野知明さん

従業員数58名。平均勤続年数は11.9年(6年未満の新卒社員9名を含む)。2017年3月から3年間の離職数は驚きの「0」——。

これは滋賀県東近江市に本社工場を構え、害獣・害虫駆除用などの粘着シートを製造販売している『株式会社SHIMADA』の、成長の“裏”にある数字の一部です。

社員さん自ら「悪いところを探す方が正直、難しい(笑)」と公言するほど、働きやすい環境を実現している同社。そのなかで2015年から人事担当をされている士野知明さんに、今回はインタビューをさせてもらいました。

「人に向き合う仕事を『やっつけ』でやらない。そこに尽きると思ってるんです」

採用を一手に引き受けながら、総務部長として一人ひとりに合ったキャリア育成をしている士野さん。ご自身のモチベーションの背景や、何年経っても慣れない「つらさ」、今後取り組みたいことなどを語っていただきました。

突然の指名から、誰もわからない「新卒採用」へ


——士野さん自身は、15年ほど前に中途採用でSHIMADAに入社したとお聞きしました。もともと、どんな仕事をされていたんですか?

人材派遣業界で、事業所管理や労務管理の仕事をしていました。ところが、寝る暇がないくらい忙しい会社で働いていて、一度体を壊してしまったんですね。

なので、「もう管理の仕事はしたくない」「頭じゃなくて体を使う仕事をさせてほしい」と思って、SHIMADAに転職したんです。最初は物流部で、その後は資材購買部、製造部と経験していきました。

娘と自撮り2

娘さんと一緒の写真をご提供くださった士野知明さん

——「人」に関する仕事から、一度は離れられたんですね。そこから、なぜ人事に……?

管理職になるにつれて、やはり部署内での労務管理や育成、パートさんの採用などをやるようになっていたことは、理由の一つかなと思います。

それでも人事に指名されたのは突然でしたね。ちょうど6年前(2015年5月)のある朝に、社長に呼ばれて。「実は、新卒採用をやっていきたいんだ」と相談されたんです。

——採用担当として、いきなり白羽の矢が立ったんですね。

しかもその新卒というのが、次の春入社の社員だと。あまりに急過ぎてしばらくフリーズしていたと思います(笑)。

というのもそれ以前、SHIMADAには人事の専任がいなくて、中途採用もみんなで手分けしながら面接してたんですね。新卒については誰も何もわからない状態でした。

ただ、社長は商品開発にしても何にしても、もともと“超”が付くスピードスターなんです。会社にとって「人」が一番重要だということも常々言われていたし、もう開き直って「やるしかない」と頭を切り替えました。

人を相手に「やっつけ仕事は絶対しない」


——会社として初の新卒採用。具体的にはどう進められたんですか?

まずは自分で必死に調べましたね。どうやって募集をかければいいのか、どう説明会をやればいいのか。また1年目は、採用支援をしている会社にうちのチームに加わってもらい、担当の方に一連の業務を手伝っていただきながら、隣でやり方を学んでいきました。

もともと品質を含めた商品力・営業力には定評をいただいていましたし、雇用条件も十分いい。当時は2011〜12年ごろにテレビ番組『ほこ×たて』で取り上げてもらっていた頃の認知も多少残っていたので、とにかく学生さんへ丁寧なアプローチをしていくうちに、「2人」の枠に約300人の応募をいただくことができました。

——300人はすごい成果ですね。

何よりまず「今の学生さんって、こんなにしっかりしてるんだ」と驚きました。こちらが圧倒されるくらい、純粋な気持ちと覚悟を持って応募いただく方が何人もいて。

でも、うちは「2人」しか採用できないので、残りの290人以上はどうあっても不採用になるんですよ。そのことがもう、すごくつらかったですね。

——いい人に出会えているのに、全員を選ぶことができない。

なので当時から今もずっと、不採用通知をつくるときは必ず一通一通、きちんと自分でつくるようにしています。すごく細かいですけど、書面や返送する履歴書などを折らずにクリアファイルに入れるとか、封筒の宛名を手で書くとか。どうしてもと思う方にはメッセージも添えます。

それは「思い上がるなよ」という自分への戒めでもあるんですが、やっぱり何年やってもつらい作業ですね。ただ、一人ひとりちゃんと向き合っていると、最終的に学生さんが晴れやかな言葉で、別の道に進む決意を教えてくれることもあります。

やっぱり人が相手である以上、どれだけたくさんの方がいようとも「やっつけ仕事」だけは絶対にしちゃいけない。これは人事の仕事において、一番大切なことじゃないかなと思います。

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採用を通して、会社の“根っこ”を張っていく


——採用を「やっつけ仕事にしない」ために、他に意識していることはありますか?

「書類だけで選考しない」ということですね。これも一貫して続けています。

一度は必ず、相手の顔と表情を見て、言葉を聞いて目を見ながら話す。今のコロナ禍ではWeb上がメインになりますが、それでも絶対に書類だけではわからないものがあるんです。

——全員と対面……!重要とはいえ、担当は今も士野さん一人です。大変ではありませんか?

説明会にも面接にも、他のいろんな部署に応援を頼んでいます。もちろんメインは私だけなので、何百人も応募いただくと、3週間ずっと朝から夕方まで面接……なんてこともありますけどね。

——なぜ、そこまでできるんでしょうか?

応募者の方と話すと、こちらも本当にたくさんのこと教えてもらえるんですよ。疲れていても、相手のひたむきさ、真剣さにパワーもたくさんもらいますし。

でも一番の理由は、素直にやりがいがあるからだと思いますね。会社を木に見立てたとき、自分は採用や育成を通して、会社の“根っこ”を張る仕事をしていると考えています。他の部署が外から見える“幹”や“葉”のことをしっかりやってくれてるだけに、自分が根をしっかり広げていく大切さは常に感じますから。

——“根っこ”が広がってきたなと実感する瞬間はありますか?

去年ぐらいから感じています。これまで会社としてやれていなかったことに、新卒で入った人たち(5年間で入社した9名)がどんどん挑戦してくれてるんです。

例えばうちの公式サイトは今すべて、彼らが部署を超えて運営してくれてますね。また、社内報も昨年の秋に始まって以来、すでに4号発行されています。これがなかなかの出来栄えなんですよ。

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インタビューから社内キャンペーンまで、多様なコンテンツを揃える社内報(画像は第4号:巻折6pの構成)。号を追うごとに内容を充実させています

広報の専門知識など何も持っていない素人だったところから、自分たちで勉強して考えて、ここまでのことをやってくれる。社内のいろんな場所で一気に花が咲いてきた感覚があって、すごくうれしいですね。

「これがしたい」の応援で人は育つ


——新入社員をはじめ、一人ひとりが成長できるよう、研修などにも力を入れているとお聞きします。

そうですね。ただ、個別の目標はありますけど、あまりこちらから特定の技術を学ばせるようなことはしていません。自分に必要なものを、自分で選んでもらいます。

外部研修やeラーニングのプログラムを自ら探してくることも多いですね。その人の仕事やスキルアップにつながるならお金を出して応援するから、「思い切ってやっておいで」というスタンスです。

——自分で学ぶ内容を決めるから、主体的な取り組みがたくさん生まれるんですね。

もちろん私からも、「こんな研修もあるよ」と提案することはあります。またスキルアップ以外にも会社の歴史的な背景、人やモノに向き合うときに大切にしてほしい意識などは、日頃から各チームや個人に繰り返し話すようにしていますね。

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意識改革に力を入れるのはもちろん、何かあったときの「仕組み化」も大切な仕事

——人を大事にする士野さんの姿勢が、よく表れている気がします。

でもそれはやっぱり、会社の考え方が大きいですよね。一人ずつに「幸せのタネ」みたいなものを包んで渡してあげて、しっかりと育ててあげる。そんな風土があると感じてます。甘やかしはしないけれど、人に温かいというか。

社員がほとんど辞めないのも、そういうSHIMADAをみんなが好きだからだと思います。

——長い目で人を育てる会社の風土を、みなさん感じながら働いているんですね。

社長がよく言うんです。大事なのは学歴とかじゃなくて、「現時点で何ができるか」と「何がしたいのか」だと。

もうその通りですよね。なので、自分から意欲を出してやって来る人には、こちらもできるだけ応えていきたいなと思っています。

「一生懸命にやる」しかできなくても


——士野さん個人としては、今は何を意識して人事をされていますか?

何か起きたとき、後から知って「助けてあげられたかも……」と悔しい気持ちになることがあるので、もっと気軽に声をかけてもらえる人間になりたいなと思っています。

一人ひとりが今どういう状態にあるのかは、面談はもちろん、一緒に仕事をするときや現場にちょっと出向いたときに、気づかれないよう観察しています。ただそれではわからないこともあるので、みんなにもっと信じてもらって、何でも話をしてもらえる人事でいたいですね。

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——今は新卒採用を中断されていますが(離職が少ないため)、今後はどのような活動をされていきますか?

2年後くらいにまた募集を再開すると思うので、打ち出し方からインターンシップ、選考方法まですべて見直そうとしています。理想を言えば、新卒か中途かといった枠組みを取り払って、「チャレンジしたい人」がどんどん活躍できるような環境を用意したいですね。

「ここを伸ばしたらこの人すごいだろうな」と思えるような、きらりと光る人を見つけていけたらいいなと考えています。

——これから来る方には、どんなことを伝えていきたいですか?

まずは目の前のことに全力で取り組んで、そこから見えてきたものを自分で選別して進んでいくといいんじゃないか、とは思っています。

というのも、自分が昔は本当にダメダメな社員だったんですよ。もうここで言えないくらいのレベルで(笑)、人に教えてもらったこともぜんぜん理解できなかったんです。

ただ、無我夢中でやりながら、してもらった話を聞きもらさず心に留めてきたことは、今になってちゃんと役立ってきています。だから遠回りに見えても、悩み過ぎずに「やってみること」が実は成長の近道なんじゃないか、という話はしていきたいですね。

——最後に「ローカル人事」の一人として、士野さんが大切だと考える視点を教えてください。

数千人、数万人を相手にするわけではないなかで、「地方の中小企業にしかできない」採用や育成の方法が必ずあると考えています。

それこそ効率重視ではなく、心を込めて一人ひとりにしっかり向き合うとか。私自身も「丁寧にやる」「一生懸命にやる」ぐらいしかできないんですけど、そういった姿勢を持つことがそのまま、実は会社のためになっていくんじゃないかなと思っています。

——実際に、「やっつけ仕事は絶対しない」士野さんの姿勢と、会社の風土がちゃんと結びついて今のSHIMADAさんの姿があるんだなと思います。今日はどうもありがとうございました。

(取材・執筆/佐々木将史、編集/北川雄士、アイキャッチ/武田まりん


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“滋賀ではたらく魅力を再発見する”『しがと、しごと。』プロジェクトの一環で運営される、ローカルで採用活動に取り組む人事担当者のコミュニティです。

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