人事のための面接ハンドブック⑩ 自社の「事情」の伝え方
面接の中で、人事から求職者に伝えたい「想い」「魅力」「事情」の3要素。前回は2つ目の「魅力」について、仕事内容・社風・人の切り口に分けて考えてみました。
最後は、3番目の「事情」です。一見ネガティブ要素のように見える項目ですが、隠さずにきちんと伝えることが、間違いなく良い採用を生むと僕は考えています。
「事情」は「魅力」の裏返し
「事情」とは、簡単に言うと自社で働くうえでのマイナスポイントです。前回伝えた「魅力」の裏側を見るとわかりやすいでしょう。
仕事内容で考えてみます。例えば、幅広い領域を担当できたり、大きな裁量を持たせてもらったりする裏には「人手不足」や「決裁ルールがあいまい」といった事情がありませんか?事業が大きく成長しているのであれば、「全く新しいことを突然任される」といった側面が必ず潜んでいます。
社風も同じで、自由の裏側には「イレギュラーなことがあっても各自で対応してね」という文化があったりしますよね。逆にルールがしっかりしていることが魅力な組織では、「個人の裁量が少ない」場合もあるでしょう。
人についても、メンバー間の距離の近さには「割り切って付き合いづらい」面があることは事実です。うまく馴染めない人にとっては、すごく居心地が悪くなる可能性があります。
このように、「魅力」の裏には何らかの「事情」が必ず存在する。人事はそれをきちんと整理し、求職者に伝えなくてはいけません。
誰もが「絶対に良い」と考える仕事はない
ここでのポイントは、すべての人にとって「絶対的に良い」仕事など、存在しないという前提を受け入れることです。言い換えれば、事情まで含んでなお「魅力」と感じるかどうかは、その人次第ということになります。
例えば「残業」ひとつとっても、“どれだけ好きな仕事でも時間外までは働けない”と考える人もいれば、“大事なプロジェクトのためなら多少は頑張れる”人、“自分の成長のためなら時間の長さは全く苦にならない”人……捉え方は全く違います。
注意が必要なのは、「人がどんな軸で仕事を選ぼうとしているか」は外から簡単にわからないこと。そこで人事側が魅力だけを伝え、事情を隠してしまうと、入社後に「こんなはずじゃなかった」とミスマッチが生まれてしまいます。
逆に両面をきちんと伝えれば、魅力のほうに強く惹かれてくれる人が、「事情はわかっています」と腹積もりをして入社してくれる。この同意があるだけで、後々のトラブルはぐっと避けやすくなります。同時に、マイナスに見える要素をちゃんと言ってくれた「誠実な人事」を入社後も信頼し続けてくれるでしょう。
『伝える』の最後は、再び「想い」で
求職者が「魅力」と「事情」の折り合いをつけることを、僕は『積極的な妥協』と呼んでいます。
仕事選びにおいて、すべてが求職者の欲求通りいくわけではありません。でも、それを「自分が妥協したことを積極的に選んだ」と思えれば、気持ちも前向きになれます。「魅力と事情をあえて両方伝えるのは、自身の手で前向きな選択をしてほしいからだ」と、ぜひ人事は面接の過程で伝えてあげてください。
もちろん、「事情」ばかりを伝えるとネガティブな印象が強まってしまいます。そこで、僕はいつも最後に1つ目の「想い」を伝え直します。ここも大事なポイントですね。
今の状態に決して満足してるわけじゃなく、「もっとよくしていきたいと思ってるから今採用をしてるんです」と、「だから一緒に働きましょう」と、もう一度熱を込めて伝える。入社へのモチベーションも高まりますし、いざ入ってからも「ひとりじゃない」「この人がいたら何とかなる」と思って頑張ってくれます。
ぜひそうした存在になれるよう、上の流れをイメージしながら求職者にかける言葉を考えてみてください。
(第11回『「条件」の聞き方・伝え方』に続きます。)
(編集:佐々木将史)
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