企業の『福利厚生』どう考える?今と未来の正直な伝え方
採用のシーンで、求職者に問われることも多い自社の『福利厚生』。年間休日数、社内制度の有無などは横並びで比較をしやすいだけに、人事として気になる場面もあるかと思います。
特に地方の中小企業にとっては、都心に本社を置く大企業などの施策と「同じもの」を求められても、実現が難しい場合もあるでしょう。
とはいえ、「福利厚生が薄いから、うちは採用力が弱いんだ」と直結して考える必要はありません。本当に大事なのは、嘘をつかずに今を正直に語ること。そしてどこまでできるかの未来を誠実に示す、丁寧なコミュニケーションのほうにあります。
全員が納得する『福利厚生』はない
『福利厚生』を考えるときに、前提となることが二つあります。一つは、「無いよりあるほうがいい」。そしてもう一つが、「どこまでいってもゴールはない」。
「無いよりあるほうがいい」は企業側(経営者・人事担当者)にとっても、もちろん社員・求職者にとっても共通の認識だと思います。特にこれだけSNSが広がった時代には、従業員をサポートする気のない会社の評判はすぐに広がって、どんどん人が来なくなります。
適切な休日の取得、法に則った社会保険等への加入。最近では産育休への向き合い方なども社員・求職者ともにしっかり見ているので、企業として放置できるものではありません。それらをきちんと満たしたうえで、「より働きやすい環境を整えていく」ことは人事担当の大きな役割になります。
一方で、細かな制度となると「どこまでいってもゴールがない」のも事実。どうすれば満足するかの基準は一人ひとり違うなかで、全員が100%「これ以上は要らない」という状況をつくることは、ほぼ不可能と言っていいでしょう。
充実させればさせただけ、多くのコストがかかるのも福利厚生の側面。コスト分の売上を確保しようとするあまり、逆に現場の負担が増えてしまうケースもあることも、理解しておく必要があります。
比べず、目の前の人とコミュニケーションしていく
そうした前提のもと、人事に求められる姿勢がまた二つあります。「比較しすぎない」ことと「声をきちんと聞く」ことです。
「比較しすぎない」とは、一般的に求められるラインをきちんと意識しつつも、他社と「あそこよりも良い」「うちは悪い」といった比べ合いをしないことです。これが加熱すると、応募条件を実情以上に“盛って”しまったり、自社の制度を卑下し、社内のモチベーションを下げてしまったりすることになります。
(以前のコラムにも書きましたが、正直に内情を伝えて「期待値のズレ」を調整することが、長く働いてもらうためにはとても重要です)
人事がいくら比較検討をしても、その条件を自社の社員が、あるいは自社を検討している求職者が本当に求めているとは限りません。仕組みだけあって、実際ほとんど使われていない福利厚生制度も、現実にはたくさんありますよね。
だからこそ、「声をきちんと聞く」ことが大切になります。社員が何か意見をあげてきたときに、取り入れられそうな提案ならしっかり取り入れていく。ハードルが高いのであれば何が難しいかをちゃんと説明して、できるラインを示したり、社員側にも受け入れてもらう条件を提示したりする。
当たり前の話ですが、コミュニケーションをきちんと取ることが重要です。そこを「うちでは無理です」「それはできないから」など、一方的に対話のシャッターを下ろすような姿勢を取ってしまうと、組織への不信がどんどん膨らんでいきます。
これは福利厚生に限らず、実は事業運営のあらゆる場面で起きうることでもあります。
今を正直に伝えながら、未来のベクトルを示す
特に採用のシーンでは、つい「良いところを見せたい」という心理が働くことがあるでしょう。福利厚生はその点で、お互いに利用しやすい切り口です。でも、そこでないものを「ない」と誠実に伝えることも、実はとても大切です。
もちろん「ある」企業に惹かれる人もいるでしょうが、世の中の人がすべてそういった価値観で動くわけではありません。ローカルで活動していると、都会ほどモノやお金はなくても豊かに働き、暮らす人がたくさんいます。
最近は若い世代からも、そういった傾向を強く感じるようになってきました。例えば上のアンケートは先日、当社で講義枠をもらってお話した大阪府立大学で、学生さんに「地方就職は選択肢に入るか?」を聞いたものです。
8割の人が「YES」と答えた背景には、それぞれにきちんと理由があり、自分のキャリアや人生を前向きに考えていることが伺えます。
もう一つ、今回の話を通じて改めて人事の方には、自社で「誰を採用したいか」を見つめ直していただければと思います。
必要なのは、本当に「福利厚生が充実しているから」で来る人なのか。以前に上の『面接ハンドブック』でも書きましたが、面接で自社のことを伝えるときに一番大事なのは、「想い」や「魅力」のはずです。ならば、まずきちんと向き合うべきは「ここの会社で、こんな仕事ができるから」という動機を持ってくれる方ではないでしょうか。
そういった応募者に対し、いきいきと長く働いてもらうために充実させていくのが『福利厚生』であり、順番を間違えてはいけません。現状を正直に伝え、その先に「こうしていきたい」という未来へのベクトルを示すことができれば、僕はローカルでも人はきちんを採用できると考えています。
北川雄士/Yuji Kitagawa
滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(Twitter/Facebook)
(編集:佐々木将史)
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