吉野拾遺 上 13 中納言藤房卿ステ文ノ事
【中納言藤房卿ステ文ノ事】
おなじ比、大納言実世卿の御許へ、わらはの御ふみもてきたりけるを、見給はせければ、
君が住むやどのあたりを来てみれば むかしにぬらすすみぞめの袖
御手もさながらむかしにかはらぬを、あはれとおどろかせ給ひて、御使の童をめしよせて、とはせ給へば、今朝西なる野べにいでて、草をかりはべるに、やせおとろへたる修行者の、このふみとどけてよとおほせさぶらひしといふに、いそぎ皇居へ参り給うて、大和、紀国、河内、せきせきにみことのりして、修行者をとどめけれども、それともおぼしきもあらざりけらし。中納言藤房入道の御手にてありけり。
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