吉野拾遺 下 15 康村長重狂歌ノ事
【康村長重狂歌ノ事】
瀧口長重が武蔵守師直皇居をおそひなんとしける時、いちはやく落ち行きけるをしらで、跡にて尋ねられけれども、見えざりければ、源康村
みよし野にありとききこし瀧口が おちては名をもながしけるかな
といひけるをつたへききて、やすからずおもひ、いかにもして、此の返しをせんとうかがひけるに、よしの川の水上のほとりのさかひを、山人のあらそひてうたひけるを、康村に仰せられてさかひを見にゆきてかへりなんとするに、年老いにければ、しばらくうちやすみやすみしける程に、うたへ人ははやく参りて、けいだん所に待ちゐけるほどに、大理のやすむらを尋ねさせけれども、いまだかへり給はずといふ。はるかにまたせて後にかへり来て、しかじかなんといひけるを
よしの川其のみなもとをただすみの 老いにけりとてなどやすむらん
といひしぞ。いとをかりかりし。
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