吉野拾遺 上 03 稲荷明神臨幸ノ道ヲ照シ給フ事
【稲荷明神臨幸ノ道ヲ照シ給フ事】
おなじ帝、花山院をひそかに出御ならせ給ひて、大和のかたへにもむかせ給ひけるに、いとくらき夜なりければ、御供にさぶらひける人々、いかにせむとわびあへるをきかせ給ひて、「ここはいづくのほとどにか」とたづねさせ給ひければ、忠房の侍従、「いなりの御社の前にこそ」と奏し給へば、御歌、
うばたまのくらきやみぢにまよふなり われにかさなむみつのともし火
とて、伏し拝ませたまひければ、御社のうへより、いとあかき雲一むら立出で来て、臨幸の道をてらしおくりて、やまとの内山にいらせ給へば、雲は金のみたけの上にて消え失せにけり。まさしく御供に侍りてことにこそ。
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