吉野拾遺 下 05 鷹怪鳥ヲトル事
【鷹怪鳥ヲトル事】
今上御位につかせ給ひし初つかた、伊予国大館左馬介氏明のもとより、世にためしなきほどの逸物なりとて、はい鷹一もと奉られしを、大納言隆資卿にあづけさせ給ひて、をりをり御覧ぜさせ給ひけるに、誠に勝れたり。其の比皇居のうへなる山のしげみより、夜な夜な出でてからすの声に似て、内裏にひびきわたりてなくを、あやしき鳥にてあらんと、武士に仰せて射させ給ひけれども、所さだめざりければ、かれもこれもかなはでやみにけり。或時かの鷹を麓の野べにて雉子に合せ給ひけるに、雉子には目もかけで、山のかたへそれ行くを、「さしもかしこうおぼしめす御鷹を」とて、行くかたにむらがりゆくに、しべみのうちに入りけるを、いかにせんとて、まもり居けるほどに、つるの大きさなるくろき鳥をおい出して、空にてくみあひ、ともにおちけるを、人々よりて怪鳥をころしてけり。かたちはからすのごとくにて、左右のつばさをひきのばして見れば、七尺あまり有りけり。鷹も胸のほどを喰われて、しばしのほどありて死にけり。夜な夜な鳴きつるは、此の鳥にてや有りけん。其の後は音もせざりけり。いづれにただごとにてはあらじとて、ふたつの鳥を塚にこめて、その上にちひさき社をたてて、鳥塚といひて正にありける。いとあやしきことこそありつれ。
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