吉野拾遺 下 18 嵐山ノ事
【嵐山ノ事】
弥生の比、日のうららかなるに、女院の御所の御庭に、散りつもりける花の、いと多かりければ、とものみやつこめさせ給ひて、一ところに集めさせ給へば、高さ五尺ばかり程の山のなりに在りけるを、いと興ぜさせ給ひて、よしのの花をうつしし山なればとあらし山と名づけ給ひて人々に歌よませ、上にも奏し給ひければ、あすのほどにわたらせ給ひてのたまはせ給ひけるに、その夜、風のはげしく吹きて、いふかひなく成りにけり。つとめて弁の内侍のかたへ、兵衛のすけのつぼね、
みよしのの花をあつめし山の名も けさはあらしのあとにこそあれ
とありけるを、奏し給ひければ
千早振神よもきかず夜のほどに 山をあらしの吹さちらすとは
とのたまはせて、いさいたうをかしがらせ給ひけり。