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抄訳”Leading With Vision”-第1回”CompellingなVisionとは?”
株式会社シフト・ビジョン取締役の梯(かけはし)です。
弊社は「ビジョンシフトでクライアントを ネクストステージに」を自らのビジョンとして、経営トップチームの新ビジョン構築、経営陣の連帯醸成・育成開発支援、組織構造と人財マネジメントの見直し等を通じてクライアント企業が次のステージに進むまで責任を持ってコンサルティングを行っております。
弊社の社名「シフト・ビジョン」の由来になりましたのが、上記写真にあります”Leading With Vision”という書籍です。本書はBonnie Hagemann、John Maketa、Simon Vetterの三人の著者が2017年に米英二か国で発行したものです。
残念ながら本書には日本語版がございませんので、英語が苦手な方にも弊社が目指す「シフト・ビジョン」をご理解頂きやすいよう、これからいくつかの章立てで、本noteにメインコンセプトをご紹介していこうと思います。
1. CompellingなVisionとは?
本書で挙げられているVisionの定義は次のようなものになります。
・Vision is a clear picture of a positive future state. ビジョンとは前向きな将来の状態を示す明確なイメージを指す。
・The vision answers, indirectly, the question of where the company is going. ビジョンは会社の方向に対する疑問を間接的に答えるものである。
この定義だけを見ると昨今流行の”Purpose”との違いはさほど無いように思えます。実際本書でも著者は”Vision”を”Purpose”と同義に使っているところがありました。
ただ本書に"Vision"と共に頻繁に登場する形容詞に”compelling"があり、そこに特徴的な意味合いがあります。
Cambridge Dictionaryによると”compelling"について次のような説明があります。
If a reason, argument, etc. is compelling, it makes you believe it or accept it because it is so strong: 理由や論拠がcompellingという場合、それが強固で信じたり受け入れたりせざるをえないものを指します。
また、Weblioによると次のような訳語があります。
人を動かさずにはおかない,注目[称賛]せずにいられないような
これらの訳語から見ると”compelling"は「それに係る人の心をつかんではなさない、その人を動かさずにはおかない」という意味だと捉えられることができるでしょう。
”Compelling Vision”すなわち「人の心をつかんで、動かさずにはおかないビジョン」。日本企業でも”Compelling Vision”と言えるビジョンを持つ企業はあります。例えば猫用のおやつ『 CIAOちゅ~る』で有名なイナバ食品株式会社のスローガンで工場の壁面にディスプレイしている「世界の猫を喜ばす。」はそこで働く人が会社の将来の方向性について全く疑念を持たせないようなパワフルなものと言えるでしょう。
本書の著者は、組織に"Compelling Vision"があれば、働く人のモーチベーションを高め、鼓舞することができ、組織が人を採用し引き留める上で真の差別化要因になり、不確実な時代でも競争力があり目標に向かって前進できる組織になる、といいます。
・It is designed to provide people with the compelling reason to make progress toward that state and accomplish the organization's goals. ビジョンはそこで働く人がその状態に向けて前に進み、組織のゴールを成し遂げざるをえないと思える理由を与えるものである。
特に2025年までに働き手の75%を占めると言われるGeneration Y、1980年代・90年代生まれの世代、を率いて行かなくてはいけないLeaderにとってこの”Compelling Vision”が不可欠だと言います。
格好良い職場環境、高い報酬、素晴らしい福利厚生が揃っているだけでは彼らGeneration Yを惹きつけることはできません。彼らはその職場で与えられた仕事がモーチベーションを高め、刺激的で、参画意識・連帯意識("a sense of connectedness")が高まるようなものでなければすぐに辞めてしまうからです。
また、彼らはEBITDAのような財務目標・数字では動きません。彼らは自らの価値観に沿った、働く意義を感じられる職場を求めています。
Gen Y isn’t interested in spreadsheets, because they don't believe that a company is a group of numbers. They believe that a company is a group of people with a story to tell. You can't woo them with numbers, but you can win them by offering them an important part in the story. GenerationYはスプレッドシート(すなわち数字)には興味は無い。なぜならば会社は数字の集まりだとは思っていないからだ。彼らは会社は同じストーリーを語る人の集まりだと思っている。したがってリーダーは彼らを数字で納得させることはできないが、会社のストーリーの一部を担う役割を提供することで心を掴むことができる。
そして彼らをやる気にさせると次のような行動を自ずととるようになります。
"People being courageous and decisive, taking initiative and calculated risk, enthusiastic and joyful to be part of an exciting journey" (”Compelling Vision”がある職場では)働く人が勇敢で決断力を持ち、自ら責任を持って計算されたリスクをとり、Vision達成過程に参加していることを楽しんでいる。
2. 階段を一度に二段上がらざるをえないような気持ち
本書では先の”Compelling Vision"を持っている事例として、スポーツ用品の販売で有名なPatagoniaが挙げられています。
同社の”One percent for the planet"というVisionを具現化することで、Patagoniaで働く人々は自然と次の行動をせざるをえなくなる、と同社のCEOであるChouinard氏は言います。
"Work had to be enjoyable on a daily basis. We all had to come to work on the balls of our feet and go up the stairs two steps at a time" (Compelling Visionがあれば)仕事は毎日楽しいものにならざるをえないし、皆が毎日積極的に地に足をつけて出社し、階段を一度に二段上がらざるをえない。
階段を一度に二段上がらざるをえないようなワクワクした気持ちは、誰もが子供の頃に持った経験はあるのでは無いでしょうか?好きなTV番組を急いで見に帰る時、母親が作る美味しい料理を楽しみに家路を急ぐ時。そういった同様の気持ちを、働く人達が毎日職場に向かう際に持てるような”Compelling Vision”をLeaderは示す必要があるわけです。
しかし多くの企業ではVisionをそこで働く人とつなげることに成功していません。有名なNetflixの”Freedom & Responsibility"というスライドの冒頭には次のようなフレーズがあります。
・Lots of companies have nice sounding value statements 多くの企業には立派な経営理念があります
・Enron had a nice‐sounding Value Statement with 4 Values: Integrity, Communication, Respect, Excellence エンロンにも立派な4つの価値観がありました。高潔、コミュニケーション、尊重、卓越の4つです。
・Their 4 values were chiseled in marble in the main lobby, but had little to do with the real values of the organization 彼らの4つの価値観は正面玄関の大理石に刻み込まれてはいましたが、組織の本当の価値観とは全く関係の無いものでした。
破綻したEnron社のように、単なるお飾りやお題目のようなVisionではそこで働く人を動かすことはできません。
事業に携わるリーダーチーム、従業員、顧客がすべて同じ一つのCompellingコンセプトを通じて「心から」つながりあって初めて、従業員はこれまでと異なることを実現しようとしているのだ、その組織の成功ストーリーの重要な役割を担っているのだ、と感じることができるのです。
以上を要約しますと次の通りとなります。
働く人達、特に2025年までに働き手の75%を占めると言われるGeneration Y世代の人達は、財務目標や数値で動くのでは無く、事業に携わるリーダーチーム、従業員、顧客がすべて同じ一つのCompelling Visionすなわち「人の心をつかんで、動かさずにはおかないビジョン」を通じて「心から」つながりあって初めて、これまでと異なることを実現しようとしているのだ、その組織の成功ストーリーの重要な役割を担っているのだ、と感じることができるのです。
そして、Compelling Visionによって心を動かされた人達は勇敢で決断力を持ち、自ら責任を持って計算されたリスクをとり、Vision達成過程に参加していることを楽しんでいる、「まるで階段を二段かけあがらざるをえないような気持ち」になります。
それでは”Compelling Vision”をどうやって働く人とつなげることができるのでしょうか?
(続く。本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。)