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2024年注目の経営人事キーワード...今年の共通テーマは「組織を超えた個人・社会目線での人事」

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

株式会社シフト・ビジョン取締役の梯(かけはし)慶太は2022年より毎年末注目の経営人事キーワードを発表してきました(2022年のキーワードはこちらで、2023年のキーワードがこちら

注目の経営人事キーワードの変遷

今年も2024年の注目キーワードを4つ選んでみましたので本稿でご紹介させていただきます。今年のキーワードの共通テーマは「組織を超えた個人・社会目線での人事」です。

1. 「ソーシャル・エンゲージメント」

今後20年間にわたって、Z世代、さらにはその先のα世代と言われる世代が就労人口でマジョリティを占めていきます(Z世代:1997年から2012年生まれで現在11歳から26歳の年齢層の若者、α世代:2013年生まれ以降の世代で現在幼少期や学童期の子供)。

Z世代はそれ以前の世代からは「やる気がない」「扱いにくい」と言われ、また必要最低限の仕事しかしない「静かな退職者(Quiet Quitting)」とも揶揄されています。

一方、Job総研による調査によると日本では40台を中心に2-3割と言われている副業・兼業割合ですが、米国では既にZ世代では5割以上が副業・兼業従事者だと言われています。これにより「昔はフルタイムの仕事1つでよかったが今は仕事を掛け持ちしないと食べていけない。1つの仕事に割ける熱量が下がるのは当然だ」(日経新聞2023年12月6日「米国Z世代の5割が副業 本業の熱量低下も起業意欲強く」)という状況が生まれています。

人的資本経営が叫ばれる中、組織とのロイヤルティやコミットメントを重視する「従業員エンゲージメント」や「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」 (熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)に関する「ワーク・エンゲージメント」KPIとして外部へ開示する企業が急速に増えています.

しかし、今後Z・α世代が就労人口のマジョリティを占めると、彼らは先に見たように兼業・副業にも熱心で、このため本業である「組織」や「会社」だけではなく、「社会」的なものへの意識が能動的に働くときの極めて重要な原動力となっているため、これまでの「従業員エンゲージメント」や「ワーク・エンゲージメント」をカバーしたサーベイだけでは彼らのエンゲージメントを測定するのが難しくなります。

このため今後、企業は自らの「組織」目線でのエンゲージメント把握では不十分で、「社会」目線でのソーシャル・エンゲージメント(「社会への志向性の強さ」)への配慮が必要になっていくでしょう(パーソル総合研究所2023年12月14日「「社会」へのエンゲージメントが仕事で活躍し幸せを感じることに導く――ソーシャル・エンゲージメントとは何か」)。

そのためには「組織」や「会社」は従来型のエンゲージメント・サーベイでの質問内容をソーシャル・エンゲージメントの観点から見直し、また「組織」を超えたエンゲージメントの把握ができるような仕組み作りが必要となってくるのではないでしょうか。

2. 「プレスキリング」

少子・高齢化が進み、AI(人口知能)の導入で仕事の自動化が進む中、仕事に求められるスキルやコンピテンシーは短期間で陳腐化するため、それらを更新するためのリスキリングやアップスキリングが日本企業でも大きな課題となっています。

しかしながら、マンパワーグループのCIOであるトマス・チャモロ=プレミュジックによると、AIや仕事の自動化で労働者の仕事を奪うのは、実はAIそのものでは無く、AIを使う「人」である可能性が高いことをデータが示していると言います。(DIAMONDハーバードビジネスレビュー2023年12月19日「不透明な未来でも通用する人材を育てる5つの方法」

組織はテクノロジーに1ドル費やすごとに、人材と関連するプロセスに9ドルを投資する必要がある。たとえば、適切なスキルセットと潜在能力を持つ人材の特定、適切なスキルの向上、適切なチェンジマネジメントプロセスの実現、従業員が潜在能力を発揮するための環境づくりなどである。(中略)デジタル・トランスフォーメーション(DX)の成否を分けるのは、実際のテクノロジーではなく、文字通り人的要因である人材だ
したがって、私たちには、リスキリングやアップスキリングだけでなく、「プレスキリング」が必要だ。将来の仕事や必要とされるスキルがわかる前から、人材を将来に向けて育成し、人々のキャリアの再構築を支援することである。

出典:DIAMONDハーバードビジネスレビュー2023年12月19日「不透明な未来でも通用する人材を育てる5つの方法」

「プレスキリング」にあたって重要なのは、①潜在能力への注目(ハードスキルよりもソフトスキル、技術的専門知識・過去の職歴よりもエンプロイヤビリティ)、②重要な(データに基づく)フィードバックの提供と自己開示(セルフ・ディスクロージャ―)、③才能の幅を広げる(「新たな」強みを伸ばす手助け)、④中間管理職(技術の進歩に対応し、新たなイノベーションから期待される価値の実現を組織内で推進できる推進者)への投資、⑤リーダーシップスキル(人々を効果的に協働させ、高い業績を上げるチームにするためのスキルを磨くこと)への投資、の5つが挙げられています。

 ますます加速化する技術の進歩の中、組織や会社は、流行に左右され新しいテクノロジーに右往左往しながらリスキリングやアップスキリングに着手する前に、こういった人材開発の環境・基盤作りができているのかを再チェックする必要がありそうです。

3. 「セルフ・オーサーシップ」

人的資本経営のもう一つのトレンドが、「キャリア・オーナーシップ」です。

これまで新卒で入社した会社が敷いたレールの上を走るしか無いと信じ込んでいた社員に対して、「人生100年時代、もはや就業人生すべてを一つの会社で生きていくのは無理」と突き放して、社員自らのエンプロイヤビリティを高めるよう積極的に支援する、というのが建前です。

しかしここでも多くの会社は中高年社員に対する遅すぎるキャリア・オーナーシップというコンセプトの啓蒙や、社内副業・転職を含めたキャリアパスの提供など、自らの「組織」目線での支援に終始していないでしょうか。それではどうしても利益衝突がある会社と個人の間でのせめぎ合いになってしまいます。

昨年末に発表されたMckinseyによる人事に必要な6つの変化。大流動化時代に優秀な人材を確保するために「既定のキャリアパスではなく、セルフオーサーシップを重視する」という視点は新鮮でした。

「セルフ・オーサーシップ」は”Immunity to Change”の作者であるRobert Kegan等が主張し始めたもので、Wikipediaによると彼はこの概念を次の通り定義しています。

"ideology, an internal personal identity, that can coordinate, integrate, act upon, or invent values, beliefs, convictions, generalizations, ideals, abstractions, interpersonal loyalties, and intrapersonal states. It is no longer authored by them, it authors them and thereby achieves a personal authority."

出典 Wikipedia ”Self-authorship”

要は出来合いの価値観とか信条とかに影響されるのでは無く、自己の信念、アイデンティティ、社会関係を定義する内的能力のことです。

キャリア・オーナーシップと言っても、まだまだ外的要因(例えば所属する組織内のキャリアパスや人事部門の誘導的なキャリアアドバイス)に左右されているではないか、そうでは無くて元々の価値観や信条まで掘り下げて自分で書き上げようではないか、という考え方です。

もちろん「組織」にとっても全くベネフィットの無い「セルフ・オーサーシップ」を支援する筋合いはない、ということになりそうですが、社員に他社の取り組みを模倣したうわべだけのキャリア・オーナーシップを啓蒙するのでは無く、就業生活を越えた長い人生を通じた彼らの価値観とか信条を書き上げることを支援したいものです。

組織構成員のキャリア・オーサーシップのレベルが高くなると、労働市場がタイトな中でも、優秀なタレントに「選ばれる」組織となり、またアルムナイなどを通じて新旧社員がお互いに刺激しあう組織になっていくのではないでしょうか。

4. 「ウーリッヒ・プラス・モデル」

人事の役割を4つに類型化したDavid UrlichのHRモデルが発表されて、既に30年以上が経過しています。日本でも外資系中心にHRBPが輸入されると、ここ10年の間にそれに追随するような形で人事部門でHRBP・CoEといった役割の類型化を導入する日本企業が増えてきました

とかく事業の関心と程遠いそれまでの労務管理中心の人事部門に不満を持っていた経営者にとって「ビジネス・パートナー」として人事部門が企業価値創造に貢献してくれるのであればそれに越したことはありません。

まだまだ「なんちゃって」HRBP(すなわち事業部門人事の読み替え)が多いとは思いますが、事業部門との積極的な対話を通じて少しずつ事業部門の単なる御用聞きでは無い、「真のHRBP」が育ちつつあるように思えます。

しかし変化の激しい時代に一つのUlrichモデルがどの企業にもあてはまるのはますます難しくなっています

ここ数年のHRでの最も大きな変革に、テクノロジーがあります。これまで長年の勘や積み重なった評判で判断してきた人事面での意思決定に、思い込み(”Unconscious Bias”)を減らすためのデータ・エビデンス重視の流れがテクノロジーの進化と共に大きな波として押し寄せています。

実際に米国で2018年以降急速に求人が増えている役割を見ると、HR Analytics Manager(第二位)、Diversity and Inclusion Manager(第三位)、Employee Experience Manager(第五位)などの新しい役割が従来型のChief People OfficerやHead of Rewardsと並んで上位を占めています(SHRM 2023年2月6日”HR Roles Among the Fastest Growing in US”)。

McKinsey & Companyは”How is the CHRO role changing?”で今回キーワードとして挙げた”The Ulrich-plus Model”を初めとする5つの新たなモデルを提唱しています。

それらのモデルを見ると、DX時代に対応するためにCoEをよりフレキシブルな形にし、厳選された少数のHRBP(ビジネス・パートナー)により重い責任を課していく流れが見てとれます。

例えば”The agile model”では、HRBPはトップマネジメントへのカウンセリング役に特化することで減らし、CoEはデータ、適正人員計画、DE&Iといった分野に適宜集中させていきます。

また”The employee-experience-driven model”では従業員エキスペリエンスで重要な領域、例えば新人研修に並外れた量の人材を投入します。これは業界内のトップタレント採用を渇望している企業がとるモデルです。

このようにUlrichモデルをベースに硬直的にHR組織をとらえるのでは無く、自らの事業モデルに沿った形で新たにHRの役割を捉え直すことこそ、本当の意味での”Ulrich Plus Model”ということになるでしょう。

(本記事の内容についてシフト・ビジョン社へより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。)









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