海外向け電子手帳(1) − コミュニケーション
創業的な話とか新規プロジェクトの話はザウルスの話を、ビジネスを拡大維持していく話がずっとトップシェアだった書院の話をさせていただきました。次は、コミュニケーションの話を海外向け電子手帳の話でさせていただきます。
パソコン、ワープロ、ザウルスの新規開発を経て、海外の電子手帳の仕事に移りましたが、私は海外相手の仕事の経験は全くなく、また英語力もお粗末だったので、新しい仕事のハードルは少し高かった記憶もあります。後で聞いたのですが、当時の事業部長が引っ張っていただいたらしく、係長として実務の責任者的に企画の仕事に携わることが出来ました。
国内のビジネスに関しては、コミュニケーションとか交渉の仕事はあまり必要がなかったり、交渉といっても前近代的な力や組織力、人間関係のつながりでゴリ押しするパターンが多いのですが、海外のビジネスでは多様な価値観を持った人たちがビジネスをする必要性があるため、国内よりかなり高度だと感じます。
米国のハーバード大学には交渉学研究所というものがあると聞いたことがありますが、コミュニケーションも交渉も、米国では学問として取り扱っているのです。多民族国家である米国では切実な問題かも知れません。違う民族、違う価値観の人達にどういう形で自分の主張を伝えて、良い落とし所を見つけられるかという発想は、単民族国家(本当はそうでもないのですが)で、「話せば分かる」という日本人には苦手な領域だと思います。
しかし、民族は変わらなくても価値観の多様化は進んでいます。日本国内においても、コミュニケーション力や交渉力は今後必須になってくるでしょう。
交渉の話で良く出て来る事例があります。二人の人でお互いに文句が出ないように、水とか牛乳を分ける話です。答えは一人が均等になるようにコップに注ぎ、もう一人が好きなコップを選ぶ、というものですが、これならば正確に同量でなくても双方から文句は来ません。このようにコミュニケーションや交渉には、ノウハウみたいなものがあるのです。
一度、ある場所で米国的な交渉力のセミナーを、英語の学習をかねて受けたことがあります。そこで教わったのは、①共通の認識を作る→②お互いのメリット・デメリットを明確にする→③妥協点、落とし所を議論する、という流れでした。
国内のビジネスをしていると、①をおろそかにしているケースが圧倒的にお多いと感じます。遠回りに見えても、①を行わなければ、交渉もコミュニケーションも始まりません。
私自身としては、電子手帳の仕様を米国の実務担当者に説得した体験があります。当時の英語力はTOEICで400点レベル、とても自分で交渉するような英語力は無かったので、部下に英語で説得してもらっていたのですが、ラチがあきません。ホワイトボードに、メリット・デメリットの表を書いて、どうだと聞いたら一発で賛同してくれました。
今考えたら、表を作ることで①の共通の認識を作るというプロセスをやっていたという事になっていたと理解できます。当時は思い付きでやっていたのですが、もっとシステム的に手順通りにやることは可能だと、今なら思います。
ビジネスの基本(10):交渉ではまず共通の認識を作る
これは交渉だけでなく、全てのコミュニケーションの基礎だと思います。また、日本人の苦手なものに、ダメ元で交渉するというものがあります。ダメ元ならまだ良いのですが、最初から遠慮してとか、最初からリスクを回避するために、あまり主張をしないというものです。これは私の経験だけなので、日本一般に共通することか分かりません。
仕事で体験した話でいうと、液晶テレビアクオスを店頭でデモするビデオを海外の会社から使わせてもらおうと交渉したという話がありました。お店から返してもらえなかったり、何か変なことに利用されたりするとシャープが訴えられると、社内の法務部門がストップをかけたことがあります。
もちろん、お店といっても別会社であり、シャープが全てをコントロールすることは不可能なので、その旨を映像の提供会社に説明し、快諾してもらって問題ない旨メールをもらって法務部門を説得しましたが、こういう話は結構日本にあるような気がしています。
もっとも同じ日本といっても、高度成長の頃の話をみると日本人が全世界を相手に、様々な交渉とか行っていましたので、日本人の性質というより、官僚化社会に染められた日本人の特徴の気がしますが、それをとても感じます。
それに比べて、東南アジアの人とかはとても積極的です。英語もお世辞にも上手いと言えませんが、積極的にチャレンジします。官僚化の中で日本人が失ってきたもの、それがこの積極性なのだと思います。
また欧米人はクールで日本人は感情的だと言いますが、米国人の男性などは意外と浪花節的なところもあり、こちらがこれだけ努力していると伝えると真剣に聞いてくれたり、人の根性とか努力を評価してくれる面もあると思います。いわゆる「ガッツがある」という感じです。海外で仕事をされている方で違う感想をお持ちの方も多いかも知れませんが、私の少ない経験からすると、そう感じることが多かったと思います。
ビジネスの基本(11):ダメ元で積極的に主張する
コミュニケーションといえば、文書とか資料の作り方とかも全然違います。欧米人の文書は詳細で量が多いですが、逆に提案資料とかは細かいところは外して論理の概要とポイントになるデータをチャートとか表で図示するだけです。
米国の空母にはマニュアルを置くためだけに一つ部屋があるといいます。また契約書などもかなりのボリュームになります。こういう詳細を記述する文書は膨大なのですが、逆にコミュニケーションに使うパワーポイントなどの資料は本当にポイントのみです。
多分、実務レベルで知るべき情報と経営や交渉で知るべき情報は彼らの中で明確に分かれているのでしょう。日本のように上から下まで細かい情報を知ろうとは思っていないと思います。欧米でも、プレゼンテーションは中身がないと最近は批判的にみる見方も出てきていますが、かといって詳細を交渉などのコミュニケーションの中でやり取りすることはないと思います。
日本はどうかというと、文書にきっちり情報を入れようとします。論点の骨子だけでなく、様々な情報を入れる傾向にあるため、どうしても情報過多になる傾向にあります。シャープの海外の現地社員は、日本の資料のことをビッグシートと呼んでいましたが、本当に不必要な情報まで一つの提案書に載せていました。
しかし、欧米ほど文書が詳細にしっかりしているかというとそうでもなく、文書は中途半端に曖昧だったりします。良い意味でも、悪い意味でも、いい加減なのかも知れません。
こういう日本人が海外の人に提案したり、コミュニケーションを取るのに必要なことは、論理とかロジックを考える、ということしかありません。これも日本の教育には抜けている点だと思いますし、もう一つは日本人の頭の構造によるものであるとも思うのですが、難しくても、海外とビジネスをしようとすると避けて通れない話だと思います。
ビジネスの基本(11):論理を理解し、要旨のみを説明する
例えば、提案の目的とゴールを先に説明する、結論を先に言う、レジメ的に何を話すかを先に伝える、等々です。こういう話は様々なところで言われているので私が改めていう必要もない話かも知れませんが、提案書などの資料作成やプレゼンなどを作成するにあたっては、とても大切な話だと思います。
海外とのコミュニケーションのこととして話をしていますが、日本国内においても価値観が多様化していけば、必要になってくる話だと思います。海外に関係ない方も、海外だから関係ないとか思わず、こういう話を理解いただけたらと思います。
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