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海外ブランディング(1) ― ブランディング

 仕事の内容はほとんど変わらず、海外事業本部というところからブランド推進本部という部署に異動になり、ブランドというものに携わることになりました。ブランディングというのは会社の顔を作ることが仕事です。別の言い方をすれば、お客様との約束といっても良いかも知れません。

 物が溢れ、市場の主流が生活必需品から付加価値商品に変わってくると当然、どこのブランドの商品を買うかになってきます。企業の顔=商品の価値になってきます。それは各ブランドのことをイメージいただいたらお分かりいただけると思います。

 エルメス、グッチ、ルイビトン、ベンツ、BMW、ローレックス等々、商品の機能価値よりも、その企業が作っている商品であることに価値があります。最近流行りのパーソナルブランディングという概念もその延長にあり、「何を買うか、どのサービスを受けるか」よりも「誰から買うか、誰のサービスを受けるか」ということが個人業の世界でも重要になってくるのです。
私はブランド本部には所属していたものの、メインの仕事は販促とかウェブに限られていたので、私が手掛けた仕事というより、シャープのブランド作りみたいなことをベースにブランドに関する話をさせていただきます。

 初期のシャープは「目の付け所がシャープでしょう」というフレーズに代表されるように、世の中に少し変わったもの、独創性のあるものというブランディングをしていました。ブランディングをしていたというより、独創性の高い商品を出して来たので、そういうイメージが予め出来上がっていたというのが正しい表現かも知れません。

 1953年の国産第一号テレビから始まり、電子レンジや電卓といった新規性の高い商品を世に送り出し、電機メーカーとして世間の認知を広げていきました。カシオとの電卓戦争を通じて、家電だけでなく情報商品のシャープとしての認知も広がっていきました。しかし、競合他社と比べて体力が弱かったシャープは商品の開発は成功するものの、他社に追いつかれて、営業力で他社にシェアを奪われるという状況だったことも事実です。また、品質に関しても、他社と比べてユーザーの方の信用度は低いという面もありました。

 そういう独創性を言葉にしたものが「目の付け所がシャープでしょう」という言葉です。そして、しばらくシャープ=独創性=変わった商品を作るメーカーというブランドが定着していきました。また、それを裏付ける商品も数多くありました。

 シャープは商品だけでなく、部品も手がけていました。電卓などに利用するLSIを作るのにスケールメリットがあったのです。シャープが初期の任天堂ファミコンを作っていたという話もあります。この部品事業の発展が液晶技術を生み、液晶テレビや液晶搭載のワープロなど、すべての商品を液晶で統一した訳です。

 ここで、シャープのブランディングは「液晶のシャープ」になりました。液晶やLSIなどは装置産業であり、巨大な投資をしてそれを回収するというビジネスモデルになります。その「液晶のシャープ」のイメージを強化するように国内に最先端の工場「亀山」を作り、当時の「物作り日本の復権」といった世論の流れに乗って、一躍家電のトップブランドになったという流れです。

 その後、その装置産業の巨大投資は堺工場の建設で裏目に出て、台湾の企業に出資してもらう流れになりましたが、「液晶のシャープ」以降のブランディングはまだ確立していないように思います。

 私が退職して5年以上経っているので、私の認識が不足しているだけかも知れませんが、「目の付け所がシャープでしょう=独創性」→「液晶のシャープ=物作り日本の復権」の後のブランディングの話は認識できていません。目の付け所も、液晶のシャープも、時代に偶然マッチしたという要因が大きいものの、担当した方々の努力も大きかったと思います。新しい顔作りを期待したいと思います。

 私はシャープ時代、ブランディングの話はあまり実務的に関係しておらず、評論家的な説明になってしまいましたが、当時その場にいて、しかも客観的な立場で見ていたことにより、他の人に分らなかったことが分かった面もあったという感じかも知れません。

 退社後は、色々な人の相談に乗る機会が多くなり、そういう意味でブランディングに関連することが増えました。いわゆるパーソナルブランディングという話です。ブランディングの話をする前に、実は自分とは何者かをどう認識するのが大切だったりします。

ビジネスの基本(15):ブランドの原点は自己定義である

 現代人は自分を定義するということを知りません。人間は成長の過程で、親からとか、先生からとか、友達からとか、自分がどんな人物かを聞いて、自分の姿を作り上げます。それもバラバラなイメージです。しかし、自分で自分を定義する人はあまりいません。

 しかし、ごく少数ですが自分を定義している人がいます。例えば夢を追いかけている人です。その夢がその人の自己定義になります。また尊敬する人物がある人もそうです。ソフトバンクの孫正義さんは、社長室に等身大の坂本龍馬の写真が飾ってあるそうです。孫さんにとっては、坂本龍馬が自分を定義する自己定義になっているのでしょう。

 あと、グループというか集団で自己定義している人たちもいます。侍とはどうあるべき、騎士とはどうあるべき、日本人とはどうあるべき、みたいな自己定義です。これはナチスみたいに悪く働くこともありますが、その集団に属することで自分がどういう存在であるかを定義することにより、自律的な行動を可能にします。

 このように現代でも自己定義をしている人はいますが、ほとんどの人は自己定義をしていません。自己定義がなければ実はブランディングは成り立たないのです。これは企業も同じです。クルマの話が分かりやすいので、クルマの例で説明させていただきます。

 例えばトヨタ、トヨタのクルマは品質が優れていることで知られています。トヨタの自己定義は「品質の良いクルマを作るメーカー」と言っても良いかも知れません。別の表現をすれば、トヨタがユーザーに約束するものは「品質」と表現しても良いかも知れません。

 以前、イギリスの番組でいかにトヨタのトラックがタフかをテストしたことがあります。紛争地域では、テロ組織とかが必ずトヨタのトラックを使っているからタフに違いないという理由です。色々なところにぶつけたり、海に流したり、大きな鉄球をぶつけたり、最後には火を着けて燃やしたのですが、それでも簡単な整備でトヨタのトラックは動きました。番組の殿堂入りをしたそうです。

 このようにタフで品質が良いこと、それがトヨタのブランドなのです。スバルは米国でコアなファンに人気がありますがスバルの自己定義は「スポーティな動作性能の良いクルマを作ること」だと思います。動画サイトを見るとスバルのクルマが雪に埋もれた状態から苦もなく脱出するシーンとかが出てきます。

 この他、ベンツは「高級感、ステータスと安心」、BMWでは「スポーティなクルマ」など、クルマのメーカーには、自己定義というかお客様への約束というか、そういうものが存在します。そして、それがブランドの根幹になるのです。個人についても同様なことが言えます。自分は何者であるかを最初に自己定義することが、パーソナルブランディングにとっては一番大切なことなのです。

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