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「AIはフリーライターの仕事を奪うのか?」——私がそうは考えない理由

(トップ画像:Adobe Stock)

フリーランスライター/エディターをしています。フリーになって今年で19年目です。主にIT分野のメディア(MarkeZineやITmediaなど)、または一般企業からの依頼を受け、企画記事や広告記事、コピーを書いています。

近年AI技術が発達し、絵を描いたり文字起こし/文章を作ったりする作業がとても効率的になりました。2020年11月に『ダイヤモンドオンライン』に掲載された「AIに仕事を代替される職業・されない職業、ランキング&マッピングで判明!」では、「文芸家、記者、編集者」はやや代替されにくい業種(代替されやすさ偏差値が45.1)と位置付けられています。

この3年でテクノロジーはさらに進化しました。昨年は、作りたいイメージを文章にすれば絵を自動生成してくれる「Midjourney」が注目されました。そして2023年現在、人工知能チャットボット「ChatGPT」で盛り上がっています。実際知人のエンジニアも、AI文字起こしアプリを使って会議を録音し、そのデータをChatGPTにまとめてもらって議事録を作成しているそうです。人間の書記に頼むよりずっと早く、しかも低コストで議事録が作成できるとのこと。ライターの仕事がAIに取ってかわられる日も、思うより早く来るかもしれません。実際、このnoteでも有料版ではAIアシスタントのベータ版がスタートしています。

とはいえ、AIが脅威かといえば、現段階では何ともいえません。そもそも(ライターがこんなこと言うのはタブーかもしれませんが)、みなさん普通に母国語の文章を書けるはずなのに、ライターという職業はこれまで成立していたのです。まずはこの点について考えてみることが大切かと思います。

なぜこれまでライターという職業が成立してきたのか

文章を書くことが苦手・嫌いという方もいらっしゃいますが、大多数の方は普通に日本語の文章が書けるはずです。なのになぜライターという仕事が成立しているのでしょうか。

出版社やWebメディア企業がフリーライターに執筆をお願いするのは、限られる社内リソースを補うためです。仮に1つの編集部に100人記者がいれば、外部リソースを頼る必要はないでしょう。

事業会社さんからの案件は、営業資料やマーケティングコンテンツ用の事例記事、製品紹介記事、人材採用記事の企画・制作が大半です。製品や人事についてはその会社の業務担当者の方がいちばん詳しいので、本来であればその方が記事を企画・執筆したほうが正確な情報になるはずです。

それでも外部のライターにお願いするのはなぜでしょうか。主に4つの理由があります。

  1. 担当者の執筆時間が取れない
    →業務が忙しくて記事の構成を考えたり文章を書いている時間がない

  2. 担当者が文章を書くことが苦手、書けない
    →スキル/慣れの問題

  3. 社員だけで営業・マーケティングコンテンツを作るより、第三者の意見を取り入れたい
    →ライターの知見を必要とする

  4. 取材のやり方がわからない
    →スキル/慣れの問題、またはライターの知見を必要とする

以上をまとめると、「時間」「品質」「ライターの知見が必要」の3点に集約されます。
個人的な意見ですが、企業が外部ライターに執筆を依頼するのは「時間」と「品質」と「コスト」のバランスが釣り合った時だと思います。担当者の方がどんなに忙しくても、文章を書くことが苦手でも、業務ミッションとして取り組めば、数カ月くらいでWebランディングページを作れるでしょう。しかし仕事のスケジュール上、数カ月も時間をかけて1つのコンテンツを作成している暇はない。だとしたら、多少コストをかけてでも、一定の品質以上でさくさくと書く(描く)フリーランスのライターやイラストレーターに仕事を出したほうが楽ですし、速く済みます。

なお、ここでいう「品質」とは(1)違和感のない日本語としてスラスラ読めること、(2)訴求したいメッセージをシンプルに表現していること、の2点を指します。表現の多彩さや響きの美しさなどは読み手の好みにも左右されるので、ここでは品質のなかに含みません。

AIに取って代わられる書き仕事


ビジネス文書における時間と品質の4象限(個人の見解です)


時間・品質の組み合わせを考えると、AIに奪われる執筆仕事はまず「時間をあまりかけずに、品質にもそれほどこだわらなくていい」領域でしょう。

前出の社内会議の議事録はその代表例で、基本的に外部に公開する文書ではありません。もちろん読みやすいに越したことはありませんが、外部に公開する/不特定多数の人に読んでもらう文書ではないので、極端な話「この会議でどんな決定がなされたか、その経過を確認できればいい」わけです。

また、時間(締め切り)が比較的緩い=自分のペースでOKという文書の作成もAIに任せるケースが増えるのではないでしょうか。たとえば「業務マニュアルの作成」です。これは新入社員や異動してきた社員が読むため、文章のわかりやすさ・読みやすさが求められます。なので品質の追求は必要ですが、じっくり取り組めるため、文章を書くのが苦手な人もAIの力を借りながらマニュアルを作ることができると思います。

ライターの仕事を奪うのは……

締め切りとスピードと品質を求められる書き仕事、主に社外・不特定多数の人に向けたコンテンツに関しては、いまのところフリーライターの需要が高いです。とはいえ、未来永劫この状態が続くとは思えません。

正直にいえば、個人的には「ライターの仕事がAIに取って代わられる」とは考えておりません。そうではなく、ライターの仕事は今後「AIを活用して速く品質の高い文章を書く人」に移管されていくと考えています。そしてそういう人は、職業ライターではなく、事業会社に勤める社員になるでしょう。

上記に書いたように、AIを活用して議事録やマニュアルを仕上げるようになれば、長文を書くコツもつかめます。書くことが嫌い・苦手な方も、叩き台をAIが作るのであれば、ゼロから書く必要がないのでハードルはかなり下がるはずです。出版社の編集者も、小さな記事ならAIを活用してどんどん自分で書いていくはずです(もともと文章を書くことに抵抗のない方が多いので)。

じゃあ職業ライターはどうすればいいのかといえば、ぶっちゃけ言ってしまうと「自らもAIを活用して、より速く品質の良い文章を書けるようになる」ことがまず重要だと思います。自分も仕事でどんどん使ってみて、自分なりの表現や文体、何より「読み手に伝わるか」という視点で文章を磨いていくことが差別化になるのではないでしょうか。それはつまり、ライティングというより編集力や構成力を上げることだと思います。

そのうえで、求められている知見や専門性だったり、スムーズな取材進行だったりといったスキルをより磨いていくしかありません。どの分野をターゲットとし、どんな知識を深めていけばいいか、その見きわめがいま以上に大切になると思います。
(終)

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