チャーの秘密の大冒険
飼い犬のチャーが亡くなり、3日が経った。末娘のように甘えん坊で、家族皆からかわいがれていたチャー。茶色い毛並みに、つぶらな瞳。僕らはかけがえのない存在を失ってしまった。
日曜日、午前9時。寝室から出て、家中チャーがいそうなところに視線を送ってみる。けれどやっぱりどこにも姿はなく、まるで僕の心の中には、ぽっかり穴が空いてしまったようだ。
まだ誰も起きてこないしんと静まりかえったリビングでぼんやりコーヒーを飲んでいると、電話が鳴った。何かのセールスだろうか。悪いけれど今は電話で話す気分ではない。無視を決め込んだ。
電話はしつこく、ガランとしたリビングで、ルルルルル、ルルルルルと鳴り響いている。
2分ほど続いたあと、またすぐに電話が鳴った。うーん、さすがにこれは出るべきか。僕は3回目のコールで電話を取った。
「もしもし」
「あ、もしもし。こちらレンタル首輪の『わんにゃんセキュリティサービス』の者です。この度はチャーちゃんのご冥福、心よりお祈りいたします」
電話の相手はこちらの名前を確認することなく、まるで分かりきっているとでも言わんばかりにいきなりチャーの名前を出し、お悔やみの言葉を言った。
僕には何がなんだか訳が分からず、「はあ」とだけ返事すると、
「この状況の中大変申し訳ないのですが、ペットが亡くなったら3日以内に首輪を返却いただく決まりになっていまして……」と続けた。
「すみません、状況がよく読めないのですが、どういうことでしょうか?」
「えっと、そちらの契約者は……ああ、奥様でしたね。15年前のモニターキャンペーンで当選され、当店の首輪をご利用いただいています。今日奥様はご在宅ですか?」
「いますけど、まだ寝ています」
「そうでしたか。それならあなたは……息子さん?」
「ええ、そうですが……」
やけになれなれしい態度で、電話口の相手は話し続けている。「今日、こちらまで来られます? 住所は……」と、こちらの都合などお構いなしといった様子で一方的に住所と電話場号を言うと、さっさと電話を切ってしまった。
僕はどことなく怪しさを感じすぐにインターネットで、言われた通りの『わんにゃんセキュリティサービス』を調べた。確かに存在しているようだ。住所も電話番号も間違いない。ウェブサイトも割としっかりしている。
念のため母さんに確認しようかとも考えたけれど、チャーが亡くなってからずっと落ち込んでいるので、無理に起こすのもかわいそうだと、結局一人で向かうことにした。
電車を乗り継ぎ30分ほど行ったところにその店はあった。見た目は街のどこにでもありそうな電器店といった感じ。こじんまりしていて、怪しいというよりむしろアットホームな雰囲気だ。
店に入り一番奥まで進むと、「受付」と書かれたカウンターがあった。人の姿はない。呼び鈴を鳴らすと、さきほどの電話と同じ声の男が出てきた。声と話し方から想像した通り、胡散臭い黒縁メガネをかけている。
「どうもどうも。早かったですね。ご来店ありがとうございます。では早速ですが解約の手続きをしていきますので、こちらに今日の日付とお名前をご記入いただけますか? お名前はお母様ではなく、お客様のもので結構です」
言われたとおりに日付、そして名前を書いた。
「ありがとうございます。あと3枚ほどですね。同じように、こちらに日付とご署名をお願いします」
正直何の書類なのかも分からなかったけれど、手際の良い男の指示に従い、次から次へと記入していった。もうチャーはいないのだからこの首輪は必要ない。その気持ちが僕の警戒心を緩めていた。
男が書類を確認している間、僕はテーブルに置かれた赤い首輪をじっと見つめた。見慣れたその首輪にはまだしっかりチャーのぬくもりが残っているようで、どうしてそれだけがここにあるのだろうと不思議な気持ちだった。
「ええと、最後の一枚なんですけどね、これはご存命中に一度も閲覧利用がなかったペットが亡くなられた場合の、特典……っていうとちょっと聞こえが悪いんですけど、まあいわばそんなようなもので、もしどこか3日分だけ記録した映像が見たい日があれば、お見せすることができます」
男はメガネの奥で、ニッコリとほほえんだ。
「記録した映像? ごめんなさい、僕このサービスのこと理解していなくて。母からも何も聞かされていないですし。チャーの首輪、母がその辺のペットショップで買ってきたものだと思っていたくらいなんで」
男は面食らったとでも言うような顔で、口をあんぐりさせた。
「そうだったんですか……もったいない。あの体験モニター、当選されたのごくわずかなんですよ。これ普通に加入していただくと、月額5000円と割と高いですし」
「え、たかが首輪一個で、毎月そんなかかるんですか?」
男は今にも泣き出しそうなくらい、肩をがっくりと落としてしまった。さすがにそこまで落ち込まれると、こちらが悪いことをしている気分になり申し訳なくなる。
「あ……なんかすみません。ところで、この首輪は何がすごいんですか?」
すごいという言葉に気を良くしたのか、先ほどとは180度表情を変え明るさを取り戻した。
「これはですね、ペットの安全を保証する首輪なんです。迷子になった時、誘拐された時……大切な大切なご家族でもあるペットがある日突然いなくなっちゃったら怖いですよね? そんな時お客さまからご一報いただければ、この首輪に埋め込まれている位置情報サービスが、瞬時にペットの居場所を見つけ出しすぐにお知らせ! そんな画期的な製品なんです!」
男は人が変わったように、生き生きと語り出した。ここまで入れ込むくらいだから、製品の開発者なのかもしれない。僕はそんなことを考えつつ、ただひたすら話を聞いた。
「実はこの首輪には撮影モードが搭載されていまして、犬の場合は1時間以上、猫の場合は3時間以上ペットが単独でご自宅を離れるとセキュリティモードが作動し、撮影された映像が自動で私どものサーバに飛んでくる設定になっているんです。お母様にもキーホルダーを渡してあり、こちらがペットの首輪といわば連携関係になっているので、ご自宅を離れた理由がご家族と一緒の長期旅行などではないと分かるようになっています。
ただ、今は個人情報保護が何かと騒がれる時代ですからね。映像にどんな個人情報が紛れているか分からないので、お客さまからの申請がない限りは映像には一切手を付けず、首輪の解約とともにすべての映像を完全消去しているんです。
基本的には位置情報だけではどうしてもペットが見つからない、または何か事件性があるという場合にのみ、一定条件の元映像をご覧いただくという契約になっています。亡くなった後にご覧いただく今回のケースは……まあ、こっそり案件ということで。あまり大きな声では言えないんで、内緒ですよ」
男はまたもメガネの奥でニッコリとほほえんだ。今回はご丁寧にウィンクまでしている。
僕は『キーホルダー』と聞き、そういえばチャーの散歩で使っていた汚物入れに何かのキーホルダーがついていたなと思い出した。なるほど、そういうことだったのか。男の話に納得しながら、ただひたすら相づちを打ち続ける。
それにしても、どうして母さんは教えてくれなかったのだろうと疑問に思った。まあたぶん新しいもの好きの母さんのことだから、ひとまず応募してみたら当選したけど実際にはあまり内容を理解できなくて、僕にも父さんにも説明できないまま、いやむしろサービスに加入したことすら忘れて時間だけが過ぎていった。そんなところだろう。
「それでどうします? 映像見ます? それともやめときます? 今回は事件性があって映像を確認するシチュエーションではないので、私どもの同席なしにお客さま一人で見て頂くことになりますが……」
別にチャーが動いている姿を見られるわけじゃないのなら結構です、と断ろうとした瞬間、僕は急にあの失われた3日間のことを思い出した。そしてすぐ、「お願いします」と返事をし、この件に関する解約届への記入は少し待ってもらうことにした。
指定した日時の映像を準備してもらっている間、なんだこれならあの日首輪の位置情報でチャーを探せたじゃないかと悔しくなった。肝心の母さんが忘れていたから仕方無いのだけど。
飼い主からの申請がない限りは位置情報を知らせない、というルールはいささか不便な気がした。僕がサービスの改善を提案しようとしたところで男から、「準備ができました」と小部屋に通された。
そこは、小さなモニターとソファが置いてあるだけのシンプルな部屋だった。
「3日分と長いので、ご自身の判断で適宜早送りしてください。今日の営業は17時までです。基本的には終業までいて頂いて結構ですが、途中退出される際には一声かけていただけると助かります。もちろんお分かりだと思いますが、この映像をお手持ちのスマートフォンで撮影するのはご遠慮願います」といったような注意事項が3分ほど続いたところで、男は部屋を出て行った。僕は少し緊張して背を正すと、恐る恐る再生ボタンを押した。
映し出されたのは、激しい揺れの中で続くあぜ道だった。画面の揺れに合わせて、両脇の田んぼも映り込んでいる。
そうか、チャーは僕から離れて1時間後もまだここにいたのか。チャーはキョロキョロ顔を動かしながら走っているらしく、「はあはあ」という荒い息とともに、田んぼやらあぜ道やら夕日やら空やら、めまぐるしく景色が変わっていった。予想以上に揺れが激しい。だんだん気持ち悪くなったけれど、チャーの目に映ったものをしっかり見届けたくて、僕は停止ボタンも早送りボタンも押す気になれなかった。
チャーの視点からだと、世界はこんな風に見えていたんだなぁ。僕はとてつもなくチャーに会いたくなって、気づけばポタッポタッとこぼれ落ちた涙で、ジーンズの膝の部分が黒く変色していた。
チャーがいなくなったその日、僕たちはいつものように夕方の散歩に出かけていた。自宅を出て公園へ行き、田んぼのあぜ道を歩き、小学校の前を通って自宅に戻る。これがお決まりの散歩コースだ。その日も順調にあぜ道まで来たところで、チャーに異変が起きた。
チャーはあぜ道を歩きながら、何かを確認するようにぐるぐると辺りを見回し、鼻を地面に押し当てクンクンと匂いを嗅いでは何度も足を止めた。僕はその度に強くリードを引っ張り、チャーはそれに抵抗した。
そして何度か僕とチャーとでリードを引っ張り合ったあげく、チャーは僕を振り切ってリードごとどこかに駆けて行ってしまった。
映像の中でチャーはずっと何かを探しているようで、田んぼのあぜ道を走っては止まり、また走っては止まりを繰り返していた。しばらくその映像が続いた後、チャーは田んぼの中に何かを見つけたのか、突然動きを止めると、ゆっくりゆっくりそこに向かって歩いて行った。そして赤色の夕日を受けきらめく田んぼの中でようやく探し当てたのは、薄汚れた段ボール箱だった。
チャーはその箱の前に着くと、ぴたっと足を止めた。そろりそろりと中をのぞき込む。そこにいたのは、茶色と白のまだら模様がかわいらしい子猫だった。
僕はその瞬間、前のめりになってモニターにかじりついた。そうか、チャーはこの子猫を探していたのか。
子猫は弱っているのか、か細い声でニャーニャーと鳴いている。チャーはしばらくその子猫を見つめた後、首根っこをくわえ段ボールから引きずり出した。猫はケガしているようで、体から血を流している。チャーは一生懸命その傷を舐めた。
辺りに人の気配はなく、夜の訪れとともに次第に映像が見えにくくなった。チャーは猫を口にくわえて移動を始めたのか、暗がりの映像の中に、時々地面にぼんやり浮かぶ街灯が映り込み始めた。
着いた先は、散歩道の途中にある小学校のようだ。薄明かりの中映った見覚えのある校門を通り抜け、中に入っていく。下校時刻はとっくに過ぎ、学校は静まりかえっている。チャーは校庭を抜け裏門に着くと、そこで腰を落ち着けたらしい。猫を降ろし、再び傷口をペロペロと舐め始めた。相変わらず猫はか細い声で鳴き続けている。
そのまま猫を自分の体で守るようにして、チャーも眠ってしまったようだ。映像が動かないまま数分が経過した。
僕は大慌てで映像を早送りした。日が昇り動き出した映像の中でチャーは、再び猫の傷を舐めていた。ひとしきり舐め終わるとまた口にくわえ、学校を後にした。
早朝になり人通りが増えていた。チャーの視点から見る人間は大きく、なんだか僕まで犬になった気分だ。映像の中で2匹を見た人たちはチャーが猫をいじめていると思ったのか、手当たり次第にチャーから猫を奪おうとした。いつもの散歩コースを外れたので、チャーのことを知っている人はいないようだ。
何かされるたびにチャーが「うううう」と威嚇するもんだから、人々は躍起になってカバンを振り回したり、チャーのお尻をぺちんと叩いたり、首に着いたままのリードを引っ張ろうとしたり、次々とひどいことをした。それでもチャーはめげず、ううううと唸ったまま駆け足で逃げていった。
僕は普段怖がりのチャーがこんなに勇気を出していることに驚いた。緊張からかいつの間にか呼吸を止めていたらしい。思わず、ふううううと大きなため息が出た。
映像を3倍速にしてチャーの動きを追いかけた。チャーは一日中食事も水も摂らずいろいろな場所を行ったり来たりして、夕方になると駐車場らしき場所でぺたりと座り込んで動かなくなってしまった。再び猫を自分の体で暖めているようで、画面は子猫の毛でいっぱいになっている。チャーは子猫の母親になったつもりでいたのかもしれない。
しばらくぴたっと映像が動かなくなった後、突然チャーが勢いよく顔を上げた。すると2匹の前にある建物から一人の男性が現れ、2匹の前で立ち止まると、「よいしょ」と言いながらチャーから猫を引き剥がした。チャーは突然のことに驚き、ううううと唸っている。特に気にせず男性が猫を抱えたまま建物の中に入ると、チャーは大声で吠えた。いつものかわいらしい鳴き方とはまるで違うその声に、僕はチャーの中の野生を感じずにはいられなかった。
チャーはしばらく吠え続けた後、失意のあまり鳴くのをやめたのか、そのまま映像が止まった。
少し経ち、建物から中年の女性が一人出てきた。チャーに手を伸ばし、「おいで」と声をかけている。しかしチャーは強く威嚇し、そのまま走り去ってしまった。
僕はチャーの悔しさを思い、涙した。それにしてもここはどこなんだろう。手がかりはないだろうかと、男性が現れたシーンまで巻き戻してみた。よく見ると、男性は白衣のようなものを着ていた。胸にあるネームプレートにヒントはないかと目をこらしてみるけれど、字が小さすぎてよく見えない。
仕方なく映像をチャーが走り去ったところまで戻した。チャーはそのままゆっくりと歩き続けた。徐々に見慣れた景色も出てきて、自宅に戻ろうとしていることが分かった。
途中疲れてしまったのか、チャーは公園に立ち寄ることにしたらしい。ここにはチャーがよく使っている水飲み場がある。そこで水分補給をするのだろう。予想通り水飲み場に寄り時間をかけてゆっくり水を飲むと、そのまま少しだけ移動しそこで眠ってしまった。よほど疲れていたのだろう。
映像は長い間止まったままだったので、早送りを続けると翌朝になった。チャーが帰宅した日だ。
チャーは目を覚ますとゆっくりと歩き出し、自宅に一番近い公園の入り口にたどり着いた。自宅に帰ろうとしている。僕はその映像が過去のモノで、チャーが帰ってきたのは夜だと知っているのに、その瞬間飛び上がりたいほど嬉しくなった。
チャーは入り口に着くと何か考え事でもしているのか、数秒間また映像が止まった。
どうしたんだろう。そう思った瞬間、チャーがすごい勢いで今来た道を逆戻りしていった。映像がぐわんぐわん揺れる。
なんだなんだ。僕は訳が分からず、しばらくその映像から目を背けた。まともに直視できないほどの揺れだ。横目でちらちら画面を見ていると、チャーは昨日子猫を奪われたあの建物の前で立ち止まり、揺れも収まった。はあはあとチャーの激しい呼吸が聞こえてくる。
チャーは少し経ってから、ワンワンワンと大声で吠えだした。特に誰か出てくる気配はない。それでもめげずより一層大きな声で、ワンワンワンワンと延々吠え続けた。2、3分経った頃、中から昨日と同じ女性が出てきた。一つに結んだ長い髪。上下水色の服。この人はもしかしたら……。
建物の答えが分かった気がした瞬間、チャーの視点が突然ふわっと高くなった。どうやら女性に抱きかかえられたらしい。チャーは抵抗することなく、おとなしく女性に抱かえられその建物の中に入っていった。
何匹もの動物が待つ受付、その先にある廊下、そして1つのドアの前にたどり着くと、中から無数のニャーとかワンワンとかいう声が聞こえてきた。間違いない、ここは動物病院だ。
ドアが開き、数歩進んだ先に現れたのは、小さな檻の中に入った昨晩の子猫だった。体にガーゼが巻かれている。
女性はチャーをテーブルの上に置くと、檻から子猫を出しチャーの前に置いた。子猫はチャーを見るやいなや、ニャーニャーと鳴き自ら歩み寄った。チャーもすぐに子猫の顔をぺろぺろと舐めた。
「あら、この子猫ちゃん、やっと鳴いたわ」女性が嬉しそうな声を出した。「あなたがお母さんって分かるのね」
女性の手が近づいてきて、映像がわずかに揺れた。チャーの頭を撫でているようだ。
「ありがとう、あなたのおかげでこの子猫ちゃん助かったのよ。たぶんカラスにつつかれたんじゃないかと思う。そこまで傷が深くなかったのが幸いだったわ。でもあなたに助けられてなかったら、どうなっていたか分からない。本当に本当にありがとう」
女性は何度もお礼を言い、満面の笑みを浮かべてチャーの頭やら顔やらを撫で回した。そして首輪をくいっと持ち上げた。
「あら、ここに名前があるわね。チャーちゃん。じゃあこの猫ちゃんはあなたの子だから、チャーリーと名付けましょう。男の子なのよ」
そう言うと女性はチャーリーを抱え、チャーの顔に近づけ、キスさせるような仕草をした。
「チャーリーはもう少し手当が必要だからこちらで預かるけれど、元気になったら里親を探すから心配しないで」
チャーはなんとなく話が分かったのか、「くーん」と小さい声で鳴いた。
「ありがとう、ご家族も心配しているでしょうからもう行きなさい。またいつでも遊びに来てね」
女性はチャーを玄関まで送り届けた。チャーはゆっくりと歩きながら、何度かその女性の方を振り返った。女性は笑顔のままずっと手を振っている。
そして数メートル進むと、チャーはまたものすごい勢いで走り出した。映像がぐわんぐわん揺れる。僕はまた画面から目をそらし、早送りした。そして見覚えのある景色があるところで、再生ボタンを押した。
「はあはあはあはあ」
チャーの激しい呼吸ともに順に現れたのは、驚きと喜びとで複雑な顔をしている僕、涙で顔をグチャグチャにした母さん、「おお、帰ってきたか。どうしたこんなに泥だらけになって」と嬉しそうにチャーの頭を撫でる父さん。
「ほんと、こんなに汚れちゃって。さあお風呂に入りましょうね」
鼻をすすりながら嬉しそうにチャーに声をかけている母さんの声が聞こえてくる。
僕はモニターの前であの日と同じように涙を流しながら、チャーに声をかけた。
「おかえり、必ず帰ってくるって信じていたよ」
次の瞬間、映像はぶつっと切れた。