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40歳台女性、ものが二重に見える

「ものが二重に見える」という訴えは国家試験ではよく見ますが、臨床ではお目にかかることは少ない主訴です。

4日前は何ともなかった。
3日前に見え方に違和感を自覚した。
2日前にものが二重に見えることに気づいた
1日前に当院救急外来を受診したが、緊急性はないと判断され本日内科受診を説明された。
本日、内科受診しようとしたが嘔気が出現したために、内科ではなく救急外来を受診することになった。このようなエピソードは初めて。

alert, BP130/62, P90, Temp 37.1, Sat 97%
バイタルサインは特に緊急性なさそうで、ゆっくり話を聞く時間はありそうです。

既往歴は胃潰瘍
処方薬はランソプラゾール、整腸剤、酸化マグネシウム。(どうでもいいけど、PPIで胃酸が減るとMgOの効果減弱をきたすとされています)
社会歴は夫と子供の三人暮らし。
アレルギーはありません。

まずは、ものが二重に見えるのは片目なのか?両目なのか?です。
uptodateにはmonocular ԁiрlopiаとbinocular diplopiaという言葉が使われています。monocularならそれは眼内の異常なので眼科コンサルトです。一方、binocularならそれは眼球外の異常によるものです。

本患者さんはbinocular diplopiaでした。主訴は両眼性の複視です。
ですので、非眼科疾患を考えます。

まず、眼を診察します。
正中視でも眼位がずれていたようです。しかし担当医は、具体的にどの方向にずれるのか診察できませんでした。6つの外眼筋の起始・停止・滑車を考慮すれば、外眼筋の機能の理解は容易です。ここで何番の脳神経がマヒしているのか、これを予想しないと鑑別診断および画僧検査でどこの部位に注目して読影すべきか理解できません。いずれにせよ、もっとも重要なトピックですが、これ以上のdiscussionはできません。

眼瞼下垂はありません。→動眼神経麻痺らしくありません。
瞳孔左右差なし、対光反射もありありです→やはり動眼神経らしくありません。

頭痛の訴えはありません。もし頭痛があれば、鑑別診断は”複視 diplopia"ではなく、"頭痛"に変更します。見逃してはいけない疾患は、複視よりも頭痛に隠れている可能性が高いためです。

MMTは測定していませんが、明らかな四肢麻痺などはありません。
でも重症筋無力症のような筋力低下であれば、顔回りの筋肉(眼、口、のど)が筋力低下を起こしやすいので、それに注目すべきです。下腿のMMTが低下するときは、それはかなり筋力が低下している証拠です。

鑑別診断としては、脳から外眼筋への経路に至る疾患を考えればよいです
・ 中枢神経 これは脳梗塞の鑑別と同じです。時間的空間的多発であれば多発性硬化症なども考えます。脳動脈瘤も考慮します。
・ 脳神経 これは末梢神経障害と同じです。糖尿病、ギランバレー、CIPD、Fischer症候群など。
・ 神経筋接合部 重症筋無力症など。ランバートイートン。
・ 筋 筋疾患、甲状腺眼症など

それとCN 3、4、6は海綿静脈洞を通過するという特徴があります。
下垂体腫瘍、海綿静脈洞瘻、Trosa-Huntとかも鑑別候補になります。
代謝疾患として、Wernicke脳症、ミトコンドリア脳症なども挙げられるとおもいます。

本患者さんはMRIで特記所見なく、糖尿病性ニューロパチーとしてフォローされているようです。

複視の主訴は珍しいですが、きちんと身体所見をとってどこの神経が原因なのか予想することが重要です。
近くを見るとき、遠くを見るとき。どのような頭位であれば症状が軽快されるか、など具体的に問診してください。



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