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69歳女性 ”痰に血が混じる”

1週間前から咳嗽あり、前日から痰に筋状の血液が混じるために受診した。

意識清明、BP 141/100, P71, BT 36.1, Sat 99%, 頻呼吸はありません。

既往歴:顔面神経麻痺、大腸がん術後(10年前と局所再発に対して7年前)、胆嚢摘出後
処方薬:骨粗しょう症薬。それ以外なし。
アレルギーなし
生活歴 夫と二人暮らしで夫も一週間前から咳嗽と鼻汁あり。

咳嗽時の痰に血が混じるとのことであり、主訴は喀血で良さそうです。
嘔吐時に伴うわけではなく、吐血ではなさそうです。
腹痛やタール便の訴えなし。

第一印象は急性気管支炎にともなう喀血です。
最終的にこのような診断に至ることが多いです。私自身は正確に統計処理したことはありませんが、感覚的には97%くらい。残り3%は気管支拡張症です。
sick contactもあるので、まず救急外来では対症療法で帰宅は許容されます。

喀血と判断しますが、バイタルは安定しており、呼吸困難や低酸素血症はありません。UpToDateによると150mL/day以上をsevereと見なすと書いてありますが、私はこのような症例にまだ出くわしたことはありません。いつか出くわしたら挿管チューブを少なくとも24cm以上いれて、片肺挿管にしようと思っています。その時のチューブは救急外来にある普通のチューブでいいと思います。レントゲンで位置確認しながら健側の気管支につっこもうと思います。

鑑別診断
まずは肺癌と結核を否定すべきです。never smokerで、体重減少もありません。結核の家族歴は聞き逃しています。大腸がんは治癒後5年以上経過しています。2か月前に当院で人間ドックを受けており、その時の胸部レントゲンでは異常がありません。
高齢女性でやせ型なら非定型抗酸菌症に伴う中葉の気管支拡張症も考えますが、中肉中背で、なにより二か月前のCXRでは気管支拡張像を認めません。
心不全を疑う、下腿浮腫、JVD、胸部ラ音は聴取しません。
MSによる心不全では喀血起こるらしいですが、今日MSそのものが激レアです。

膠原病や血管炎を疑う発熱や関節痛なし。
PEを疑う、低酸素、頻呼吸、JVD、S2亢進、TR疑う心雑音、片側性の下腿浮腫、Homans徴候なし。
口腔内に出血はなく、鼻出血なし。
易出血性をきたす薬剤の服用や既往なし。
胸部大動脈瘤からならバイタルが落ち着かないだろうし、嗄声もない。
外傷歴なし。
アスペルギルスとか寄生虫も頭の隅っこにおいておくとよさそうです。

ここまでくれば、確信をもって対症療法と帰宅でよさそうです。

担当医は、胸部レントゲンで特に問題ないことを確認して、胸部CTを行いました。胸部CTではびまん的な気管支壁肥厚と気管内に喀痰を認めます。浸潤影や腫瘤影はありません。
気管支炎と考え、レボフロキサシンを処方して帰宅としました。

これらの対応にはいくつかの問題がありそうです。
CXRは良いと思いますが、CTはover triageだと思います。
たいていは吸い込み像があるために、期間をあけてフォローアップのCTが必要になってしまいます。low yieldであるにも関わらず余分な手間が増えてしまいます。
それと喀血の量を問題としているなら、出血部位を特定するために造影CTすべきです。

レボフロキサシンは盲目的に出す薬ではありません。
病歴からはウイルス性なので、抗生剤は不適切に思えます。
もし細菌性だと思うなら、痰培養など原因菌を詰めるための方策を取ってください。
レボフロキサシンは抗結核作用があるために、推奨されていないと思います。

私が以前調べたもので、結核の耐性菌は一株だけあり、それはレボフロキサシンに対するものでした。
非結核性抗酸菌の保菌率は喀痰抗酸菌塗抹検査結果の解釈に大きく影響する可能性がある:単施設における後方視的研究

そうそう、気管内腫瘍や結核ってCXRでは非常に難しいです。
これからオペする患者さんのレントゲンみても確信がもてません。

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