20年ぶりのNikon F3
およそ20年ぶりにニコンF3を手に入れました。
フリーフォトグラファー時代のメインカメラだったので、良い記憶も悪い記憶も染みついているカメラです。
思い入れがあるだけにやや長文になってしまったので、目次を付けました。
もうカメラは買わないはずだったのに
先日ミノルタCLEを買って「もう当分カメラは買いません」と書いたばかりですが、そのCLEが低速シャッターに不調を抱えていることが判明しました。こういうことがあるので、中古カメラは必ず保証期限内にフィルムを通してテスト撮影を行うことをお勧めします。
以前もライカ(ライツミノルタ)CLで2台連続不良品を引いて、そして今回のCLE。70~80年代の電子カメラはそろそろ寿命が来ており、CLは露出計が、CLEは電子シャッターがアキレス腱です。どちらもMマウント機としては軽くてコンパクトで使いやすいのに、耐久性の点で不朽の名機になれないのがもったいない。
そんなこんなでミノルタ製Mマウント機を導入してライカシステムを完成させるという計画はあきらめ、戻ってきた代金で別のカメラを買ってもいいよねと自分に許可しました(言い訳)。
F3アイレベルを選んだ理由
そうなるとMマウントにこだわる必要はないので、かつて慣れ親しんだニコンFマウントを選んだのは自然な成り行きでした。
のんびり日常を撮るだけならライカに近いフィーリングをもつ初代Fがいいと考えていたのですが、CLEで露出計内蔵の便利さに気づいてしまったので、その時点でF3一択になっていました。F3も80年代の電子カメラですが、露出計やシャッターが壊れたという話は聞いたことがありません。さすがニコンのフラッグシップ。
後継機のF4もMF機として運用すればF3を凌駕する完成度を誇りますが、時代遅れのAF機というイメージ、大きさと重さ、そしてデザインで損をしています。いや、F4はまだジウジアーロのデザインだしかっこいいんですよ。その後のF5もギリ許せるけど、さすがにF6のペンタ部は・・・。カメラというものは進化するほど機能美が失われていく宿命なのかもしれません。
いちばん好きなのは基本形となるアイレベルです。ジウジアーロのデザインをそのまま反映したこのスタイルにもっとも完成された機能美を感じます。
いくつかの派生モデルがあり、その中でもプレスの支給品だったF3Pはアマチュアの憧れの的でした。
当時、私もNPS会員だったので購入資格はありましたが、フリーの私がわざわざ自腹を切って買うほどのメリットがあったかというと、ホットシューの汎用性くらいです。しかしそもそも同調速度が遅いF3ではストロボはめったに使わないので、私はノーマル派でした。単純に便利なのがよければF4やF5、F100がすでにありましたしね。
安い、安すぎる
今回入手した個体は発売初年度の1980年製です。といっても特にプレミアがついているわけではなく、格安でした。初期型に価値がつくのは初代Fくらいでしょう。
この個体は使用感が多いけどオーバーホール済みなので安心です。初期型の特徴であるベンツ革のグリップはOH時に交換されてしまうので、後期型のゴム製に変わっています。別にベンツが好きなわけではないので、そのへんは全然どうでもいいです。
使い込まれて真鍮の地肌が見えるボディは、まるで20年前に自分が手放したF3が戻ってきたかのようで、かつての愛機の面影を感じて懐かしいです。
現在、F3の中古価格は非常に安く、CLEの1/3程度の出費で済みました。
底値のときはOH済みで3万円以下だったそうですが、今はフィルムカメラが見直されてきた影響か、もう少し中古相場が上がっています。
買う側からしたら少しでも安いほうがありがたいけど、フィルムカメラを文化として継承していくなら価値が上がっていくのはいいことだと思います。往年の名機が二束三文で叩き売られているのは見るに忍びないですからね。
あらためて、究極のMF一眼レフ
F3の露出計はスポット測光に近い特性をもち、中央部の被写体の輝度と反射率に引きずられて露出が大幅に転ぶことがあります。しかも露出補正が非常にやりにくいので、私も含め当時のプロはほとんどマニュアルで使っていました。
といってもそれは適正露出がシビアなリバーサルフィルムの話です。ネガで撮るぶんには絞り優先AEで十分でしょう。逆光による露出アンダーや、露出オーバーによる背景の白飛びなどが気になってきたらマニュアルに挑戦すればいいと思います。
当時はモードラを装着していましたが、今あんなものを使ったらパチンコ並みに千円札が飛んでいきますからね。せっかくライカに負けない滑らかさをもつ巻き上げレバーがあるのだから、1枚1枚丁寧に巻き上げて撮りたいカメラです。
それと何といってもファインダーが素晴らしい。視野率100%、0.8倍の高倍率でピントの合わせやすさは随一です。ニコンのミラーレスのEVFは画質が良くて光学ファインダー並みだなと思っていましたが、やっぱり全然違いました。
スクリーンを自分好みに替えることもできます。若い頃は全面マットタイプが好きでしたが、今は視力が落ちたので標準のスプリット式がありがたいです。
ファインダー内で絞り値とシャッター速度を確認できるのも地味にうれしい仕様です。デジタルなら当たり前のことでも、何の情報もないライカのファインダーに慣れた目からするとすごく贅沢に感じます。
そして言うまでもない堅牢性と信頼性。メーカー公称の動作保証温度範囲は-20°Cから+50°Cで、私自身の経験でも-16℃の吹雪の中で撮影したことがあります。ウエムラスペシャルは南極観測隊で使用された際、なんと-70°Cで動作したという記録があるそうです。
あらためて、究極の一眼レフだと感じます。
レンズはどうする?
ボディは最高なので、あとはどんなレンズを組み合わせるかです。
現役時代はAi-S単焦点で20mm, 24mm, 28mm, 35mm, 50mm, 55mmマイクロ, 85mm, 135mm, 200mmあたりを揃えていました。仕事用としては信頼できるレンズ群でしたが、Ai-S以降のニッコールは全般的に硬調なので自分の作品用としてはあまり好みではありません。
現在所有しているMFニッコールはすべて1970年代の古いレンズです。このあたりのレンズが好きな理由は、 のちのAi-Sに比べてほどよい収差や周辺減光があり、コントラストが低く諧調が豊かなところです。
F3には非Aiタイプも装着可能ですが、開放測光とAEが使えません。AEはともかく、絞り込み測光はさすがに不便ですね。Aiタイプならすべての機能が制限なく使用可能です。しかし非Aiタイプの柔らかい描写にも捨てがたい魅力があります。
純正にこだわりはないので、フォクトレンダーやツァイスのFマウントという選択肢もありますが、まずは手持ちのニッコールレンズで使ってみることにします。