生活インフラの発達と少子化の因果関係
前回の話
以前の記事で示した計算式に、具体的な数値を入れてみる
式を少し改良
(親の人数。だいたい2か1)*(1日あたりの子供にやらせる家事や労働時間)*(その日数)
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(1人の子を養育する期間の、子にかかる総家事時間)*(子供の数)
が成り立つ限り子供の数を増やすのが親にとっての得となる。
親にとっての、子の経済価値
家事(労働)を子供にやらせて楽をする、親にとっての子供という存在の経済性。しかし、生活インフラの発達と子供の人権(教育)がその効用を減らす。
生活インフラの発達とは、個人がやるべき家事労働の減少だ。つまり、多数の奴隷を侍らせることも「発達」となるので、古代でも成り立つ。
この文脈は昨今の自動化系ゲームでよく観察される。機械とベルトコンベアによって自動化(省人化)するならまだしも、村民などの人型NPCにプレイヤーの作業を代行させることで「自動化した」と言うのだ。プレイヤーは、自分が実際の作業を行わないのであれば、それを代行するものが機械か人間か家畜かを区別しない。
そういった素朴な感性が人には備わっていることを、まずは認めねばならない。
具体的な計算
前の記事では雑に変数を設定して 2Sd>2300Rn を満たすnが1以上なら子供を育てるのが親にとって黒字になるとした。Rの定義を少し変えたりしたので注意してほしい。
今回は、子に代行させる家事の総時間の変化(インフラの発達度合い)に対して、黒字となる子供の人数がどうなるか、各変数をシチュエーション毎に変えながら試算していく。
立式
親の人数
N 1か2
生活水準=家事時間
S 0から12の整数
児童労働期間
d 子供の分離独立年齢から労働可能年齢を引いた値に365を掛けた値
A 子供の分離独立年齢
a 子供の労働可能年齢
d=(A-a)*365
子を養育する期間の総家事時間
R 子の食事を用意するなどの日常的な家事のみならず、セックス、妊娠、出産、育児なども含む。それらを、子供が親に自らの家事を外注しているものとして扱う。
望まれる子供の人数
n
NSd>R*n
Rの中身について
P+ca+(a-6)C
育児は6歳までとする
P セックス妊娠出産は古代から現代までほとんど時間が変わってない。1日12時間の365日として12*365の固定値とする
c 育児もあまり変わってない。常に見てなきゃいけないから。1日6時間の6年として6*365*6の固定値とする
C 育児から解放(子が6歳以上)されると生活インフラ水準の影響をもろに受ける。Sと同値とする
NSd>Pn+cn+(a-6)Cn
子は労働年齢に達したら自分の家事をすべて自分でやる
子は20歳になったら家から出ていく
NSdは、子が親元から離れる前に親に労働で奉仕する総時間
Rは、親が子を労働可能年齢まで育てるのに払う総時間
計算と図表
子を16歳から労働させた場合
子を6歳から労働させた場合
計算から読み取れること
・義務教育をしっかり施す前提では、親は必ず産み損
・教育はインフラの強化に必要なので「生活水準の向上」に含められる
・生活インフラが弱く、6歳から労働させるなら、かなりの得を見込める
・妊娠期間のコストが重い
・生活インフラは劇的に発達したが、妊娠期間は今も古代も変わらない
・生活インフラが発達しても子供のための家事コストは無視できない大きさ
日本社会が少子化を止めるためにやるべきこと
・家事や育児時間を徹底的に減らすような業務、制度、技術開発
・それでも不足する分を、社会から報酬として親に渡し、穴埋めする
・妊娠育児期間の女性や夫婦には子1人あたり最低17520時間に相当する報酬を社会が支払わねばならない
・人工子宮の存在しない現代では、妊娠女性の十月十日を必ず満額補填しなければならない
他に読み取れること
・1日中家事をやらねばならない底辺生活水準だと6人以上産む→ニジェール
https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/190.pdf
・日本の統計を見るに、家事関連時間は夫婦あわせて8.76時間
・育児4.59時間
・家事時間2.88時間
私の家事定義からすれば、家事関連時間から育児時間を引いた値が、Sにそこそこ適している。
つまり、日本の子育て夫婦世帯の 2S=4.17
S=2.085
なお、単身世帯だと、Sは1時間と少し(仕事のある日)
今の日本の生活インフラだと、出生率の底は0.1~0.3程度となる。とりあえず産んでみたら色々と苦しすぎるという話はよく見る。育児罰なんて言葉にそれが現れている。
が、実際はそこまで下がっていない。女性個人で見れば1人も産んではならないのだから、割と強力な結婚・子育ての動機があると推測できる。まぁ、いくつかは何となく分かる。
嗜好、文化、宗教、流行。多分、これらが平和で安定した社会における出生の動機だ。
この計算の価値
必要な子育て支援の大きさを具体的に数値で示した点だ。
特に、17520時間。最低でもこれを補填できねば、人口は減り続ける。
こうしてみると、奴隷制とは何かについて一つの基準を設けることができる。つまり、ヒトを生産するコストをよそに投げて生産物(ヒトの労働力)だけを収奪する行為だ。労働人口を再生産する気がない。低賃金長時間労働がまさにそれである。