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定年教師の独り言 Vol.14 「伝えられなかった聖火リレー」
いよいよパリオリンピックが開幕する。
知り合いが、ましてや自分が出るわけでもないのに、何だかソワソワしてしまう。時期だから、今回はオリンピックネタを…。
ドライブで立ち寄った造り酒屋の薄暗い土間に、一際輝く一角。TOKYO2020の桜ゴールドのトーチが、見事なケースに展示されていた。歴史を感じる古い蔵と、現代アート工芸品とが絶妙にマッチしている。
「私が走ったんですよ。」店主が笑顔で話してくださった。
実は…
トーチは我が家にもある。このお店とは違い手作りケースだが、ユニフォームと共に玄関に鎮座している。自分も、聖火リレーを走らせてもらった一人だ。
TOKYO2020の聖火ランナー募集の告知を見た時、「何としても走りたい」と思った。個人として、またとない経験となることはもちろんだが、退職直前の教師として、子どもたちに遺せるものがあると思った。しかもコースは地元。うまくいけば、大勢の子どもたちにトーチを持って走る姿を見せることができるかもしれない。
都道府県事務局をはじめ、ランナーを募集している協賛企業の窓口など、あらゆるチャンネルに「教師として、子どもたちに走る姿を見せたい。」という想いを綴り、力の限りアピールした。結果、ある企業から「当選」の連絡をいただけた。ランナーは、国内で1万人と聞く。この数が多いのか少ないのか全くわからなかったが、兎にも角にも1万分の1に選ばれた。「城田先生、聖火持って走るよ!」満を持して子どもたちに伝えようと思った矢先、大会の1年延期が決定した。
気落ちした…なんてものではない。放心状態になった。しかしそのうち学校でのコロナ対応が本格化し、超多忙な中で、聖火リレーやオリンピックのことを考える余裕すらなくなった。
それから1年…。
前日のコロナ対応が深夜まで及び、走れるかどうかギリギリまで悩んだが、どうにか滑り込んだ。ただ、状況的に人混みを生むのは憚られたため、結局、聖火ランナーとして走ることは子どもたちはおろか、保護者、同僚にさえ告げぬままの出走となった。当初の思いとは大きく離れてしまったが、それでも、沿道の声援を浴びながら、心の中で想いを弾けさせた。
このトーチは、もうすぐ引退する城田先生から、未来を創るみんなへのバトンだよ
子どもは、未来からの留学生だ。今を生き、今に学び、未来へ還っていく。その未来が、明るく暖かい日であるように、この聖火で照らしたい。コロナに翻弄されてはいるけれど、聖火をつなげた今日の幸せを噛み締めたい。そんな思いで走った。
さあ、あと4時間でパリ五輪の開会式。
コロナはまだ燻ってはいるけれど、今回は多くの観客が声援を送ってくれる有観客大会。前回に置いてきた思いを応援でぶつけよう。