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味の薄い親子丼を食べながら思うこと
「親子丼ならすぐ作れるよ」ということで、メニューに書かれていない親子丼を注文した。
白っぽい見た目。頼んだものを間違えたのかと思った。
80歳を超えた店主のおばちゃんはどこか忘れっぽい。でも3回目に会ったぼくのことは「いつか会ったことがある」ぐらいには覚えてくれていた。
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「お客さんがだれもいないね。昔はもっと昼間も人が多かったん?」
「いやー、昼間は日によって違うよ。昔は夜に大勢で宴会してくれてなぁ」
昔は自分の祖母にも何を喋ればいいのか分からなくて、一緒にいたいとは思わなかった。
今も大して分からない。でも、おばちゃんと一緒にいる空間を味わえるようになった。そこにしか流れない時間を感じられるようになった。
白っぽい親子丼は、予想通り薄味すぎる。なのにご飯が大盛り。
分量をいろいろ間違えたのかもしれない。でも、父親がたまに作る料理もこんな時があった気がする。
それにこの店の名物はかつ丼だからね。親子丼が少しぐらい舌に合わなくてもしょうがない。
そうやって言い聞かせながら、箸を止めずに一気に食う。止まったら、きっとこの薄味でこの量を食べきることはできない。
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おばちゃんはぼくの隣のテーブル席に座ってる。
店の外にまで響くぐらいの大きな音でついているテレビ。
「お茶まだあるか?」
ありがとう。もう3杯飲んだ。お腹ちゃぷんちゃぷん。
お店の壁に貼られたメニューに『親子丼』の文字はない。
「あれ、なんでないんやろ。値段なんぼやろか、600円でええよ
![](https://assets.st-note.com/img/1686453491873-sMQrKPKHbq.jpg?width=1200)
テレビを観たり、もう少し昔話をしたり。会計を終えても、まだ帰って欲しくはなさそうだった。でももう行かないと。
なんで行かないといけないんだろう。
平日の昼間だから。あの仕事を終わらせないといけないから。
そんなしょうもない理由をいくつも思い浮かべる。しょうもないって分かってるのに。
ぼくはいつまでしょうもないことを「しょうもなくない」と言い聞かせながら生きていくんだろう。
店を出るとき、おばちゃんも店の外に出て手を振ってくれる。
同じ町内にあるこのお店に来るのに、車で20分以上かかる。
山に囲まれた広い町内。
何か大切なものをこのお店でもらった気がするし、その大切なものをお店に忘れてしまった気もする。
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