No.187 「ラグナクリムゾン」14巻備忘録
0. はじめに
第74話の備忘録の Appendix に書くつもりだったが, 例によって, なんか長くなってしまったので, 特にこれまでで一番ノリノリかつ意味深な感じの表紙裏を中心にして(多分, 小林大樹今絶好調なんだな), 14巻の備忘録を別にまとめる.
1. 表紙裏話1「受け継がれる意志(オチ)」
そのうち「時代のうねり」, 「人の夢」なんてのも出てきそう(その頃でもまだ「ONE PIECE」は終わって無さそう).だが, 「お願いマッスル」な「メチャモテボディ」に, 隠し味の「ムキぷる~ん」.
『何なのだ、これは! どうすればいいのだ!?』
2. 表紙裏話2「ティーナちゃん」
これはもちろん「受け継がれる意志」に出てきた
「しかし『後の物語で役割がある』という、ある種の絶対防御を持っていたネビュリム」
と同様の
「しかしそれ以上にネビュリムと同じ『絶対防御』に守られているため実質不死身。」
という文言に注目すべきであろう(第二位階の硬さについては, まぁ硬いんだろうけど, 最強の第二位階桐生君の硬さを見てしまうと霞んでしまうな). すなわち
『絶対防御』~『後の物語で役割がある』
なので, ティーナちゃんにもネビュリムと同じ重要キャラであることがすでに示唆されている. これについては別件(ルオシー)で気になることと併せて, また別の topic として後述する.
3. 表紙裏話3「運命を仕組まれた子供と書いてルオシー」
出題されているクイズ
「だってこの子〇〇〇〇〇の〇だぞ!?
〇〇出身で一時期〇〇〇に住んでた事もあるんだぞ!?」
は
「だってこの子シグマリオの娘だぞ!?
日本出身で一時期神奈川に住んでた事もあるんだぞ!?」
かなぁ.
「シグマリオ」の「娘」及び「日本出身」まではともかく, 最後の〇〇〇の答えはわからなかった. とりあえず令和530年で日本が健在で, 鳳凰堂デザインの10円玉がまだあることから判断して, 四十七都道府県もそのままだと信じて,「東京」が入らないから関東甲信越で三文字の県名を入れてみただけ. まぁ, 三文字の県名自体が神奈川を除くと, 北海道, 和歌山, 鹿児島の3つしかないから(つまりクイズとしては一応答えを絞り込めるようにはなっている?)そんなに不正解でもないと思うが, あまり根拠と自信はない.
あとこれで気付いたのだが, このクイズの答えがある程度正しいとするならば,
「ルオシーは元々太陽神教側の人間じゃない」
ってことか. 前に第69話の備忘録
を書いた時点では, 私は
『 で, ルオシーがラピを連想していることから, 少なくともラピ(ことによると同じくアリアを知っているティーナまで含めて)は滅竜導士であった可能性が高い. まぁ, カルラとアルテマティア様の件があったから想像はついていたよ. 他の滅竜導士が血族化している可能性も. というか, 最悪(?)中間管理職バグラムも, アルテマティア様同様, 以前は滅竜導士だった可能性もある. というか, ティーナやラピがそうだとすると, その可能性も低くくはないだろう.
同時にルオシーの年齢的(未来ルオシーの描写的にルオシーは不老ではなさそうなので, 多分本当に見かけ通りレオと同年齢程度の少女)に, 彼( and 彼女)が咆哮の血族になったのはそんなに昔ではなく, ここ10年くらいの出来事であることも推察できる. ということは, ルオシー等の新参者を除くと, ちょっと前まで滅竜導士が今よりたくさんいた可能性が高い(無論, 抜けた分がルオシー等の新規勢で補充されて足し引き零の可能性もある). それがここ10年で咆哮の血族に寝返ってしまったのだから, そりゃあなかなかしんどそうである.』
とか言っていたが, これは見当違いか. 確かにティーナちゃんが前にウォルテカムイの事を「(雷の)小僧」呼びしていたから, 年代的な計算で引っかかってたんだよな. つまり彼ら彼女らが太陽神教側の滅竜導士だったわけではなく(無論, その可能性もあるだろうが), ルオシーの出自があちら側という解釈の方が自然か. 確かにハクレンも
『あなたはここと敵対する世界を知っている
そこで生きる人々を』
とも言っていることからもそちらの方が整合性が取れている.
そんなこんなで意味深なクイズなのだが, 言うまでも無く,
「答え合わせは~~~~~いつだろ? 遅くとも4巻以内にはやります。」
も重要.
「14巻(第73話)終了時点で太陽神教編の3分の1は終わったと思う」
という私の太陽神教編の進捗状況の計算予想とも概ね合っている気がする.
いい機会だから私の予想の方をもう少しちゃんと述べる. といっても話は単純な算数で,
「第60話から太陽神教編が始まって, 14話(1年半)で3分の1」
という見立てに基づいて計算すると
「あと28話, つまり第100話前後(多分100話以内に収める)で第二部完」
となるというそれなりに尤もらしい予想である.
1巻あたり大体6話収録(14巻は若干薄くなって5話収録. 多分, 6話入れると値段オーバーのページ数になったんだろうな)と考えれば, 4巻以内ということは24話以内だから, 太陽神教編の最後の方にはクイズの答えが明かされるということになる.
ちなみに最重要は
「運命を仕組まれた子供と書いてルオシー」
というタイトルなのだが, これについての考察は後述する.
4. 表紙裏話4「ラグナ(第二部)」
長くなったし, 「怪しすぎて逆に怪しくないやつ」は訳あって最後の Section に回すとして, 表紙裏話の最後として「ラグナ(第二部)」.
とりあえず
「いつからだ? 差し出された手を迷いなくく取れるようになったのは?」
の「迷いなくく」というのは多分誤植である. で, 元ネタがネテロ会長(HUNTER×HUNTER)であることもよい. 少し面白いのは, このネタから小林大樹の今のトレンドを察すると, (これも以前から繰り返し言っている)私の予想
「ハクレンの強さの描写を, ラグナと差別化するために, ネテロ系の強さにするのではないか」
の一つの根拠にできるという点である.
「2巻では無理だった」
も実際そうで, あの時はクリムゾンが背を押したのである.
更に重要なのが
「キャラっていうのは作者が成長させたいからといって
すぐに変えられるものではないのです。
だから自然と変わってくれている事はとてもうれしい。」
という小林大樹先生のありがたいお言葉.
いくら売れていようが, いくら有名だろうが, こんな「常識」もわかっていない(できない)漫画家の多い事, 多い事. その点, 小林大樹はさすがワシが見込んだ男. 漫画, 創作の本質というものを心得ておる. まぁ, かの稀代の天才葦原大介も似たようなことを言っていた気もするが, ともかく, この「お言葉」は「熱血漫画家十訓」あたりとセットにして, 「ラグナクリムゾン」と共にもっと世に広がった方がよい.
とまぁ, 作中外の一般論としてもう頷けるものだが, 「ラグナクリムゾン」の作中内においても, 小林大樹自身が指摘している
「天然ボケだけじゃなくツッコミもできるようになった。」
だけではなく, 細かい点でたくさんみられる. 個人的に印象深かったのは
(1) 第64話でルオシーに会いに行った際に
「オレがルオシーのためにできることは多分二つだけだ
一つはルオシーを強くすること」
と言って, シン・カトラスを一コマ挟んでルオシーに二つ目
「ルオシーがもう前線に立たなくていいようにする」
を言うのを逡巡するシーン
(2) 第65話のラプテリカ戦の一幕で, ガルム翁の回想を挟んで, ラプテリカに銀気闘法を見せることを決意するシーン
の二つである.
いずれもかつての未来ラグナ以後の, 今のラグナ自身の経験に基づいたがゆえの選択と行動であり, また彼(そして同時に世界)が変わったという紛れもない事実に他ならない. 言い換えるならばそれは, 時間的には決して長い期間ではない(2ヶ月)にしろ, とてつもなく濃い経験を経て,
「今のラグナは今の人生を確かに生きている」
という証であり, それこそが「ラグナクリムゾン」という物語の本質でもあるのだろう.
5. その他 (表紙より)
表紙は骨の血族の印(紋章?)を背中に彫っている桐生君. これをみて(改めて)気になったのだが, 表紙をめくったカバーの折り返しの
「ragna crimson」
の下にある印. これは多分
「初代翼の血族(クリムゾン様)の印なのだろう」
と予想はしているが, 確証はない. どうしてこれを一巻からずっとここに描いているのかが謎. なんか物語の重要な伏線のような気もするし, このこれみよがしに配置されたあからさまな謎も明かされる時がくるのだろうか.
6. "道化"の計算を読み解く
以前から小林大樹のことを「計算された道化」と評してきたが, その観点からすると, 今回の表紙裏は特に意味深. 諸々を仕込みに仕込んである感じがする.
どこから論ずるべきか悩ましいが, まずわかりやすい件の「ルオシー」のクイズから行こう. このクイズを, メタ的に, どう解釈すべきか?
「読者へのリップサービス」
あるいは
「私のような(いけ好かない厄介オタク系?)読者への挑発」?
その両方があるのだろうが, 「計算された道化の計算」として読み解けば, 無論それだけではない.
恐らくその真の狙いは
「太陽神教編の本命から我々の意識を遠ざけるためのミスリード」
である. それこそあからさまに``ヒント''が書いてあるではないか.
「怪しすぎて逆に怪しくないやつ」
と.
この表紙裏をみたとき, 恐らく熱心な読者ほど陥る陥穽が
「タイトルではなく, 中身の小さい文字の文章を読もうとする」
であろう. 多分, 情報の重要度としてはタイトルの方が上のはずである. ということで今回の表紙裏話のタイトル改めて並べてみると
「受け継がれる意志」
「ティーナちゃん」
「運命を仕組まれた子供と書いてルオシー」
「ラグナ(第二部)」
「怪しすぎて逆に怪しくないやつ」
となる. 私はこれらこそが
「太陽神教編の今後を読みとく本命のキーワード」
と考えている.
ゴチャゴチャと細かいことを書いている文章の方ではなく(無論, そちらもまるっきり無意味というわけではない), 誰もが目にしながら, 実はスルーしがちなこちら(正に「怪しすぎて逆に怪しくないやつ」)こそが本命なのだ. 後で全てが open になった時に
「読み解くのに必要な全ては最初から書かれていた」
なんて展開は如何にも「計算された道化」が好む展開である.
「ルオシー」クイズに関して言えば, 太陽神教編の「本命」を隠すためのわかりやすい撒き餌であると同時に, 「本命後」に(そこで逆転して)鍵となる要素だと思う. では, 太陽神教編における「本命」イベントは何か? 「ルオシー」の出自? 大聖伐(以前の咆哮の血族との戦い)?
いやいやあるでしょ. 最初にサラッと, しかもあからさまに触れながら, その後は異常な程に話題に触れていない(どころか作中ではクリムゾンの胸中にあって誰にも open にはしていない)話題が…
それは
「太陽の聖人殺人事件」
である. 恐らくはそこが世界の分岐点であり, 運命. 恐らく小林大樹は, 「ルオシー」をはじめとする太陽神教編のあるゆる伏線をこのイベントに集約するように物語を設計するつもりなのだろう(トーゼン, ルオシーもそれに関係してくる).
「ルオシー」が「運命を仕組まれた子供」というのも, 恐らくこれに関係する. つまり以前も述べたように(やはり)ルオシーが, 『人類最後の英雄』になること, そして彼女がそうなるために
「太陽神教が滅びなければならないこと」
も, 「運命」として仕組まれているのだと思う.
そして
「これを仕組んだのが誰か?」
ということである. 無論, 本命は「世界魔法」の完成を目的としているであろうシグマリオなのだが, 「それだけか?」と言われると少し疑問がある. というのも, 太陽神教編だけでなく, 「ラグナクリムゾン」を通して考えると, 『人類最後の英雄』ルオシーの運命というのはそれすなわち死神ラグナの運命とも直結しているからである.
言い換えるならば, 「運命を仕組まれた」のはルオシーだけではなく, ラグナも(ついでにティーナちゃんも)そうなのだろう. だとすると, それはシグマリオだけでは説明がつかない(実際, シグマリオはラグナを知らない). クリムゾンも噛んでるし, 更に別のナニカが噛んでいるようにも思える.
この辺もどっか別の機会で詳述すべきなのだろうが(そしてこれまでも幾度となく論じようと試みてきたのだが), 簡単に述べる. まずこれは「私の感想」だが, 「ラグナクリムゾン」はヨコオワールドの影響は無論受けているが, より遡ると, 光瀬龍の「百億の昼と千億の夜」の影響も間違いなく受けていると思う. 尤も, ヨコオワールドにしろ, Fate にしろ, アレの影響を受けていないソッチ系の日本のSF, ファンタジーなんて存在しないと思うが, 「ラグナクリムゾン」は(ヨコオワールドがその血が濃いからだろうが)そのケが物凄いする.
その類似性の考察も結構面白い(
『``シ''』が『神』,
『惑星開発委員』が『竜王』,
『計画』が『世界魔法』,
『兜率天』が『太陽神教』と『アメン』…
等々と色々興味深い符合が存在している)のだが, ここで言いたいことは
「「百億の昼と千億の夜」の「転輪王」的存在が「ラグナクリムゾン」にもいるのではないか」
ということである. ルオシーやラグナ(更にはクリムゾン達竜王)等, あの世界の諸々の運命を仕組んでいる『神』とは別の存在. 突拍子も無いようだが, その存在を示唆する描写も, これまでも小さな違和感, 矛盾, 奇跡といった形で最初(それこそ「死神が生まれた日」から)ちょくちょくあったのだが, 表紙裏でここまで「運命」を push してくると, そういうところに意識を回さざるを得ない.
つまり「ルオシー」(とその運命)は, 直近では「太陽の聖人殺人事件」を読者に意識させないためのミスリードだが(まだ重要度は高くないが), 「ラグナクリムゾン」全体を「運命」というキーワードで読み解く段になった時(それは恐らく太陽神教崩壊後になる)に初めてその真価を発揮するであろう, 「隙を生じぬ二段構え」で仕込まれている伏線だと考えている.
あとサラッと括弧で流しているが, この前段(つまり4巻以内のイベント)として, 私はこの世界においても(仕組まれた運命として)太陽神教の崩壊は起こると考えている. ヨコオワールドの言葉を借りれば, 「ルオシー」は太陽神教関連の世界線イベントの「特異点」なのだろう. だから, 彼女の出自云々といったこまい設定よりも, むしろ「運命」としてそれをどう位置付けるか, 捉えるかの方が大事になってくると思う.
長くなりすぎちゃって「受け継がれる意志」, 「ティーナちゃん」, 「ラグナ(第二部)」との相互の関連の考察に触れらんかった….
簡単に言うと上述の
『後の物語で役割がある』~『絶対防御』
っていうのと, 「ラグナ(第二部)」で述べている小林大樹先生のお言葉
「キャラっていうのは作者が成長させたいからといって(作者の都合で)
すぐに変えられるものではないのです。」
はなんか矛盾してないか(作者が変えられないのに, 他方で作者が『絶対防御』をするのはおかしいのでは)? ってこと.
私の考察は
「この二つを並べてみせて, あえて矛盾を見せている」
というもの. 更にここで『後の物語の役割』~『絶対防御』を『運命』と読み替えて, さっきの「運命論」を用いてこの矛盾を解消するのである. というより,
『この(創作に伴い必然的に生じる)矛盾を解消するための「運命論」を展開するのが「ラグナクリムゾン」だ』
(そしてその直近の「命題」が「ルオシー」だ)という小林大樹の一種の宣言, 決意表明のようにも聞こえる. つまりはこれが14巻の表紙裏話からの私の考察の結論である.
これは満更私(だけ)の「誇大妄想」ではなく, 意識的にせよ, 無意識的にせよ, 実際に小林大樹の中にある何某か(葛藤とでも呼ぶべき?)だと思う(そうでなければこんなものは描けない). それに, 仮に「ラグナクリムゾン」が「古典」になって(別に必ずしも「古典」になる必要もないが), その道のプロに文学的に批評されたり, 研究されたりする時(「運命」!)が来れば, そういう類の切り口から論じられるようになるかもしれない.
まぁ, つまりは遠い未来の「ラグナクリムゾン」に関する(メタ的な)私の予想である.