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No.50 「ラグナクリムゾン」備忘録 --「クリムゾンファイル」(翼の血族篇)--

0. Abstract

小林大樹が自身のTwitter上で公開(?)した『クリムゾン様から見た翼の血族格付けランキング!』の雑感を述べる. 

1. Introduction

 今月(ガンガンJOKER2022年6月号)は「ラグナクリムゾン」が休載だった. 私が好きな「ワールドトリガー」と「ラグナクリムゾン」, 双方の休載が重なるという不幸な月であったが(無論「葦原先生と小林先生の健康が第一」だから仕方ない点もあるが), 代わりに作者の小林大樹によって急遽Twitter上で

『クリムゾン様から見た翼の血族格付けランキング!』

なる催し(?)がなされた. 

https://twitter.com/D_Koba/status/1527910228536487936

 曰く

『位階とは別にクリムゾンが評価した敵の厄介度を1位から10位までランキング化し、その順位と評価理由を発表します。』

https://twitter.com/D_Koba/status/1527910230281318401

とのことで, 本来であれば単行本の付録か, 「ワールドトリガー」でいうところの「BBF(BORDER BRIEFING FILE)」のようなデータブックに収録される類の話で, 本編に負けず劣らず非常に興味深かった. 

 そこでいつもやっているような「備忘録」を, この「クリムゾンファイル」(と以下は仮称することにする)に対して, 作成することにする. まずSection 2では

翼の血族の位階 (以下「アルテマティアorder」と呼称し, 漢数字で表記)

「クリムゾンファイル」のorder (以下「クリムゾンorder」と呼称し, ローマ数字で表記)

を, 特に2つのorderの転倒に注目して比較する. 次いでSection 3で各々のorderの分析, 特にどういう価値観に基づいた順序付けであるのかを論じる. 残りのSectionではorderとは直接関係ないいくつかのtopicsを思いつくままに列挙する. 

 ただし出典元の詳細については, 小林大樹自身のTwitterを各人で確認していただくとして(この業界におけるreferの流儀がよくわからないし, 量も多いので逐次参照元のlinkは張らない), ここでは大まかな概要を述べ, 必要最低限の文言だけ『』付きでdisplayしてreferすることにする. 

2. アルテマティアorderとクリムゾンorderの比較

 まず「アルテマティアorder」「クリムゾンorder」の順に並び変えてみよう. 

第一位階 天翼竜アルテマティア → 第3位

第二位階 雷爪竜ウォルテカムイ → 第1位

第三位階 風獄竜ディザス・トロワ → 第5位

第四位階 腕竜ボルギウス → 第8位

第五位階 爆塊竜タラテクトラ → 第2位

第六位階 狂操竜オルト・ゾラ → 第4位

第七位階 結界竜ネビュリム → 第7位

第八位階 肥満竜メルグブデ → 第10位

第九位階 剣山竜ドルニーア → 第6位

第十位階 黒魔竜グリュムウェルテ → 第9位

つまり

$$
\begin{pmatrix} \text{一} & \text{二} & \text{三} & \text{四} & \text{五} & \text{六} & \text{七} & \text{八} & \text{九} & \text{十} \\ 3 & 1 & 5 & 8 & 2 & 4 & 7 & 10 & 6 & 9 \end{pmatrix}
$$

ということである. 

 まず

ネビュリム 七位階 → 7位

だけは七から7で結果として順位が変わらないことに気付く. 次いで上への転倒(クリムゾンorderで評価が良くなっている)が起きているのが

ウォルテカムイ 二位階 → 1位

タラテクトラ 五位階 → 2位

オルト・ゾラ 六位階 → 4位

ドルニーア 九位階 → 6位

$$
\begin{pmatrix} \text{二} & \text{五} & \text{六} & \text{九} \\ 1 & 2 & 4 & 6 \end{pmatrix}
$$

の4人. 逆に下への転倒(クリムゾンorderで評価が悪くなっている)が起きているのが

アルテマティア 一位階 → 3位

ディザス・トロワ 三位階 → 5位

ボルギウス 四位階 → 8位

メルグブデ 八位階 → 10位

グリュムウェルテ 十位階 → 9位

$$
\begin{pmatrix} \text{一} & \text{三} & \text{四} & \text{八} & \text{十} \\ 3 & 5 & 8 & 10 & 9 \end{pmatrix}
$$

の5人である. 

 単純にこれを見て気付くのは

アルテマティアorderとクリムゾンorderは, ネビュリムを例外として, 順序の転倒は起きているが, 上への転倒をしているset, あるいは下への転倒をしているset, それぞれのorderは, メルグブデとグリュムウェルテのところを例外として, 保たれている

ということである. これは

クリムゾンorderはアルテマティアorderとは異なるとはいえ, 局所的(転倒するset同士)にはアルテマティアorderを保っている(つまりある程度は相関がある)

ということである. 

 こうしてみると, クリムゾン様とアルテマティア様, あの二人は犬猿の仲で思想信条もまるで異なり, それがこれらのorderにも反映されているといえる. 同時に各々の価値観とは独立に「絶対の格付け」(いわゆる「超えられない壁」)が存在することもわかる. 

3. アルテマティアorderとクリムゾンorderの分析

 前節では, orderの単純な比較を行ったが, より詳細にorderの規準についての考察を行ってみよう. 結論からいえば, 

アルテマティアorder :=

$$
\text{竜としてのポテンシャル} \times \text{覚醒度合い}
$$

クリムゾンorder :=

$$
(\text{竜としてのポテンシャル}×\text{覚醒度合い})-(\text{実戦における対策の質}\times \text{量})=\text{アルテマティアorder}-(\text{実戦における対策の質}\times \text{量})
$$

という感じだと思う. 

 言い換えるとアルテマティアorderは戦闘を考慮しない単純に数値的なものだが, クリムゾンorderは, 竜を狩ることを前提としているので, アルテマティアorderに対竜戦における諸々のマイナス補正を加えたものになっている.アルテマティアorderに対するクリムゾン補正(デバフ)が加法的に効くのか, 乗法的に効くのかがわからないが, ここでは一応加法的だと仮定する(ウォルテカムイにクリムゾンデバフが余り効いていない感じをみるに恐らくは適切な仮定だと思われる). 

 つまり

アルテマティアorderとクリムゾンorderで転倒が起こるのは, クリムゾンデバフが効きやすいか, 効きにくいかに依っている

ということである. またこの解釈は, 

クリムゾンデバフの効きが同程度である場合にはアルテマティアorderの逆転が起こらない

という先程観察された現象も説明ができる. 

 クリムゾンデバフの餌食になっている典型例がトロワ君で

「本気を出せば全力のラグナ相手に1分持つ」

と評され, 「クリムゾンファイル」にも

『おそらく半竜化状態のカムイに近い強さを持っているはず』

との記載がある彼だが, 「クリムゾンファイル」の続きに

『とはいえそんな恐るべきトロワ君を見ることはこの先何周してもないだろう。何故ならバカだから。風もそう言ってる。』

と書かれてしまう始末. 

 同様の例がネビュリムで, ボルギウスには

「竜としての素質はウォルテカムイを凌ぐ」

とまで評された「天才」だが, 「クリムゾンファイル」の記載通りにスライムに2度も遅れを取って(全く同じパターンで)アッサリ殺されている. 広義にはアルテマティア様自身もこれに当てはまっていると言えるだろう. 

 逆にクリムゾンデバフが効きにくい典型例が, ウォルテカムイは別格として, タラテクトラである. 自身は

「我に血族としての才覚ナシ」

としながらも, 

「あるのは人の頃より鍛え上げた 武 それのみ!」

で, アルテマティアを上回るクリムゾンorderの2位につけた. 考えてみれば, 銀気闘法を封じていたとはいえ, ラグナをあそこまで苦しめたのだから順当とも言える(そもそもラグナとタラテクトラの両者は狩竜閃と轟震砲の打ち合いに象徴されるように「凡夫が武を極めた極地」という類似点がある). 

 オルト・ゾラについてもタラちゃんと同様だが, 彼の場合は自身を誤魔化している心理的な弱点があって, その分でタラテクトラに差をつけられている. ドルニーアに関しては詳細が明かされていないのでよくわからないが, 彼らはどうもいずれも「軍人」あるいは「武人」といった戦闘のスペシャリストという共通点があるように思え, それがクリムゾンorderにおける順位が下がった連中との差異なのだろう. 言い換えれば, 現実主義者(リアリスト)たちでクリムゾンデバフが効きにくいのだろう. 

 つまりクリムゾンデバフは, 弱点が一点でもあれば(暁美ほむら的統計法と悪辣な頭脳の組み合わせでそこを暴き出して, 適切なkill pointに誘導して殺しきるという形で)発生する. これは

「一つでも相手の虚をつければそこで殺しきれる」

という「ワールドトリガー」の空閑遊真もしくは空閑有吾の「勝負の心得」にも似ているわけだが, 己の強さ, 弱さを把握して, 隙がない手合いほどクリムゾンにとっての厄介度は上で(クリムゾン様なら空閑遊真をどう評するだろう?), その際たるものが戦闘経験豊富な百戦錬磨の「軍人」, 「武人」なのだろう.  

 とまぁゴチャゴチャと述べてきたが, 要は

「クリムゾン様が何らかの対策を立てやすい相手ほどマイナス補正が強く, アルテマティアorderから順位が下がり, 対策が立てづらい相手ほどマイナス補正が弱くなり, 相対的にクリムゾンorderでは上位にくる」

ということだ. そう考えれば, 根本的に「戦闘」ということを想定していないアルテマティア(彼女は『神』と戦う気はサラサラないし, 人間との戦いは「戦闘」ではなく「救済」, 「慈悲」, 「浄化」の類と思っているはずだ)が現時点での竜としての素質のみで測ったであろうアルテマティアorderとクリムゾンorderの相違点, 類似点もある程度理由付けて説明できると思われる. 

4. 「クリムゾンファイル」はいつ作成されたのか

 一つ気になるのは

「この「クリムゾンファイル」をクリムゾン様は一体いつ作ったのか」

ということである. トロワ評に「この先何周しても」の行もあったが, 一体いつのなのか. 

 謎を解く鍵は「クリムゾンファイル」におけるドルニーアの記述

『銀総(私注:「装」の間違い?)兵団がこれをどう狩ったのか・・・』

である. 「前回」の世界では銀装兵団は敗れドルニーアが生き残っていたが, 「今回」は銀装兵団は勝利している. だから少なくともこの「クリムゾンファイル」を作成した世界のクリムゾン様は銀装兵団が勝利した世界にいて, その撃破の後にこれを書いたことになる. ただし, それが「今回」なのか, 「それ以前」の世界にもあった事象なのかはわからない. 

 雰囲気的には今回の世界のような気がするが, 仮にそうであったとしよう. 加えて「クリムゾンファイル」が同一の世界で作成ないしは更新(恐らくクリムゾンはやり直すたびに「クリムゾンファイル」の更新を行っていると思われる)されたものと仮定する. するとメルグブデの記述との整合性を考えると, この「クリムゾンファイル」(少なくともドルニーアとメルグブデの記述の部分)の作成日時は

太陽暦498年2月28日から3月1日にかけて

ということになる. というのも, 銀装兵団がドルニーアを撃破したのが, ラグナ達が転移魔法でレーゼ北東部の軍事演習場に転移してきた3月8日の9日前の2月28日であり, ラグナがメルグブデを撃破したのがその翌日の3月1日だからである. なので撃破の記載があるドルニーアに対し, メルグブデには撃破の記述がないので, 必定この「クリムゾンファイル」が作成されたのはドルニーアの撃破後, メルグブデの撃破前ということになる. 

 この辺の矛盾ない絶妙な日時と「クリムゾンファイル」の設定は流石は小林大樹といったところか.  

5. その他

 最後に少しメタ的なtopicsを何点か挙げる. 

 まずそもそも今回の企画の意図である. 突然の「休載の救済」というリップサービス的な意味合いもあるのだろうが, ウォルテカムイの記述にギルゼアの名が出てきた点や連載の進捗も含めて考えると, 翼の血族篇については区切りがついて, 既に秘匿する情報はほぼほぼない状況になったとも考えられる. というのも, 

「Twitterという本誌以外の場で今後の本編の展開に関わる重大情報を作者が暴露する」

などという「マナー違反」を小林大樹がするとは思えないからである. つまりTwitterで公開された時点である種「用済み」の設定であり, 翼の血族篇がもう実質的に終わっている, この「クリムゾンファイル」自身が一種の「終了宣言」と捉えてよいのではないか. 

 もう一点はクリムゾン様の読みの精度の高さ, もとい「一級フラグ建築士」としての力量と関連する事項である. 上述したようにこの「クリムゾンファイル」の作成時期がドルニーア撃破後, メルグブデ撃破前の太陽暦498年2月28日から3月1日にかけてであるとすると, ある意味では当然のことながら, その後の展開はフラグを含めて殆どその通りになった. メタ的にはこれは先程の「終了宣言」と関連して,

 「クリムゾンファイル」とは今までの展開の「復習」, 「総括」」

とも解釈できる. そうすると, 

「「もしかしたら「進撃の巨人」のアニメのアイキャッチみたいに, この「クリムゾンファイル」は「ラグナクリムゾン」がアニメ化した際, その進捗に応じて適当にアイキャッチとして使われるかもしれない」

という類の「妄想」も膨らむ. 

 あと細かいことだが, アルテマティア様の「クリムゾンファイル」の記述に関係して, クリムゾン様の時間操作能力(の力量に関する)情報が開示されていたが, これは何気に初めてのことだったのではないか. メタ的考察をすれば, 

「本誌以外の媒体であるTwitterで本編に関わる重大な情報は開示しない」

という「常識」に則れば, クリムゾン様が時間操作する描写(世界のやり直しはともかく「ザ・ワールド」的な使い方をする場面)はこの先出てこない気がする. というのも, Twitterで「クリムゾンファイル」を先出しして, この先の本誌の展開でクリムゾン様に同様の説明をさせるのはクリムゾン様的にも, 小林大樹的にもダサい(ありえない)からである. 

 最後にもう一点. 各人の紹介が単に

「〇〇魔法の能力」

ではなく, 

「〇〇魔法の表現持ち」

という表現になっていた点は何気に興味深い. つまり持っているのは「魔法」そのものではなく「魔法の表現」ということだ. これについていつかフーが解説しているシーンがあったが, 型月世界でいう「魔術(魔法!?)回路」のようなイメージか? ただし, 「魔法表現」というと「魔術回路」と異なり単一のものではなく, 表現をマネることによる複製や再現が可能な印象を受ける. 

 実際, グリュムウェルテの記述のところで

『物体の硬度を上げたり、炎の音頭(私注:「温度」の間違い?)を上げたり、単純だが強力かつ便利な魔法であり人類が最も早く表現を研究開発した魔法の一つである。』

とか

『これの使い手は才能や訓練次第ではとてつもない戦闘能力を発揮するが、グリュムウェルテはそこまでには至っていない』

とあるので, 彼のオリジナル(固有魔法)というわけではないことが示唆されている. 

 ちなみにここでクリムゾン様が言及している「人類」が今の人類を指すのか, 旧人類(旧文明時代の人間)を指すのかも少し気になるところである. 

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