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【怪談】ただそれだけの話5

芝生が聞いた、オチもなにもない、怪奇な話です。

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『ひょこひょこ』

都内某所の書店で働く友人の話です。

建物一棟がまるまる書店で、各階ジャンルごとに分かれている大型店舗。
あるフロアのある一か所にだけ、友人の言い方をそのまま書くと『ウザい幽霊』が、そのフロアのレジに入っている時にだけ現れる。

レジで接客をしたり作業をしたりしていると、ふと視線を感じることがある。
接客業なのでお客さんの視線を感じるのはよくあるが、その視線はそうではなく、感覚的に違う。そして妙に気になるのだ。

接客が終わったり作業の手を止めて視線の元の方を見ると、エレベーターホールに続く通路の壁から、頭と固めと鼻ぐらいしか見えないが、人の顔の半分がこちら(店員)の方をじっと見ている。

人が多い街なので、初めて出くわしても『そういうタイプの不審人物か……』と、自分を納得させられるのだが、だんだん様子がおかしくなる。
その顔と目が合ったように感じる。とたんに、通路の壁に引っ込んだかと思うとすぐにひょこひょこと、出たり隠れたりを繰り返し始める。

ヤバいタイプの不審人物だった! とそちらに向かうも誰もいない。
エレベーターに乗ったりした形跡もなく、隠れられるような場所もない。

慌ててフロアにいる他の同僚や上司に報告しても「それ以外しないから、気にしない方がいいよ」と。

開店前、営業中、閉店後、それはたびたび現れるので、そのフロアだけは新人さんの定着率が悪いという。

補足として、この謎のひょこひょこする『ウザい霊』は、見たスタッフによって、老若男女変わるらしい。

そのフロアで一番長く勤務している店員には中年くらいのショートカットの女性、二番目に長い店員である、この話をしてくれた筆者の友人には二十五~三十歳くらいの男性に見えるのだそうだ。

複数いるからなのか、一人が色々な顔を見せているのか、見ためが見る人によって変わるのは、どういう事なんだろう。
そして、見えている――見せてくる場所以外の姿かたちはどうなっているのだろうか。


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