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【怪談】ただそれだけの話4

芝生が聞いた、オチもなにもない、怪奇な話です。

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『ベタっぽい話』

タクシー運転手をされているAさんから聞いた話。

還暦に近い年齢で、都内にある鬼籍に入った両親の代からの持ち家にて弟さんと二人暮らしをされているAさん。

業種上、たまに私(筆者)のようなもの好きな乗客から『なんか怖い話とか無いんですか?』と聞かれることがあったそうだが、ある時まで一切そのような体験も、同僚から伝え聞くこともなかったそうだ。

そんなAさんにも唯一、うまく説明できない体験があるという。

夜中に酔っぱらって終電を逃した乗客を乗せたAさん。
その日は普段あまり乗客を降ろさないような、いつも回る場所とは違うところまで行ったという。

そろそろ休憩を取ろうか、といった矢先に乗せたため、普段の休憩時間から一時間以上ズレてしまっていた。

あまり馴染みの無い土地。どこで車を止めて休もうか、と車載カーナビを見てみると、近くに大きめの道路に面した公園があるようだ。距離は一キロも離れていない。

片側二車線の、公園に面した道路に車を止めたAさんは、先ほどの乗客の件を日報に記入した。時計を確認すると三時近くなっていた。

携帯電話でアラームをセットすると、シートを倒して仮眠を取るため目をつぶる。

起きているような寝ているような、ぼんやりうとうとしていると、どれくらい経った頃か、不意に『コンコン』、と硬い音が聞こえた。

Aさん曰く、夜中の休憩中、まれにあるという。
運転席側の窓を、軽く握ったこぶしでたたくような音。それは路上での休憩を注意しに来た警察官か、乗せて欲しい乗客、もしくはいたずら。

目を開け、体を起こしつつ音の聞こえた窓の方へ視線を向ける。警察官か客だった場合、無視するのはマズい。

だが、そこには誰もいなかった。

(なんだ……いたずらか……?)

万が一最後の力を振り絞った酔っ払いかもしれない、などと考え、念のため車から降りる。だが、周囲には誰もいなかった。
秋口で風もほとんど吹いておらず、何かが飛んできて当たった、とも考えられない。

首をかしげながら車に戻るAさん。時計を確認すると、休憩を取り始めた時から三十分程経っていた。

頭もすっきりしており、休憩を切り上げると、その日はそれから何事もなく、朝には業務を終え帰宅したという。

「はー、なんだったんでしょうね……」

そこまで話を聞いた私が(パンチが無いなぁ。そんなものだよな……)と思いつつそう言うと、Aさんは

「あ、この話にはもう少し続きがありましてね」

ルームミラー越しに、微笑んでるように見えるAさんが続きを話してくれた。

その日帰宅をしたAさんは、普段起きている弟さんが起きてないことに気が付いた。弟さんは会社勤めだが、その日は休日だったはずだという。

手洗いうがい、両親の仏壇へ挨拶を済ませたAさんが弟さんの部屋をのぞくとまだ寝ているらしい。いびきが聞こえた。

そんな日もあるか、と、特に気にすることもなく、Aさんも自室で眠りについた。

それから数時間後、昼過ぎに目を覚ましたAさんがリビングに行くと、弟さんがソファに腰かけながらTVを見ていた。

少し疲れた様子――というより顔色が悪い弟さんにAさんは声をかける。

「おはよう。どうした? 体調でも悪いのか?」

「あぁ……兄貴の方は何もなかったか?」

「何も、って、変なこと聞くなぁ。別に普段通りの仕事だったよ」

「そうか……」

兄より先にボケたのか? と、Aさんは弟さんから詳しく話を聞くことにした。


弟さん曰く。

夜中、弟さんは自室で寝ている時、尿意を催し起きたという。

寝ぼけ眼でトイレを済ませ手を洗い終えると、やけに耳につく音が聞こえてきた。音はリビングの方から聞こえていた。

人間の動作で発するような音ではない。泥棒あたりではないだろう。
と、様子を見に行ったが、何かが落ちている様子や、見て取れるものは無かった。

だが、先程から聞こえている、硬い金属同士がぶつかるような、カン、カン、カン、カン、という、断続的な音が聞こえ続けている。

あっ、仏壇のおりんだ。

Aさん達のご両親の仏壇にあるおりんから、その音は聞こえ続けていた。

気味が悪くなった弟さんは、後退りするように自室へ戻ると、布団を頭からかぶり、気付いた時には寝ていたという。

「普段聞く高い音じゃなかったからすぐには気が付かなかったんだけど、手でおりんを抑えて叩いたらあんな音だよなぁ」

弟さんはそこまで話すとため息をついて、口を閉じてしまった。

Aさんが仏壇の方へ視線を向けるが、そこはいつも通りだった。

「私が車で寝てて窓叩かれたのとちょうど同じくらいの時間っぽいんですよねぇ」

「ありがとうございます……。不思議な話ですね」

「それくらいですよ、私の身の回りで起きた変な話は」

二年前。終電もとっくに無くなった午前三時過ぎ。仕事終わりのヘロヘロ状態で聞いた、不思議な話。

Aさんのタクシーの窓と、自宅の仏壇のおりんがほぼ叩かれたのは偶然かそれとも……。


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