【怪談】ただそれだけの話3
芝生が見聞きした、オチもなにもない、怪奇な話です。
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『だれ?』
Sさんが中学生二年生の頃の話。
当時Sさんは、登校拒否とまではいかないけれど、学校にはあまり行かずにぶらぶらしていた。親も「高校に行ってから真面目にやれば」くらいで、特に口出しすることもなかった。
それで、学校へ行かずに何をやっていたか、というと、本を読んだり友人たちとゲームしたり、いわゆる“非行”――盗んだバイクで走り回ったり夜の校舎の窓ガラスを割ったり――はしていなかった。
ただ何となくふらふらと、やりたいことばかりやっていた。
当時を振り返るとそんな感じだ。
そんなSさんの趣味の一つに、深夜の散歩があった。
どの町にもあるような公的施設のほかは、田んぼしか無いような田舎町をぶらぶら何も考えずに歩くことが、無性に楽しかった。お寺や神社がいくつか存在していることも、怖い話好きなSさんには合っている町だった。
という、田舎の少しぼんやりした中学生のお話。
暑さもだいぶ和らいでいたから、十月あたりだろうか。日が傾くのも早くなってきていた。
前日も明け方近くまで徘徊をしていたSさんは、昼過ぎの適当な時間に眠りについた。
それから、大体十九時から二十時くらいだろうか。
Sさんが自室の布団で寝ていると、急に部屋の扉が開けられた。
ドアノブをひねる音は聞こえなかった。廊下から差し込む明かりの眩しさで目を覚ます。
ぼんやりした頭で、眼鏡を手探りで探しつつ、部屋の入り口に視線を移す。
寝起きも目も悪いSさんには、部屋の入り口に立つ人物が誰だかパッと分からなかった。
「お母さん? Y?」
シルエットでなんとなく、母親か当時小学生の妹・Yさんだろう、とSさんは思ったのだが、返事はない。
廊下の明かりの逆光のせいか、その母親か妹らしき人物はただ真っ黒なシルエットにしか見えなかった。
「も~」とSさんは声になるかならないかくらいでうめくと、たいして気に止めずに、再び眠りに落ちていった。
それから少々時間は経ち、目を覚ましたのは二十二時頃。
Sさんが枕元から眼鏡を取り、起き上がってリビングへ行くと、母親が寝っ転がりながらテレビを見ていた。
Sさんは冷蔵庫をあさりながら母親に「さっき部屋来た?」と尋ねるも「行ってないよ」と。
「じゃあYか~」と適当な食糧を取り出しつつ、Sさんがそう呟くと、「そんなわけないじゃん」と母親が言う。
当時小学六年生のSさんの妹、Yさんは、その日修学旅行に行って家には不在だった。
深夜徘徊を繰り返す子供に、母親がいたずらを仕掛けたのか、Sさんが実はシスコンで幻覚を見たのか。夢か、はたまた。
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というオチも何もないお話だったんだ。
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