【怪談】ただそれだけの話6
芝生が聞いた、オチもなにもない、怪奇な話です。
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『旅行土産』
知人経由で聴いた話。体験者の方をYさんとする。
昨年の夏のある時。知人は友人たちと一緒に、最近恋人と別れたYさんを誘い、知人、Yさん、二人の友人の合計四人で、某都道府県にある宿泊施設へ土日を使いレンタカーで旅行に出かけた。
その宿泊施設というのが、元は小学校だった廃校を改装してつくられたものだった。
田んぼや森林の緑があざやかな村の、少し坂を上った岡の上に建てられた木造校舎。グラウンドの一角に設けられた駐車場に知人はレンタカーを止めた。
到着したのは夏の日差しが降り注ぐ正午ごろ。車から降り、冷房の効いた車内との気温差にめまいを覚えながら、各々トランクから一泊二日分の荷物を詰めた鞄を取り出す。
Yさんの体験談は、泊まった廃校で起きた話ではない。
昇降口から入り、ホテルでいうフロントがある元職員室へと向かい、受付を済ませると、その日知人たちはYさんを励ますつもりで目一杯楽しんだ。
木造校舎のある意味での新鮮さや、家庭科室での食事作り、夜に肝試しと称して夜の廃校探検をした際にも、何も不思議な出来事は起こらず、翌日の正午過ぎには「楽しかったね~」などと話しながら帰路についたという。
Yさんが家族と暮らす実家へと帰宅し、自室で旅行荷物を整理していた時の話だ。
Yさんは旅行に持って行ったボストンバッグから、袋に入れた衣類や衛生用品を出し、鞄を陰干ししようと中身を全部出す。
そこで、サイドについているファスナー付きのポケットを開けていないことに気が付いた。
何か入れた記憶はないが、乾かすのだからとファスナーを開け鞄をひっくり返すと、先程開けたサイドポケットからバラバラと、何かが大量に落ちたという。
拾い、見てみると、ところどころ濃茶色の汚れが点々と付いた長方形の白い紙だ。
片手のひらにしっかり乗せられるくらいの量の紙片が、鞄のサイドポケットから落ちたのだ。
Yさんは『いたずらか何かで入れられたのだろう』と、カーペットの上に散らばった紙片を拾い集め、旅行へ行ったメンバーのグループチャットに写真を送ろうと撮影してから、部屋のごみ箱に捨てたという。
それから、寝る前に廃校旅館で一緒に泊まった友人たちとのグループチャットへ、思い出話含めてこの件を送るも、誰も心当たりもなく、いたずらでしたというネタばらしもなく、嘘をついているような様子もなかった。
今回筆者に話を教えてくれた知人の方も、誰かがYさんの鞄にそんないたずらをした、という話を聞いておらず、「逆にあのチャットの反応で誰かが嘘ついて入れてたとしたら、友達のことが信じられなくなる」と語った。
紙片の正体の可能性について、後日、Yさんからグループチャットに報告があった。
ある日のこと。書類整理をしていたYさんは、不意に紙で指を切ってしまった。
そこで職場に置いてある救急箱を開け、消毒をして乾かし、絆創膏を指に巻いた時のこと。
絆創膏から剥がした剥離紙が、あの時鞄から出てきた紙片、サイズとしてはちょうど同じくらいだった。
『紙片に点々と着いた濃茶色の汚れは、血だったんじゃないか』
そうYさんは書いており、知人は『気のせいじゃない?』と返すしかできなかった。
この話を聴かせてもらい、筆者は当該の廃校や、廃校の所在する村に何か事件や謂れが無いか調べてみたが、何もない。ちょっとしたどこにでも起きるような事故が何件かあったくらいだった。
この話をまとめていて筆者が思い浮かんだのは、恋人と別れたYさんが傷ついていると思った何者かが、絆創膏のつもりで入れたのかもしれない。気のせいですね、きっと。
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