「書く習慣」1ヶ月チャレンジ26日目:今日1日にあったモヤっとしたこと
「お部屋は、こちら。2階になりますね」
今から5年ほど前のこと。不動産屋さんに案内されながら、部屋を内見する。
2LDKの間取り。保育園に通う2人の子どもと妻との4人暮らし。
近くに公園もある。すごく綺麗なわけでもボロボロなわけでもない。数年前にリフォームも終わっているみたいだ。ここにしよう。
(1)ご近所トラブルに巻き込まれる
こうして家族4人のアパート暮らしが始まった、はずだったのだが、後にご近所トラブルに巻き込まれることになるとは、このときはつゆも知らなかった。
「ねえあんた、何してるの。ほか停めなさいよ。まったく」
共有の駐輪場で突然声を掛けられたとき、一瞬何の話をしているのかわからなかった。
60代の女性が息を荒くしてにらみつけてくる。
「ここって、誰でも停めていいんじゃ無いんですか」
「あんたいつから?」
「え?」
「いつから入ってきたのよ、って言ってるの」
「今月からです」
「私はもう、30年以上住んでいるの。ここはずっと私の場所なんだから。まったく」
60代くらいの女性。真下の部屋の隣の部屋に、娘と2人で暮らしていた。
「でも、不動産屋さんはどこでも停めていいって言っていましたよ」
「そんなの知らないわよ。最近ずっと停められてて、いったい誰かと思ってたのよ。わかった?」
共有の駐車場は、エントランスの近くに1つと、少し歩いて裏側に回ると大きなものが2つある。
あんたはこちらに来たばかりなんだから裏側に回りなさい、という主張らしい。
私もおとなしく引き下がればいいものの、共有スペースは当然みんなのものである。
その女性の縄張りと思われるスペースに、空いているときはお構いなしに停め続けたのである。
(2)子どもがのびのびと遊べないアパート
あるとき、アパートの前の道路で子どもと縄跳びをしているときに再び怒鳴られた。
「あんた、何度も言わせないでよ」
「はあ」
「こどものおもちゃもエントラスに散らかして。早くかたづけなさい」
エントランスにもちょっとした共有スペースがあった。2階の住民のこどもの三輪車やホッピングなどを置いておくような場所。そこにいろいろと置かれるのが気に入らないらしい。
「それにね、駐輪場もいい加減にしないと通報するわよ」
通報って言われてもなあ…。ご自由にどうぞ、としか言えないのだが。
しかし、子どもの前で争いごとは見せたくない。
以来、階下の住民に対して必要以上に物音を立てないよう、気をつかいながらの生活を続けた。
(3)車に謎のキズが増えていく
あるとき、駐車場に停めていた車に小さいキズがついているのを見つけた。
「あれ、こんなキズあったかな?」と最初は思った。
しかししばらく経って、またキズが増えていることに気がつく。
心当たりはもちろん、ある。
しかし決定的な証拠は、ない。
あからさまな嫌がらせを受けて、急に心が動揺した。
秋葉原の電気街口に行って、監視カメラの購入を検討したほどだ。
でも、そこまでやらなくてもいいとも思った。
そのとき私たちは、一軒家を購入する計画を立てていた。あと少しの辛抱、と自分に言い聞かせた。
新しい家はアパートから5㎞くらい離れている。
毎週末、家がどんどんできあがっていく様子を見に行くのが楽しかった。
(4)アパートを旅立つ
そして引っ越しの日。この女性にはわからないように出て行こうね、と妻と決めていた。
「わたしたち突然いなくなったら、どう思うかな」
「ただただ嬉しいんじゃない」
30年も住み続けるのは、もはや自分の家以上の愛着があるのだろう。
娘と2人暮らしの生活。アパートでいろいろな思い出を刻んできたのだと思う。
長い年月の中で、あるとき新参者が現れては消え、共有スペースといえど土足で上がり込んでくる輩を、精一杯追い払い続けて自分の城を守ってきたのだ。
車にキズはついてしまったが、おかげで、新居での生活を迎えられることが、それまでの倍以上に楽しみになった。
いま子ども達は1階に気をつかうことなく、家中を走り回る。
大きいものに買い換えた自転車も、堂々と好きなところに停めている。
たまにこのアパートの前を通る度に、よせばいいのに、まだ暮らしているかな、エントランスを覗いては妻に報告する。
「まだ暮らしてたよ」
「やめときなよ。ほんと好きだねえ」
車のキズは直していない。しかしこんな会話をしながら、私たちの生活は穏やかに流れ始めたかな、と実感している。