いい箱作ろう鎌倉幕府~朝比奈の切通(きりどおし)が紡ぐ地域と親子の絆~
皆さんは「切通」をご存じですか?
【切通(きりどおし)】
山や丘などを部分的に開削し、人馬の交通を行えるようにした道のこと。
トンネルを掘る技術がなかった時代に道路を切り開く手段として用いられていた。
今回は私の妻の地元、横浜市金沢区にある「朝比奈切通」について紹介します。地元の人の視点でお伝えするために、妻と、そして妻の父にインタビューをしながら、地域における朝比奈切り通しと熊野神社が果たす役割について調べました。
(1)朝比奈切通の歴史
はじめに「朝比奈切通」の歴史と役割について紹介したいと思います。
源頼朝が幕府を築いた鎌倉は、南を海、三方を山に囲まれ、天然の要塞としての防御機能が高かったことが評価されています。そのような閉鎖的な地形において、物資の運搬を行う重要交通路として、7つの切り通し(鎌倉七口)を作りました。その1つが「朝比奈切り通し」です。おもに六浦の海岸で作られた塩を鎌倉へ運ぶための大切な交通路として利用され、さらに鎌倉鬼門の守り神として熊野神社が建てられました。この切り通しを幼少時代から近くで暮らしてきた妻と、妻の父にインタビューをすることで、地元の人の視点から朝比奈の魅力を紹介して行けたらと思います。それではさっそくインタビュースタートです。
(2)妻の父へインタビュー
Q.「こどものころの切通についての思い出があったら教えてください。」
―切通を過ぎた山の上に熊野神社があって、よくこどもたちの遊び場になっていた。急な坂道があって、当時はちょっとした探検だった。水たまりにオタマジャクシが泳いでいて捕まえにいったり、山小屋の近くでかくれんぼをやったり楽しい思い出がある。お正月の三が日は早起きして神社にお参りに行って、ご来光を見にいく。これをずっと続けている。」
Q.「家族で切通について、どのように関わってきましたか?」
―家族みんなで切通を通って、鎌倉まで歩いてハイキングに出かけたことがある。そのとき一番下のこどもは3歳だったが、一生懸命歩いていてみんなに褒めてもらっていた。妻がサンドイッチを作って眺めのいいところで食べた。帰りはみんなクタクタに疲れてバスで戻ってきたけどいい思い出(笑)」
Q.「地元の人にとって切通はどのような存在ですか?」
―切通の先にある熊野神社は地域の人たちみんなで大切に守っている。年に3回お祭りをして、農業の収穫を祈願している。その他に交代で神社の周りを掃除したり、歩きにくい道がないか補修したりしている。お祭りや清掃活動、ご来光を眺めに行くと、地元の人とたくさん会える。熊野神社が地域の人との繋がりを作ってくれている。
(3)妻へインタビュー
Q.「切通に関する思い出はある?」
―正月に早起きして切通を通ってご来光を見に行くのは、私にとっての特別行事だった。私は3人兄弟だったけど、上と下の兄弟は朝が弱くてあまり起きれなかった。だからお父さんと2人で行くことが多かった。年頃で、お父さんとあまり会話がなかったときでも、このお正月のご来光はお父さんと2人で欠かさずに見に行っていた。
Q.「家の近くに切通のように、歴史的に重要な役割をもったものがあるというのは、地元の人としてはどういう気持ちだった?」
―ふーん、という感じ(笑)。正直よくわからなかった。でもご来光はすごく綺麗だし、富士山も見えるからワクワクしたことを覚えている。あとは、私小学校の遠足で山登りに行ったときに、まわりの友達が次々に疲れたー、ってバテちゃったんだけど、その時に私は全然平気だった。多分、この切通で鍛えられているからかな?って、ちょっと思った。(笑)
Q.「お父さんとご来光を見に行って、親子の絆が深まったとかって感じることはある?」
―これが直接関係あるかどうかはわからないんだけど、私が高校生くらいのときにお父さんから突然、「パパの洗濯物と一緒に洗うの嫌かな?」って聞かれたことがあって。でもそのときに、私そんなことを気にしていなかったし、嫌じゃなかったから、大丈夫だよ。って答えたことを今思い出した。(笑)」
(4)父と娘が仲良くなれるパワースポット
今回のインタビューを通して、朝比奈切り通しにまつわる歴史と、親子の絆について触れることができました。さて、このインタビューの直後、妻と朝比奈切り通しを実際に散歩してみました。5月の爽やかな陽気に包まれ、緑の葉が青々と茂っています。ほどよく息を切らしながら、進む道はとても心地よい。地元の人がきちんと整備してくれているおかげで、歩きやすく、ゴミ1つ落ちていません。
熊野神社を抜けると、地元民が知る人ぞ知る、富士山を望める絶景スポットがあります。この日、雲一つない晴天に映える富士山。鎌倉時代の人々も、同じように富士山を眺めて一息ついていたのでしょうか。800年前の歴史に思いを馳せたよい休日となりました。
私にも小学生の娘がいます。いつか「パパと洗濯物一緒はやめて」などど言われないように、今のうちに朝比奈切り通しに足繁く連れてこようと決意し、熊野の神様にそっとお祈りしました。