Moooi から考察するファンタジー
毎年面白い展示をサローネにて発表するオランダの家具ブランドMOOOI。
今年も非常に興味深いものとなっていた。
MOOOIの真骨頂は、彼らのストーリテリングだ。独創的なストーリーを作り上げ、まるで実際に存在するかのような世界観を作り上げてしまう所は非常に参考になる。新興ブランドであるが故の戦略といえよう。
まず考えなければならないのは、なぜ彼らはここまでストーリーにこだわるのか?という事だ。近年、ブランドコンセプトづくりに躍起になっている会社をよく見かける。会社の歴史は、ブランドコンセプトに必須なのだ。
老舗企業では、その歴史がブランドコンセプトの基盤となるが、新興企業には十分な歴史がない。
なのでより独創的なアプローチが必要となる。
そのアプローチとは、ファンタジーや空想、幻想、架空の逸話、神話などである。
Moooiの手法はファンタジーを作り上げて、そのストーリーをベースにプロダクトに落としこむという作業が行われている。ここでいうファンタジーは、独創的であり、また多くの人が共感、共鳴できるものでなければならない。
では、Moooiの考えるファンタジーとはどういったものなのかを考察していこう。
2018年より始まったシリーズ 「Extinct animals/絶滅した動物たち」は、既に絶滅した、動物を独創的に描き、あたかも実際に存在していたかのようなファンタジーを作り上げ、その世界観を各デザイナーに説明し、実際の工業製品として落とし込んでいく。世界観が独創的であればあるほど、アウトプットも独創的となっていく。そうすることで、他社との差別化を図っているのだろう。新興企業であるがゆえに、カッシーナやミノッティのようなイタリア老舗ブランドには歴史(ストーリー)では到底勝てない、ならば、壮大なファンタジーを作り上げて、それをもとに商品を展開していこうではないか! という事だと私は考える。非常にオランダ人らしい発想である。
では2024年のテーマは何だったのか。
2018年のExtinct Animalsのアイデアを受け継いでいるようにも感じる。
得体の知れない何か
トランスフォーム
ハイブリッド インセクト
といった所だろうか。
Big George by Cristian Mohaded
Big George by Cristian Mohaded のソファーは「得体の知れない何か」をふつふつと感じる。サイトのプレゼン動画を見てもらえれば、私が何を言わんとしているかを察して頂けるだろう。笑
Tubelight by BCXSY‘s
蛍光灯を擬人化ならぬ擬虫化された照明
シリコン製で自由自在にシェイプの変更が可能。プレゼン動画では実際に擬人化もしている。
ミミズのような幼虫のようなハリガネムシのようなイメージを彷彿とさせる。形を自由自在に変形することが可能である。
デザインは、 Boaz Cohen and Sayaka Yamamoto // BCXSY
日本人とイスラエル系オランダ人のユニットである
Green House Wallcovering Collection.
Coccinella Bella, Woodblock Beetle, Silk Bombis, Lacy Longlegs, and Techno Bee という架空の昆虫を作り上げ、これらの昆虫からインスピレーションを受け壁紙を提案している。
"昆虫は黄金色で美しい。まるでゼンマイ仕掛けの玩具の様だ。機械的で美しい。あれ?よく見ると、テクノビーがいる。そうか彼らは機械と昆虫のハイブリッド 新種の生物だ!"
展示会場に足を運んだ人であれば感じ取ったかと思うが、照明も鼓動のように点灯する工夫がなされていた。
Moooiの世界観を構成するファンタジーは、今回の展示ではっきりとお分かり行けただろう。彼らの生み出したファンタジーからデザインソースを抽出しているのだ。
ストーリーテリングやファンタジーの作り上げは、ブランドの魅力を高め、顧客との絆を深めるのに役立つ。特に新興企業は、伝統や歴史といった要素で老舗ブランドとの競争になかなか勝てない場合があるので、独自のファンタジーを通じて独自性を打ち出すことは、差別化の手段として非常に有効である。
但し、そのファンタジーは万人に共感されるものでなければならない。
2023年のMoooiはAIを駆使し、世界に一つだけのルームフレグランスを提案したり、NFTの領域にも家具を展開するといった革新的な試みをしている。
テクノロジーとデザインを見事に融合させたプロダクトを生み出し続けてるオランダ発の家具ブランドは未来のモノづくりの在り方を再発見させてくれる。ここに私たちは未来の一片、あるいは「夢」を見させてくれるMoooiに共感しているのかもしれない。
今後のMoooiの商品に注目したい。