たらい回しにされる難民を描いた『人間の境界』と、新宿の変貌
新宿三丁目にあるミニシアター、キノシネマ新宿で『人間の境界』を観てきた。ベネチア国際映画祭銀獅子賞受賞作品。『オッペンハイマー』より面白かった。
ただその面白いという意味が・・・・2021年9月、ポーランドがベラルーシとの境界地域に非常事態令を発令し、EUに入ろうとする難民を両国が押しつけあったことがあった。それを、難民と国境警備隊員、助けようとする支援者という三つの視点から描いたものである。
いい映画だが、覚悟して観に行かないと大変な思いをすることになるだろう。私も正直、冒頭を観て「作品選びを間違えた。GWなんだし『名探偵コナン』あたりにしておけばよかった」と、後悔した。でも観ているうちに、これはすごくいい映画だと確信するようになった。
政府や右派勢力からの妨害を避けるため、主に夜に撮影し、24日間で取り終えたそうだ。その情熱と勢いが、スクリーンからバンバン伝わってきて圧倒される。
ホランド監督は映像も美しいのが特徴で、それがこの悲惨な物語の救いになっている。10代の少年少女が、難民と支援者という立場を超えて意気投合し、共にラップを歌うという素晴らしい場面もある。
フリーカメラマンをしている娘は、難民みずからがEUを目指す数年間をスマホで撮影した映画『ミッドナイトトラベラー』が公開された時点で、もう作家に描けるものは無くなったと言っていた。
私もあの映画を観て、当事者がここまでの映像を届けた以上、当事者を代弁する作品は作れないと思った。その当事者はアフガンの映像作家だったので、完成度もとても高くて。
でも『人間の境界』を観て、当事者以外は発言できない、作品を作れないというのも違うのではないかと感じた。当事者に任せるのではなく、映画界としてもこの問題に関わっていくことが大事だと思う。
しかし、東京でも2館のみの公開で、初日にもかかわらず観客はまばらだった。まぁこの題材だからねぇ。わざわざGWにこの映画を選んで観に行く人は少ないだろう。
2週間ぐらいで公開が終わりそうだ。そのうち配信されるかもしれないが、スクリーンで観ると緊迫感が違宇野でお勧めする。
そうそう、館内にあったチラシの中に『新宿東口映画祭』という案内があって、ちょっと笑ってしまった。でもなかなかの内容なのだ。こういう地域密着のミニ映画祭もいい。主催は武蔵野興業で、新宿武蔵野館とシネマカリテで開催される。
新宿武蔵野館は大正9年(1920年)に開館した歴史ある映画館で、私の父親も学生時代に通ったそうだ。私も中学生の頃からよく行っていた。この映画祭では、大正と昭和の初期に製作された無声アニメの上映があるので、行くつもりである。
さて観終わったあと、私は久々に新宿三丁目から新宿駅まで新宿通りを歩いた。そして、その変貌ぶりに驚いてしまいまった。特に目を引いたのは、ドラッグスストアが外国人観光客向けの立派なビルになっていたことである。
そして、ルイヴィトンの前にできた長蛇の列。みんなスーツケースを引いているた。ああ、これがテレビで流していた「円安で、ブランド品を爆買いする外国人観光客か」と、悲しい気持ちになった。またアルタの隣の、靖国通りに曲がる角にはかつて、果物を串に刺して売っている人気の果物店があったが。
そこがよくわからない中華風台風のお店になっていて、落胆した。私は、外国人がお店を開くことを歓迎している。賑やかでいいし、どこの国の人も楽しく暮らせる国であってほしいからだ。だが、あのお店はひどい。あの一角が荒廃して見えてがっかりである。
すっかり落ち込んで駅に向かった私。ただ最後、前から歩いてきた白人夫婦が「キモノ、ビューティフル!」と言ってくれたので、少し気分が上向きになったのだった。