あなたは傷つく必要がないことに傷ついているかもしれない

「ダメな自分にがっかりする」
「期待してもらったのに応えられなくて申し訳ない」

そういうことを感じる人がいる。
そういう人によく出会う仕事をしているからかもしれない。

ずいぶん昔のこと。
自分が望んでいたというわけではないのだが、ひょんなめぐり合わせで想定外に有名企業に就職した、という若者がいた。
内定を伝えたときに親や周囲がとても喜んでくれて、自分でもそのことが誇らしくてテンション上がって内定を承諾したのだそう。
それから数か月。
仕事が苦しくてたまらなくて、転職したいのだが踏み切れない、そんな悩みを聞かせてくれた。
そのとき、その人はこんなことを語っていた。
・もともとやりたいこととは最初から全く異なっていた
・やりたいことに進むのは待遇面など考えても親の賛成が得られなかった
・そもそもそのやりたいことでは、なかなか就職先が見つからなかった
・就活に出遅れて焦っていたときに、有名企業の二次募集の情報があった
・キャリアセンターの人に進められて応募してみたら合格した
そんな流れだったらしい。
でも今、会社の方針にも担当している業務にもまったく気持ちが入らず、研修期間を終えて現場に配属されて数か月たって「無理だ…」と思っていると。まだたいして仕事もしていないのに、こんな有名企業なのに、みんなが羨んでくれたのに、でも辛い、自分が情けない、と。

これについてはいくつか考え方がある。
「まだ何もやってないのだから、先輩に悩みを打ち明けて助けてもらって、もう少し頑張ってみたら？」というのが典型的な助言だろう。本人もそんなことを言われるものと思ってきていた。

でも、ここで気になるのは、本人が語っている「辞めることをためらう理由」のほう。
・想定外に有名企業に入社できた
・それを周りが喜んで羨んでくれた
それなのに…という話。

本当のこの人はそもそもどんな仕事をしたいと思っていたのか。何を求めていたのか。
就活のときに「（最初に）やりたいことを親に反対された」という経験があるよね。で、上手く進んでいなかったこともあって、降ってわいたチャンスに飛びついてからのイマココなわけで、ここにその人自身の元々の望みはなかった。苦しいのはこの人の「足りていない」何かがあるのかもしれないけれど、そこをこの先ガマンして頑張りたいと思えるかどうかについては、もう怪しいよね。

好きなこと（分野・領域）だから頑張れる、そんな単純な話じゃないかもしれないけれど、少なくとも「みんなが凄いって言ってくれた会社だから」という理由だけじゃ頑張れないなと気が付いたって言う当たり前の話。

これは、キャリアの世界でいうと「外的キャリア」と「内的キャリア」の話。外的、つまり外側の評価・評判・上司の期待・出世…みたいなものに応えるキャリア観と、内的、つまり自分の中にある思い・希望・欲求…みたいなものを重視するキャリア観の違いになる。

外的だからダメってことではないよ。
最初から内的なものを明確にできて、実現できる人は多くはないから。
たとえばこの人が当初の望み通りの分野で、待遇が今一の小さな組織に入ったとしても、思うようにならないことはたくさんある。任せられる仕事だって「想定外にしんどい」ことも大いにおきる。そこに応えることで自分が変化する。そうやって外の期待から始まって、自分の内なる思いを発動する、という流れはよくあることなので、必ずしも外的が悪いっていいたいわけじゃない。ただ、内的キャリアをないがしろにしないほうがいいということ。

でね、この人が今見つめるべきは「自分の中」であって、親に申し訳ないとか周りをがっかりさせるとか、こんな有名企業を捨てるなんてと気に病むとかそういうことじゃない。
そこにあなたの気持ちを寄せていって、過度に落ち込んだり傷ついたりしなくてもいいってことなんだよ。

人はよく「もう◎歳なのに」とか「私は母親なのに」とか「せっかく◎◎大学をでたのに」とか「同級生はみんな～なのに」とか、もうほんとに余分なことに目を向けては、勝手に傷ついてしまう。
傷つかなくていいことに傷ついて弱る前に、そこを見るのをやめて自分の望み（の種）を見たほうがよほどいいよ。

（こういうこと書くと「好きを仕事にしなくちゃいけない教」に誤解されると困るんだが、まあ、そのあたりはまた別途）

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