小説 介護士・柴田涼の日常 140 ハットリさんの仮病、安西さんと真田さんの共犯関係
翌日は遅番だったが、休憩時間を使って電気毛布をいろいろ見比べてみて、ようやく決めて注文した。家に帰り、新聞を開くと一面広告で電気毛布のように暖かく保温性にすぐれた毛布が紹介されていた。これだと電気代がかからない。これにしようと思い、ネットで注文した電気毛布を急いでキャンセルした。しかし、この新聞広告の毛布は敷きパッドと一緒に使うとより温かくなると謳っている。支払う代金はさらに高くなる。少し考えてみることにする。
この日は、ヨシダさんの調子が良く、朝から起きてごはんを食べられたみたいだった。一日起きて車椅子上で過ごしてもらったが、日中は傾眠傾向だ。夜は目を開けて寝ていることが多い。夜に寝られていないのだろうか。
ハットリさんは「仮病」でお昼から部屋に引きこもってしまった。午前中に嫌なことがあったらしく、もうあそこにいたくないとのことで、リビングから退散したみたいだ。ナースの小宮さんが傾聴した。バイタルに問題はない。「このユニットのボスでいたいのよね」と真田さんは言った。どうやら洗濯物を他のご利用者がたたんでしまっていたことが気に食わなかったようだ。昼食後、ナシタさんがハットリさんのお見舞いに行ったが、反対にナシタさんのほうが心配されてしまった。「あんた、あたしがいなくてもちゃんとやるんだよ」。ナシタさんは聞こえているのか聞こえていないのかわからない様子で、「早く元気になってね」と言っていた。結局十三時過ぎには起き出して、ふつうにごはんを食べた。その後は何の問題もなく過ごされている。
今日は午後から冷たい雨が降っていて、一気に冷え込んだ。今年の冬は寒いのかもしれない。
翌日も遅番。出勤すると安西さんと真田さんがなんとなく甘ったるい感じだった。安西さんが真田さんに甘え、真田さんはよしよしとなでて可愛がっている。その共犯関係がむずがゆくて、イライラしていた。午後からはお風呂もないので、昼食後は、リネン交換をしたり、加湿器に水を入れたり、居室のカーテンを閉めたり、手すりを拭くなどして、ご利用者のおやつ介助は二人に任せることにした。安西さんは日中の勤務は今日で最後になる。あとは夜勤が数回残っているだけだ。仕事をせずにぷらぷらしているこの人の姿を見るだけでイラッとしていたが、それを見ることもなくなる。
今日はカーテンのクリーニングがあり、レースと厚手のカーテンをクリーニングに出し、代わりに厚手のカーテンが一枚かけられた。午後から業者の人が入り作業をしていた。
ヨシダさんはガリガリに痩せてきているようで、肩甲骨が浮き出てしまっていた。明日は回診なので、その様子を写真に撮り、ドクターに診てもらうことにしようと真田さんと安西さんは言った。BMIの数字も正確に出し、経腸栄養剤を飲む許可をもらおうとのことだった。食事は三食しっかり食べられていることが多いのに、体重が増えてこないのが気になっているようだ。何かの病気だろうか。