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民藝とは何か〜用の美

工芸に触れるようになると、自ずと「民藝(みんげい)」という言葉を知るようになります。もしくは、工芸という言葉以上に聞きなれている人も多いのではないでしょうか。本日は、この「民藝」について、説明したいと思います。

「民藝」とは、「民衆的工芸」という意味であり、大正後期に、思想家である柳宗悦氏を中心として提唱された生活文化運動です。柳宗悦氏の本は翻訳もされており、「Mingei」という言葉は、海外でも日本の代表的な思想の一つとしても知られています。

民藝とは何か

民藝には様々な解釈がありますが、わかりやすくいえば、分業化された工芸の世界において、無名の職人たちが黙々と行う作業、作品に美を見出したものであると言えます。今では、地方で素朴に作られたものが民藝だとする傾向がありますが、私は柳さんの本を読む限り、「分業化されていた」ということが重要な背景であり、一つのうつわが様々な職人の手を通過することで、人の個性に寄らない自然なものづくりが生まれたのではないかと思っています。

民藝の対局にあるのは、作家による美術作品です。それまでの工芸の世界では、作家性の高い美術品が高く評価をされる傾向にあり、民藝運動では、そうした美には重きを置かず、大衆によるものづくりにこそ、日本の美があることを唱えました。西洋の絵画や彫刻に近づくことが日本の近代化であると信じていた時代に、反時代的な考え方ではあったはずですが、この民藝という思想は、今でも多くの作り手に大きな影響を与え続けています。

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暮らしの中の「用の美」

柳氏が民藝運動の中で提唱した考えの中に「用の美(ようのび)」という言葉があります。「用の美」とは、工芸品は、鑑賞物ではなく、日常に使われてこそ美しいという考え方です。とても素敵な言葉ですが、私はこの言葉は、日本の宗教観とも関係があるのではと思っています。日本には、「八百万の神」という言葉のように、日常の様々なところに神が宿るという考え方があり、これは「用の美」と通ずるところがあります。もちろん、海外でも日々の暮らしを大切にする文化はありますが、西洋の壁画作品のように、特別な世界観を映し出すものを美とする考えとは大きく異なり、「用の美」という言葉は、民藝の枠に留まらず、日本のものづくり全体を表す言葉でもあるように思います。

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これからの「民藝」

ただ、実際に産地を回るとわかりますが、昭和初期とは時代は変わり、今では職人不足となり、完全な分業化は薄れつつあります。問屋とメーカーの境界線はなくなり、うつわの絵付けで言えば、外側の線のみしか書かなかった職人が、その内側を塗り潰す濃みという技法まで担当するようになり、場合によっては、原画まで考案する必要があるときもあります。また、現代の手仕事は、より希少かつ貴重なものとなり、自ずと価値の高いものへと移行せざるをえません。そうなると、無名の職人が作ったものと言えども、作品は高価なものになり、民藝運動として唱えていた美とは少しずつ存在が異なってきているようにも思います。

そうした時代の変化はありつつも、民藝の思想は今の時代に再考すべきものです。ものづくりが機械化されることは決して安易に否定できるものではないですが、この先のAI時代に向かうにあたり、人が物を作る意味や価値を考え直す時期にきているのではないかと思います。また、民藝運動と共に生まれた「用の美」という言葉は、日本の美意識としてとても大切な言葉であり、海外へと日本の文化を伝えていく際には知っておいてほしい言葉の一つです。

美しい日本民藝館

当社のスタッフは、入社をすると、まずは、東京・駒場にある東京民藝館を訪問してもらいます。私たちのHULS GALLERYでは、職人の作品だけでなく、作家の作品も扱うので、すべてが「民藝品」とは言えませんが、民藝の思想からは学ぶべき点が多く、まずはそうした目線や視点を共有したいという想いから、訪問を勧めるようにしています。ぜひ、これからアートや文化を学びたいと思う方は、民藝館に足を運んでみてください。

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