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日々の工芸品の楽しみ方

工芸品について興味はあるけれど、どのようなものから日常に取り入れたらよいかと聞かれることがあります。最もおすすめしたいのは、工芸の産地に訪問し、手仕事に直接触れながら好きなものを見つけていくことですが、そうした機会はなかなか作れるものではないので、今回のコラムでは、日々の工芸品の楽しみ方をご紹介します。

まずは「職人」と「作家」の違いを知ろう

日本の工芸の世界では、「職人」と「作家」という言葉は区別して使われ、作家が作る作品は「作家物(さっかもの)」と呼ばれます。厳密な定義があるわけではありませんが、一般的には、「職人」というのは、分業された役割を与えられた作り手や、依頼を受けて制作する作り手のことを指し、「作家」は個人で作品作りを行い個展を中心に活動を行う人のことを呼びます。職人は同じものを継続して作ることのできる「技」を重んじるのに対して、作家は一点一点の「創造性」を大事にするのも大きな違いです。

工芸を学んでいくと、職人と作家とでは、哲学やものづくりへの姿勢がそれぞれ微妙に異なることに気づきますので、その違いを感じながら、自分なりの好きな作品を見つけていくと工芸をより深く楽しめるようになります。

日常での工芸品の楽しみ方

作家物であれ、職人のものであれ、工芸品が日常の中で使うものであることは変わりありません。いきなり高価な物を買うのではなく、気兼ねなく普段使いできるものを探してみてください。珈琲が好きな方は作家物のマグも良いですし、食卓にご飯が欠かせない方はご飯茶碗もおすすめです。また、木製のお椀も、お吸い物からサラダまで、幅広く使えるため、重宝します。

絵柄を楽しめる豆皿

特定の用途のものが思い浮かばない方は、豆皿を選んでみましょう。「豆皿」とは、通常10cm以下の小皿のことを言います。様々な色や形のものがありますが、ぜひ最初のうちに、筆で丁寧に絵付けを施してあるものに目を向けてみてください。手で描いてあるものは、よく眺めてみると、筆の風合いが感じられ、手仕事の質感を楽しむことができます。また、絵付けのものでも、有田焼や九谷焼など、産地ごとの特徴の違いもあるので、そこから好きな豆皿を選んでみることがおすすめです。海外では、大きなうつわを好む方が多いため、海外での贈り物としてはあまりおすすめはできませんが、個人で楽しむには最適なものです。

写真:染付け豆皿各種・李荘窯作(佐賀県・有田)

持ち心地を楽しめるぐい呑

絵柄だけでなく、もう一歩深く、手仕事を感じてみたい方は、ぐい呑を探してみましょう。豆皿とは異なり、手のひら全体で握るものであるため、絵柄だけでなく、素材の風合いをより感じることができます。特に、轆轤(ろくろ)で作られている作品は、持ち心地も独特で、日常に取り入れると新鮮な気持ちになります。海外ではぐい呑をコレクションしている方も多く、話のの話題の一つになることもあります。陶磁器だけでなく、漆器や切子、銀器や銅器など、多様な工芸品に触れられるのも、ぐい呑の特徴の一つです。お酒が苦手な方でも、ぐい呑を茶器として使う方もいますので、自由に楽しんでみてください。

写真:ぐい呑・澤克典作(滋賀県・信楽)

侘び寂びを感じるなら抹茶碗

抹茶碗は、多くの陶芸家にとって、最も個性を映し出したものだと言えます。実用的でありながらも、日本の美意識を映し出した素晴らしい作品が数多くあります。日本には「侘び寂び(わびさび)」という言葉がありますが、これは海外でも多くの人が知る日本の言葉の一つです。抹茶碗の全てが侘び寂びを表現しているわけではないですが、多くの抹茶碗には、少なからず日本的な美意識が宿っており、そうした芸術的な価値を感じることができるのも、抹茶碗の楽しみの一つです。

写真:鉄燿天目茶碗・木村展之作(京都)

作家物の一輪挿しもおすすめ

これまでは、食のうつわを中心に紹介しましたが、作家の作品では、小ぶりな一輪挿しもおすすめです。自然の風合いを持つ花瓶は、家の中を明るくしてくれます。

写真:彫紋茶入れ銀彩・安藤良輔作(愛知県瀬戸)

工芸品は、美術作品とは異なり、ひとつで多くのことを語るものではなく、いろいろなものに触れながら、そこに通じる手仕事や素材の魅力を味わっていくものです。少しずつ日常の生活に取り入れながら、暮らしを楽しんでみてください。


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