漫才師「ミカミ」の同人小説
俺はジョイコル。魔人という名前で活動している生真面目な男芸人さ。
そんな俺の相方はフロウニンゲン(ごきぶり)、マンパワーで色んなところに呼ばれている売れっ子メガネ男だ。今日も俺は暇で暇で、暇すぎて高円寺のお家でシチューを作っていた。相方の帰りをエプロン着て待ってるのだが……。
ガチャ、おっ。
「ただいま〜、って魔人さん何してるんすか!」
やっと帰ってきた!なんて遅い帰りだ!夜道とか危ないのにさ!!
「何してるじゃないだろ、ちゃんとDMでシチュ作って待ってまつ、って送ったろ読めよ。」
「うぇー!ぼく呑みいったんでお腹空いてないっすよ。」
「食べないのかよ。じゃあ自分の分だけ作ればよかった!」
いつもこうだ!相方に振り回されっぱなしで、こんなん続いたら病んじゃうでしょ!
せっかくごきぶりの大好きなチーズいっぱい入れた、とろ〜りシチュー作ったのになぁ……。
「……俺が1人で食べるよ。」
ちぇって感じでふやけてもぐもぐ食べていると、ごきぶりが話しかけてきた。
「……魔人さんってポムポムプリンに似てますよね。」
「どんなとこが?」
「いや、どことかじゃないですけど、なんか似てません!?」
まったく……俺の推しキャラ、ポムポムプリンを引き合いに出したって許さないぞ。生活のパズルを揃えやがれ。
「てか魔人さん、こんな時間にシチュー食べて寝たら、馬になりますよ!」
「なんだそれ。」
「ええ!?言いません?食べてすぐ寝たら、馬になるって。」
「そのお前の地元の怖い言い伝え誰も知らねえよ。」
「えぇ!!」
ちくしょう、こっちのプリプリした気持ちも知らず、漫才の如きやり取りをかましてきやがる。
しばらく無言が続いて、ごきぶりは俺の顔色を伺いながらダイニングテーブルにちょこちょこ近づいてきた。
「……あー、さっきの呑み、お通ししか食べてないんで、やっぱ食べます。」
「お腹空いてないんだろ?」
「いえ!空いてます。食べます!」
「残しとくから後でチンして食べろよ。」
「いや食べます!食べます!」
「……わかったよ。よそうから待ってて。」
やれやれ、別に食べたくないんだったらすぐ部屋いって寝ちゃえばいいのに。正直今、あんまり顔合わせて話したくない……。
「うぉっ!これなんすか!」
「……。」
どうせ食べるならお腹すいてるときに食べて欲しいのに。
「あ、シチューって言ってましたね。なんかドロドロして、シチューって普通サラサラしてるでしょ!ええ!?……あ、チーズか!チーズでネバってたんすね!おお!」
コメント下手かよ。食レポの仕事とかきたらどうすんだこいつ。
「魔人さん、こんなシチュー凄いっすね!ええ!なんか見て作ったんすか?魔人さん……魔人さんは。」
ごきぶりの声が少し震えていた。
「魔人さんは……なんでもできちゃうんですね。」
俺が顔を上げると、ごきぶりの目からは大粒の涙がポロリポロリと流れていた……!
「え、なんだよ。どうしたんだよ。」
「……。」
「今日のライブで何かあったのか?」
ごきぶりはしばらくして、重い口をひらいた。
「……実は今日、ライブの企画で、鬼滅の刃クイズがあったんすけど……1問も答えられなくて!」
そうだったのか。
ごきぶりも色々あったんだ。
それなのに俺は。
「僕……鬼滅の刃見たことなくて!」
ごきぶりは、夏ぐらいわんわん泣いていた。
俺は帰ってからのごきぶりの振る舞いを振り返る。クイズダメダメだったとは思えない、気丈な振る舞いを……。
シチューなどという、白い食べ物でブリブリしてる場合じゃなかった!俺はこいつを、元気モリモリにしなきゃ!!!
「……あいはどこにある あいはどこにある あいはどこにある あいは〜どこに〜♫」
「魔人さん……その歌は……!」
ごきぶり、お前が歌えないときは……俺が歌うぜ!
「くだら〜ない こ〜いを く〜りかえ〜して〜は〜 くだ〜ら〜ないこいに なって♫」
「なって!」
「とりとめない かなしみに こころをうば〜われていた〜けど それ〜でも えが〜いて〜 とりとめない かなしみが こころに ふりそそ〜いでいた〜けど それ〜でも えが〜いて〜♫」
「あいはどこにある あいはどこにある あいはどこにある あいは〜どこに〜 であいはここにある であいはここにある であいはここにある であいは〜ここに♫」
よし、ごきぶりのやつ、調子出てきたじゃねえか。
「とりとめない かなしみが こころに ふりそそ〜いでいたけど それ〜でも えが〜いて〜 とりとめない かなしみが こころに ふりそそ〜いでいたけど それ〜でも であって〜♫」
「あいはどこにある!あいはどこにある!あいはどこに!あいはどこに〜!あいはどこにある!あいはどこにある!あいはどこにある!あいは〜どこに〜♫」
ごきぶり、ここにあるぜ。
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