芸歴1年目のフレッシュ日記(1月15日)

「結局、ザ・ダッチライフの2人はシャンプーとリンスなんだよ。ありゃまさんがシャンプー、僕がリンス、ま、それが妥当だね。」
肉大盛り、全部乗せの食べ物をガブリしながら、柴助は面倒くさそうに話す。向かいに座った女は柴助の方をにゅっと観察する。
「洗髪剤……?どういうことですか?」
「まあ、ライン使いを……あ!そうだ、挨拶が遅れました。」
「挨拶?」
柴助は立ち上がり、私たちの方に向き直ると平林先生直伝の30°のお辞儀をスタートした。

「読者の皆様、
   この度はザ・ダッチライフ柴助のnoteを
   ご覧頂き、ありがとうございますぅ。」

柴助は私たちの方をじっと見つめたあと、クシャッと笑った。
「えっと、意味が、全く。」
「この世界は、noteに書かれた文章の世界なんだよ。」
「いやいやいや!!!そんな、立川笑王丸の新作落語みたいな展開、あるか〜〜!!」
「立川吉笑ね。笑王丸は見台を後ろ歩きで迅速に運んだ丸い男だから。ミートテックの。」
「は、はあ。」
女は鳩がガチ鉄砲食らったような顔で柴助の話を聞いていた。
この女、名前を「石川・タモリ・麻里奈」という、ミドルネームに田辺エージェンシー所属のタレントが入っている、世にも奇妙な人物だ。
麻里奈は柴助を取材しに、えだまめ島からはるばる高円寺のとりいちずにやってきたのだ。
「あの、そうだ、洗髪剤。あれはどういう?」
「順を追って話そうか。しかしそれにはそれなりのソリッドがないと、僕も恥ずかしいし時間がかかりすぎる。ソリッドをプリーズ。」
「分かりました。……じゃあ、ソリッド『肉丼』」
「ふふ、目に入った物を使ったね。多くの人と同じだ。」
柴助はちょうど肉丼を食べ終わり、空のどんぶりを麻里奈に見せる。
「肉丼を作るには、君なら何からする?」
「家でですか?お店で出す想定ですか?」
「君の思う方でいい。」
「何それ、なんかうるせぇな。えっとじゃあ自分の家で作るとして……クックパッディングしますかね。」
「なるほど。クックパッドを見るということは、多分君は肉丼を作った経験があまりないんだろう。」
「そうですね、親がフルータリアンだったので肉料理をあまり知らなくて。だからまず調べます。」
フルータリアンとはベジタリアンのフルーツ版。フルーツは元々食べられる為に存在しているので、めちゃくちゃ理にかなっているのだ。
「つまり漫才も一緒なんだよ。肉丼を漫才に置き換えて考えてごらん。フルータリアンだとまずクックパッド、つまり情報収集するのが定石。それを否定する論のほとんどはくだらん自己顕示欲から生まれている。」
「ここでいうフルータリアンは漫才でいう何ですか?」
「フルータリアンです。」
「え?」
「フルータリアンはフルータリアンです。」
「えっと……肉丼は漫才の例えで、フルータリアンは?」
「そのまま。フルータリアンのこと。」
麻里奈は恐ろしいことに気づく。
「え、もしかして今、フルータリアンが漫才を作る時の話してる?」
「そうです。」
「おいふざけんなよ。」
「ごめんなさい。」
柴助は一切音を立てずに土下座をした。こういった所から元スパイであることが伺える。
麻里奈は呆れながら声をかける。
「……顔、上げてください。」
「ウィーーーン、ガシャーーン!」
「うわっ!ロボットみたいに顔上げるの上手っ!」
柴助はロボットダンスが少し得意であった。
「まあ、しばらく肉丼を美味しくする方法について語っていいか?」
「いいですけど、イエローカード1枚ですよ。20枚溜まったら退場です。」
「いやいや、肉丼といっても牛宮城とは限らんやろ。」
「それ、パツキンですッ!【ロンブー1号】ね。」
「いやそれ、鎌足超合キーンね。」
「それをいうなら、大人が飲んだら逮捕だぞ、黄色い手錠で逮捕だぞ、ね。」
「いやいや、それエネルゲンのCMね。」
麻里奈は柴助と合気道みたいな掛け合いをして、汗だくになっていた。
「フルータリアンだった君はそうだな……『1年』かな。1年間美味しい肉丼を作りたくて修行した。それでも君は、君の肉丼がとりいちずの肉丼より美味しいとは思えない。でもどうしても自分で美味しい肉丼が作りたい。どうしようか?」
「うーん。私なら絶対に美味しくなる汁『絶対汁』に肉を漬け込んで、米も漬け込んで、なんなら私の毛先やため息も漬け込みますかね?」
パチン!柴助は指を鳴らす。
「ビンゴ!そういう事だよ。しかし君が君の顔面を漬け込んだ瞬間に君がアンパンマンになってしまったら?」
「……あ!顔が濡れて、力が出なくなります!」
点と点が線で繋がった麻里奈は、勢いよく立ち上がった。その拍子に膝裏でイスをトンと押してしまい、イスが等速直線運動。マクラな視点からすれば地球の重力により等速円運動。4万kmの距離を1周して、また戻ってきた。
麻里奈はひらりと座った。
「私、ド肝抜かれました……。」
「つまり分かるだろ?僕達はバイキングマンでいないといけない。」
「でも……それではドキンやコキンに使役されてしまいます!!そんなのディスペンパック!!」
麻里奈は興奮して茨城弁が出てしまった。
「まあまあ、バイキングマンにもホネーマンという人気スレイブキャラがついている。使役のことはイーブンマンだと思って置いてくれ。」
「……分かりました。」
麻里奈は少し納得がいかなかったが、このモヤモヤは後で町のランドマークにシチューぶっかけて発散すればいいか、と考えた。
「あと、さっき毛先を漬け込むという発言があったが……この髪を見てもそう言えるかな?」
柴助は自分の頭髪を麻里奈に向けた。
「何見せる気ですか、やめてください。帰りますよ。」
「どたま見せたいだけだろ!!なんだセクハラみたいに扱いやがって!ふざけんな!!!」
「いやいや!お前の日頃の行いが悪いせいだし、セクハラは当人がセクハラと感じたらセクハラなんじゃい!!クソ男が!!!」
「ごめんて!見たら分かるから!!」
麻里奈はおそるおそる柴助の頭髪を見た。
「……え!?脳から直接髪の毛が生えてる!?」
柴助は脳に毛根があり、毛が頭蓋骨をぶち破るスタイルで発毛を遂げていた。
「僕は、脳から、直接髪の毛が生えるタイプ。」
麻里奈はドン引きして言葉が出なかった。
「こういった場合、思考即ちキューティクル、ブドウ糖ビフォーキューティクル。故に『絶対汁』に漬け込む工程は?」
「……めっちゃご法度。」
「正解。もう全部分かっちゃってんじゃん。」
麻里奈はもう放心状態だった。今朝、時間なくて朝ごはんが食べれなかったことをウツギ博士のせいにしたいくらいだった。
「じゃあ別の例で考えよう。君は縁起の良い食べ物しか無い世界『エリンギーワールド』にいるとしよう。……縁起の良い食べ物って何か分かるよね?」
「えっと、ナス、まめ、エビ、えーっと紅白まんじゅう、も一応そうかな、あと栗きんとん。」
「あと、あれもあるよ……『だって』」
「だって?……ああ!『だーってだーってだって伊達ちゃんです』伊達ちゃん、伊達巻か!」
「そう。あとは『ん』のつく食べ物も『運』とかかって縁起が良いとされてる。」
「じゃあ、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンも縁起の良い食べ物ですね。」
「そう、そんな世界で君はパン屋さん巡りをするんだ。すると三軒目のパンツ屋さんで『総理大臣募集!総理大臣募集!エントリー制だからエントリーしてぇ!!チケットバック500円!!!』と言いながら透明なスク水を着てワニワニパニックをするラーメンズ小林賢太郎と出会った。」
「総理大臣になれるチャンスってことですね。」
「そう。君はなるかい?」
「もちろんです!」
「しかし、その場合起こる問題が……おっと、ここからは自分で考えてみようか、なんとなく分かるだろ?」
麻里奈は思考を巡らせる。
「総理大臣になってしまったら……まず野グソができなくなる。いや、野グソは普段あまりしないからええっと。漢字の知識無いと総理終わるけど、私は漢検n級(nは4<n<2を満たす自然数)持ってるからモーマンタイ、うーん。……宮内庁御用達系かな?」
「はは、もっと簡単に考えなよ。……さっきの肉丼のことを思い出して。」
麻里奈はさっきの結論を思い出した。そう、バイキングマンである。
「……わかった!!政見放送の途中で私がアンパンマンになってしまったら……変なカット編集だと思われちゃう!そんなことになったら、怒った民衆の群衆が会衆して密集。慣習じゃ繋囚だから看守を買収。ランシュー履いてダッシュで撤収してまた来週!」
「大正解、見事だ。拍手するから待ってね。」
柴助は自分のカバンから使い捨てゴム手袋を取り出し、ピチッと両手にはめた。
パチパチパチ……。
「ブラボー。」
「柴助さん……意外と潔癖なんですね。」
「右半身だけね。」
テッカテカのミニ風が店内にそよぐのを感じながら、麻里奈は将来読むなら何歳のサバにするか、そんなことを考えていた。
「じゃあ、そろそろ出ようか。」
「あ、すみません!私話に夢中になって何も頼まずに居ちゃいました……。」
「大丈夫、僕もだよ。だからお会計せずに黙って退室しよう。」
「え?肉丼は?」
柴助はどんぶりを自分のカバンにしまい、でっかいオナラをしながら答えた。
「はは……家に『絶対汁』余っちゃっててね。」

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