[日記]哺乳瓶で、乳飲み子に戻る。
赤子のように愚図りたくなった。
いわゆる「オギャりたい」である。
ここ数ヶ月間、全く遊びに出ていない。原因はもちろん、例のウイルスである。
もともとインドア派の私であるが、遊びに出る用事が無いわけではなかった。数少ない遊びの用事を潰されてしまったのだから、私は大変落ち込んだ。発散する先のないストレスは溜まる一方である。家に引きこもって特に何をするでもなく、ただ横になって休日を潰した。
こんなはずではなかったのに。
今頃、友人と楽しく旅行をしていたはずなのに。
名古屋でシャチを見ていたはずなのに。
加えて将来への漠然とした不安。
家賃、税金、年金。
あー、やだやだ。
あー!!
やだやだー!!
うーーー!!!!
オギャー!!!
というわけでこれを買ってきた。言わずと知れた哺乳瓶である。
大人のしがらみから無理矢理に逃れ、ここは一つ、赤子に戻ろうではないか。
きちんと0ヶ月から使える物を買ってきた。
何故なら私は産まれたばかりであるから。
まずは煮沸消毒からである。
大きめの鍋にたっぷりお湯を沸かし、その中に哺乳瓶全てのパーツを入れ、5分ほど煮沸する。
その後、自然乾燥しながら瓶が冷めるのを待つ。
そして哺乳瓶に入れる物といえばもちろん、
マジのミルク。
常温で保存、使用ができ、粉を溶く必要もない液体のミルクらしい。隣にはこの紙パックに直接つけられる吸い口なども売っており、全国の保護者の皆さんは外出時などで重宝しているに違いない。知らないけど。
こちらもきちんと0ヶ月から飲めるものを買ってきた。産まれたばかりだから。
ミルクに付属していたストローで簡単に入れられる。
完成だ。
まずはミルクの匂いを嗅ぐ。コーンフレークを浸した牛乳のような、甘い匂いがした。
私は軽く仰向けになり、ドキドキしながら口をつけ、そして吸う。
あっ、甘い。
ほのかに甘い。
飲んでみると、牛乳というよりは豆乳に近い味がした。ほんのり砂糖を入れた豆乳である。
もっと味のしない不味いものを想像していたのだが、全然問題なく飲める。
しかし、上手に飲めない。哺乳瓶の吸い方がわからないのだ。
かつては私も吸っていたはずなのに。
ストローを吸う要領でチューっと吸っても、ちゃんとミルクは出てくる。しかし全然飲めてる感じがしない。コレじゃない。
上顎と舌で吸い口を潰すように飲んでみる。なんとなく赤子はこうやって飲むイメージだったからだ。しかし肝心のミルクは全然出てこない。ストローのように吸った時の方がよっぽど飲めていた。何故か。
答えは簡単だった。
前歯が邪魔なのだ。
前歯があるせいで、上手く乳首部分を潰せない。
なるほど、乳首というのは前歯の無い赤ん坊でも飲みやすい構造になっているのだな。……いや、逆か?乳首を吸うために赤ん坊には歯が無いのか?
乳首が先か?赤ん坊が先か?
ミルクを飲むために永久歯を抜くわけにはいかないので、私は上唇と下唇で前歯を覆い、それで吸い口を潰して飲むことにした。
すると、今までで一番よく飲めるではないか。ははーん、なるほどこれが正解か。そう思って飲んでいると、だんだんコツが掴めるようになってきた。
この矢印のあたりでギュッと唇で押さえ、その後に先端部分を潰すと飲みやすい事に気がついた。
それに気づいたらあとは早かった。
気がつくと夢中になって飲んでいた。ミルクはどんどん減っていき、それに比例するように、私の大人としての部分もだんだんと溶けて無くなっていくような気がした。
あぁ。
なんだか眠くなってきたような。
ふわぁ……。
むにゃむにゃ。
おぎゃー……。
やっぱ大人が、