[日記]ハロンタウンの母は祝ってくれなかった。
誕生日だった。
今朝、LINEをもらって思い出した。すっかり忘れていた。
私はもぞもぞと布団から這い出て、おもむろにNintendo Switch の電源を入れた。
プレイするのは、ポケットモンスター シールド。ゲームをスタートすると、ごくありふれた私という存在は、ガラル地方の大スター「ポケモンリーグチャンピオン」になる。
私はすぐにポケモンセンターへと向かう。
ガラル地方においてポケモンセンターとは、美しいジョーイさんがポケモンを回復したり、フレンドリィショップというカウンターでアイテムを買ったりできる施設である。
私はいつものようにポケモンセンターに足を踏み入れる。
すると、いつもより暗い照明。そして──。
これである。
私は、誕生日にポケモンセンターに行くとお祝いしてくれる事を知っていた。
正面のジョーイさんにも、右のフレンドリィショップ店員にも「おめでとうございます」と声をかけられる。私は上機嫌だ。
そしてふと思った。他に私の誕生日を祝ってくれる人はいないのだろうか?
となると最初に思い浮かぶのは、親友でありライバルでもあるホップだろう。
家が隣同士で、家族ぐるみの付き合いもある。私がポケモンリーグを目指すきっかけにもなったのが彼だ。
切磋琢磨して強くなった仲だ。きっと私の誕生日を覚えていてくれることだろう。私は急いでホップの元へ向かった。
あれ?
ホップ、覚えててくれてなかったのか……。
ふーん。いや、いいんだけどね。別にちやほやされたいとかそういうんじゃないし。
ただ、もしかしたら、万が一とか、覚えてくれてるかもなーって思ってただけだし。
うん、大丈夫。全然。いや全然気にしないで。オッケー、オッケー。
気を取り直していこう。
もう一人私の誕生日を覚えていてくれそうな人がいる。そう、私の故郷、ハロンタウンにいる母である。
私は久しぶりに実家へ帰ることにした。
最近チャンピオンとしての仕事が忙しく、なかなか帰れていなかったが、母は元気にしているだろうか。
きっと私の誕生日を覚えてくれているはずだ。
……あれ?
おかしいぞ?
ホップはまだしも、家族じゃん?
ていうか実母じゃん?
お腹を痛めて産んだ子じゃん?
しかも、私一人っ子だし。覚えてません?
え?もしかして実母じゃない?私ってもしかして貰われっ子?
そうか。そうだったのか。
だからホップもママも誕生日を祝ってくれなかったのか。
誕生日を忘れてたんじゃなくて、知らなかったんだね。
私が、ママの子じゃないから。
いつ生まれたかわからないから。
そうか……。そうだったんだ……。
結局、私の誕生日を祝ってくれたのは、ジョーイさんとフレンドリィショップの店員さんだけか。
そうかぁ……。
ん?
なぜポケモンセンターの人は私の誕生日を知っていたんだ?
私はブラッシータウンで一度、占いをやっている女性に誕生日を教えたことはあった。しかし、ポケモンセンターの人に誕生日を教えたことは無かったはずだ。
なぜだ。なぜ知っている。
もう一つ気になっていることがある。
ポケモンセンター向かって左、姓名判断師のおじさんは祝ってくれないのだ。
つまり、私の誕生日を祝ってくれるのは、ジョーイさんとフレンドリィショップの店員さんだけということになる。
ママが私の誕生日を知らない。
誕生日を知らないはずなのに祝ってくれるポケモンセンター。
祝ってくれるのはたった二人。
まさか。
私は。
私の本当の両親は……!
いえーい。
そんなのかんけーなーい。
Happy birthday to me !!!
いえーい!