<乗車記>British Pullman(2024/2/15 THE GARDEN OF ENGLAND)
ヨーロッパ旅行の個人的メイン、British Pullman。今回は日程と予算の関係で「THE GARDEN OF ENGLAND」というLondon Victoria駅(10:55発)からKentまで行き、そこからLondon Victoria駅に戻る(16:10着)コースに2024年2月15日(木) に乗車して参りました。
実はコロナ禍前にハネムーンでVenice Simplon-Orient-Express(VSOE)に乗車予定だったのですが、今や(2024年時点)価格がVenice→Londonがポンド換算で当時の1.5倍(2020年2月時点:£2,573/人、2024年4月現在:£3,885/人)、更に円安に拍車がかかり、とても手が届かなかった故の選択だったのですが、結果、大正解でした。
ちなみにVSOEもですが、British Pullmanも時々Offersでセールが出ます。…とはいえ、基本的には空きが多い時ほど安いのと(混んでくると値上がりする)、直近の日程しかセールしなかったりもするので、日程が決まっている場合はセールを待たずに買う方が良いと思います。
我々は旅行の行程がギリギリまで決まらず、かつそこまで混んでいない便だったようで何度予約サイトを見ても値段が上がらなかったので、2024年2月1日(木)に2月15日(木)の便を一番下の値段(£400/人)で予約出来ました。ちなみに前日はバレンタインだったので、ものすごく値上がりしていました。
出発前
London Victoria駅に到着すると2番線の方向から軽快な歌声が聞こえます。
昔の歌謡ショーから飛び出してきたかのようなレトロなカールヘアの愛らしい女性たち。その横には「British Pullman」の看板が。
スタッフの女性が素晴らしい笑顔で「Hi, how are you?」と話しかけてくださいます。横のスポットで写真撮影をしてくださる間、スッとコートを預かってくださるスムーズで自然なサービスが心地良い。待合室でリンゴジュースをウェルカムドリンクとして提供しているとのことで、のんびりしてたらBritish Pullmanの入線を見逃しました(笑)
しばらくしたら受付が始まり、印刷したチケットをスタッフさんに提示し、ガラスの扉からホームの中へ。私たちの車両Ibisは6両目。Ibisに辿り着くと凛としながらもフレンドリーな笑顔のスチュワートさんが記念写真の撮影をしてくださり、いよいよ車両の中へ。
箱根のラリック美術館でPullmanの中に入ったことがあるのですが、その数百倍は感動。そう、この車両は美術館という日常と切り離された動かない展示物ではなく、実際に動き、ホームに入線し、誰でもが入れる駅の中という我々の日常の中にあるのです。
London Victoria~Dover Priory
いよいよ乗車
高鳴る鼓動を感じながら、美しくワックスがかけられた濃い木目が美しい細い通路を抜けると、座席の温かなイエローと黄緑が目に飛び込んできます。
窓から入る温かな日差しに美しく映えるデザインです。スチュワートのお兄さんに「このcoachは好き?」と訊かれましたが、嫌いなわけなかろう大好きだよ。国鉄(National Rails)の線路を走るので、他の列車との兼ね合いもあり、11時過ぎに発車。すごい、このレトロな列車が動いてる。窓の外に景色が流れ始めたその瞬間でさえも、また信じられませんでした。
スチュワートのお兄さんがIbisは1925年に鋳造された最も古い(ほんまか?)車両で、エルグレコ(ほんまか?)の彫り物が車両にあるよ、と説明してくれます。
もう100年も前の芸術品が線路を走るという事実のあまりの贅沢さに、説明を聞きながら涙が溢れそうに。お金を積んだ即興のぎんぎらぎんよりも、どう考えても重ねた歴史の重みの方がすごい。すごすぎる。
まずはご挨拶代わりに小さなカップで「ジンジャーワインブレッド」が提供されました。しっかり甘いのにしっかりアルコール感があり、ホットワインのような感じです。
しばらくするとこれから向かうKentのスパークリングワイン(すっきり飲みやすい感じ)をスチュワートさんが目の前で抜栓してくださり、それをちびちびしながら内装や車窓を楽しみます。他の車両を見に行くとそれぞれ意匠が違って、壁の彫り物やカーテン、椅子の布地等全てが違って、それにも涙が出そうに。今日、使われていない車両にも美しい薔薇とユーカリが生けてあり、各車両への愛を感じます。
ここで他の車両の話を書くといつまで経っても進まないのでそれは後ほど別の記事に。
戻ってくるとパンのサーブが。フォッカッチャかサワードゥか(…とメモしてますが写真見るとフランスパンっぽいな…)が選べました。私はフォッカチャを。併せて胡麻がたっぷり乗ったカリカリのパンも提供されます。美味しい。
Ibisの前の車両がメインキッチンだったようで、お料理が始まるとそこからスチュワートさんがどんどんお皿を運んで行きます。車両間の扉を開けなければならないので最大3皿ずつしか運べず、列車が走りながらなので当然めちゃくちゃ揺れる。その中で早足で、かつ周りへの配慮も忘れずにどんどんサーブを進めるスチュワートさん。すごすぎる。
一つのキッチンから4〜5両分の料理を出すとのことだったので今日、稼働していたKitchen Carはここだけだったかもしれません。
Appetizer:Cold, smoked Scottish sea trout
前菜は食感を残したビーツにたっぷりサーモンのタルタルが乗ったお皿。
少し塩気を感じる味付けですが普通に美味しい…!イギリスのご飯は美味しくないなんて言われることもありますが、具材も丁寧に美しく切り揃えられており、想定外の素晴らしさに感動。
前菜を食べ終わり、ふらふらしてるとスチュワートのお兄さんが前方の車両をガイド付きで案内してくれました。車両にはしっかりと水場とキッチンが。キッチンはガスも通ってる。木造車両でガス調理なんて、日本では考えられない仕様です。
一番前のCygnusはいわゆるファーストクラス。特別なデザイナーが入った車両で、ここはメニューも食器も違うとのことです。
一通りご案内頂き、Ibisに戻ると私たちを出迎えてくれたレトロな女性歌手たちが歌を歌いに来てくれました。カメラを向けるとチャーミングな目線をくださいます。可愛い。
お手洗い
床は車両名が入ったタイル敷き。ぱっと見レトロですが、使い勝手は何の問題もありません。中の清掃も行き届いており、タイルの欠け一つありません。すごい。
Soup:Roasted carrot and coconut soup
スープはお皿が置かれたのち、大きな銀食器からホカホカのスープがスチュワートさんによりサーブされます。人参とココナッツのスープですが、もったりしていてほんのり甘くて身体に沁みる。そこにネギとブラッククミンを合わせたものが後ろから来られた別のスチュワートさんによりサーブされます。ネギとブラッククミンに少し酸味があることもあり、個人的には少し不思議な組み合わせでした。ただ人参とココナッツのスープ自体がとても美味しかったので大満足です。
車窓のサプライズ
スープを頂いて一息ついたところで、なんとまさかの海の車窓!
海沿いを走る区間がある事はルートの地図を見て知っていたのですが、とはいえ真横が海になるとは思っておらず、嬉しすぎるサプライズです。
(Kentに行くことはもちろん申し込み時に記載があったのですが、ルートは申し込み時にも申し込み後の案内にも記載がありませんでした)
改めて、当日配られた地図を見ていたらDover Prioryの名前が。全然気にしていませんでしたが、このDoverってドーバー海峡のドーバーじゃん!とテンションが上がります。
約100年前、1920年代の車両の窓から見るキラキラの海。イギリスはお天気であることが少ないと聞きます。あまりの奇跡と美しさにただただ目を細めるばかりでした。
海車窓を過ぎると港のような場所を過ぎ、Dover Prioryで一時停車。この旅で初めてそして唯一、列車の外に出ることが出来ました。
駅ではワイン片手に先ほどのレトロの女性の歌がホームで披露されます。曲に合わせて踊る方も。ダンスを見るとヨーロッパっぽいな、なんて感じてしまう踊れない日本人。
歌を聞いたり、ドーバーで車両の写真を撮りまくったりしていると、列車が発車するとのことで急いで列車に戻ります。楽しい旅もいよいよ帰途へ。
Dover Priory~London Victoria
冬の葡萄畑を横目に食事が再スタート。
この辺りがちょうどワインの銘醸地のようで、車内ではスチュワートさんが追加のワインを進めてくださいます。周りの様子を見るとグラスではなくボトルで来るようだったので、スパークリングも飲みきれていなかったこともあり、追加のワインは頂かず。あとでこの追加のワイン料金に含まれていたことを知ったけれど無駄になるよりは良かったよね、と思ってしまうのは日本人の気質なのかしら。
Main:Cannon of Kent lamb
メインは今、我々が巡っているKentのラムさん。ラムは大人数分を列車で火入れしたとは思えぬほど柔らかく綺麗に火入れがされていて、とっても美味しい…!どうしても運搬途中に少し冷めてはしまいますが、周りのスパイスもあり、とても美味しかったです。付け合わせのポテトにもタイムの香りがしっかりあり、丁寧な仕事が伺われます。ちぢみミニキャベツの中には少しピクルスっぽい感じの野菜と豆が。なんだか久しぶりにお野菜をたっぷり食べられた気がして嬉しい一皿。
帰りはスチュワートさんが忙しく、ずっと車両を行ったり来たり。行きに車両探検しておいて良かった。車両も心持ちスピードが速く、メインの後はすぐにデザート、チーズ、プティフール、そして最後のお飲み物が。
車内販売されているグッズの売り込みは一切なく、席に置いてあるこの紙一枚。こちらからスチュワートさんに訊いてみたらようやく注文を取りに来てくれました。商売っ気がなさすぎる。クレジットカードが使えたので、お土産が捗りました(笑)
Dessert:Apple baba
デザートのApple babaはバターのしっかり効いた、マドレーヌくらいのしっかり目の生地にまとうほどのお酒の量で、通常のBabaのようにひたひたでないのが嬉しい。甘すぎず優しいお酒の香りで、とっても美味しかったです。私が昔、ロンドンで食べたあの超甘いケーキは何だったんだ…
Cheese:Great British cheeseboard
チーズはお酒が回っていることもあり、説明は全く覚えておらず。とりあえず量が多い!これで2名分です。
チャツネがパイナップルにクミンでなんかちょっとオニオンっぽいニュアンスもありカレーのような不思議な感じ。
チーズに合わせるものは温かいフルーツ入りのパンとクラッカー2種類から選べます。「全部少しずつほしい!」というと、たっぷり3枚ずつくれました。多いよ!
Petits fours
プティフールはチョコレート。最後にコーヒーか紅茶か選べました。
終わりが近く、感傷的になってしまったこともあり味はよく覚えていません、、、
注文したお土産をスチュワートさんが持って来てくださっていると、いよいよVictoria駅到着。降りる際にはお二人のスチュワートさんが腕を支えて下さり、お別れのご挨拶を。
まとめ
日本の観光列車にもそれなりの数(※ラグジュアリートレインと言われるななつ星、瑞風、四季島には乗ったことはありません)乗ってきましたが、British Pullmanは自分が、なんなら両親や祖父母すら生まれる前の車両というところもあり、そもそも比較してはいけないと感じるくらい歴史を背負っていて、背筋が伸びる気持ちのする列車でした。また揺れる車両の中、限られたスペースの中で、私の下手な英語を頑張って紐解きながら温かくきめ細やかなサービスやお料理の提供をしてくださったスチュワートさんの温かさにも心から感動しました。
間違いなく人生における最高の旅の一つです。一生の思い出に残るひとときをありがとうございました!