<体験記>noma kyoto(4/22 12:00~)前編
本当に行けて良かった。体験出来て良かった。それに尽きる素晴らしい時間でした。
「私たちノーマのチームは、日本・京都へ行きます。」
そしてその後に衝撃的な「ノーマ閉店」のニュース。
それでも1回の食事に12万5,000円なんて一介の会社員には払えるわけもない。3分で即完売したとの情報もあり、諦めながらもTwitterで時々検索をかけると全く味の想像がつかないお料理ばかりで見れば見るほど気になってきてしまいます。出来心で予約サイトを見たら、直近であれば時々キャンセル枠が出ている…!
コペンハーゲン行きの飛行機は往復で15万円程度~。それに比べると京都までの新幹線は往復3万円弱。これは行くしかない。
清水の舞台から文字通り飛び降りるつもりで覚悟を決めたのが4月10日。予約サイトのリロード芸人を始めるものの、キャンセルが出ても2名席ばかり。こんな価格なので同行者探しは困難を極め、なんとか見つかったのが4月15日。しかもTwitterで知り合った会ったこともない東京の方。そこから怒涛のリロード合戦を実施し、予約を取ったのが4月20日。予約日は4月22日(土) 12時~。
13万円弱の食事を決めるペースじゃないし、会ったこともない同行者って大丈夫?勢いがなければ理論的にはあり得ない状況で、心の準備も洋服の準備も全く何も出来ていないまま、あっという間に当日になりました。
noma kyoto体験談&全皿レビューにあたり
人にはそれぞれ感じ取れる感覚、感じ取れない感覚があり(私はキンモクセイの香りが分かりません)、今までの経験によっても感じることは全く違うと思います。
私が見つけた他の全皿レビューや感想のリンクも後編に貼っていますが、noma側でお皿の構成要素を変えられた可能性もありますし、全部違って全部正解。お料理ってそういう物だと思います。
そういう意味でこのレビューはあくまで「しばの感覚が捉えた4/22(土)12:00開始のnoma kyoto」として、お読み頂ければと思います。
noma kyotoの暖簾をくぐるまで
Twitterで知り合った同行者とドキドキしながらAce Hotel Kyotoのロビーで待ち合わせ。まずは実際にいらっしゃったことにホッと。お話すると本当に素敵な方で、お互い同行者が見つからなくてにっちもさっちもいかないところでようやく見つけた、だなんてちょっと運命的。
会場は3階ですが、ロビーの奥からnoma kyotoに誘(いざな)う食材たち。
階段を何往復もして二人して写真を撮りまくっていたのですが、それでも30分も前に到着したnoma kyoto。
いよいよこの扉の、暖簾の先に行く時が来たんだと思うと、胸が高鳴ります。緊張しているのかワクワクしているのか分からないくらい、ずっと冷汗が止まらない時間が続きます。
しばらくするとnomaのスタッフさんが来てくださり、英語で名前とどこから来たかを聞かれます。東京から来たと話すと「私も今度、東京に行くのよ!」と。「今日は本当に素晴らしい天気だね」というと、「京都は本当にお天気が良いのが素晴らしいわ。私の国ではなかなかそうはいかないもの」だったり「東京は鉄道もあるし、屋内で遊べるものも多いからお天気に左右されないのがいいわよね」と、フレンドリーに話が弾みます。
一介のただの食べ歩きが好きな二人組。ブランド物を持っているわけでもなければ、綺麗なドレスを着ているわけでもない。
日本でfoodieや常連さんが沢山おられるお店で肩身の狭い思いをすることもありますが、noma kyotoはそんなことは全くなく。ドレスコードもないので「自然体で楽しんでほしい」、そんな気持ちを感じるおもてなしにホッとしたことを覚えています。
いよいよ暖簾をくぐる
掃除が終わり、いよいよご案内開始。遠くから見ているだけだった「noma kyoto」の暖簾をくぐります。
今回、2日前(自分で書きながらビビる)に予約したShared Tableだったのですが、同じく東京から来た直前に予約された日本人お二人とご一緒だったので、スタッフさん側で上手く調整をかけてくださったのかもしれません。
暖簾をくぐった瞬間、目の前に広がる大きな窓から入る太陽光と窓越しに広がる新緑が本当に素晴らしく「ああ、いよいよ来たんだな」と。良いお天気で良かった。緊張しすぎて写真はありません。
我々4人は暖簾をくぐって、すぐ右手にある半個室ようなお部屋に案内されました(他に4人×3組おられました)。部屋の奥にはキッチンが見え、スタッフの方がきびきびと楽しそうに働いておられるのが見えます。天井には提灯のような形のランプ、昆布のような布、下に垂れるほどの植物が飾られ、日本の要素が取り入れながらも「nomaの世界観」が作られているような設え。
noma kyotoが終了し、Ace Hotel Kyotoのメインダイニングとなった時、どんな設えに変わるのかも少し楽しみです。
スタート
誰がノンアルコールで誰がアルコールペアリングかを確認されてからいよいよスタート。私はノンアルコールにしました。最初は『紅茶の葉、花、茎』のお茶から。スッキリと飲みやすい。
4人で着席し、最近行ったお店は?なんて話をしているうちに、早速、八寸をイメージしたお皿(籠)が登場。全く心の準備が出来ておらず、ワタワタする私たち。説明も思いっきり聞き逃した。不覚。
八寸(湯葉と行者ニンニク、麦麴と赤しょうが、トマトの花、桜の葉、ポーレンのジェル)
青紅葉が大胆にあしらわれた中に大ぶりの葉や石、竹で編んだような籠、漆塗りや土の色を生かしたお皿たち。そこに石垣島のバラを花弁にしたピンクのお花が鮮やかに咲いていて、まるで光の中で小さなお庭に迷い込んだような、視界がそんな色合いで満たされます。
後でキッチンのスタッフさんに伺ったのですが、この八寸だけで100種類近い素材・調味料が使われているそうです。どういうこと。
手前の行者にんにくが乗ったものから時計回りに食べてください、とのことでした。なお、我々4人全員が日本人だったからか、1回以外は全て日本語の説明でした。助かった。
(「英語どのくらい出来ますか?」と途中で一度訊かれたので、本当は英語で説明したかったのかも…ごめんよスタッフさん)
湯葉と行者ニンニク
「ああ、これだ…」と伊勢丹新宿店催事の石坂シェフのお皿(きっとそのうち書きます)を思い出した、衝撃的なスタート。
香りの高い炭火焼の行者ニンニクに湯葉、豆、豆の花やつる、ノビル等。
行者ニンニクや湯葉の(ご想像の通りの)食感や香りを生かしつつ、合わせてあるカシスオイル、湯葉の中にあったと思われる味噌のような何かがえげつない。いわゆる味付けとしての味噌のような醤油のような昆布のようなインパクトのある味があり、その後、ほろっと少しなめらかな舌触り、そして突然、最後に余韻のような優しい甘さがやってくる。
花火で言うと冠菊の先が最後の最後がぴかっと光るような、そんな最後まで見(味わい)逃せない味。心が震えました。これだ、だから私はここに来たんだ、と。
麦麹と赤しょうが
ダイレクトに“美味しい”甘辛味。「蒲焼さん太郎」と書いておられる方がいましたが、分かる気がします。
赤しょうがと言われていたのでいわゆる生姜の味を想像していたのですが、第一印象は生姜の食感を生かしたのか、でした。
あいだのペーストが少し辛(から)く感じたのですが、他の方の全皿レビューを読むと「生姜の辛みが強い」とのことだったので、辛みを感じたのはペーストではなく生姜だったのではないか説。辛(つら)いと辛(から)いが同じ漢字って紛らわしいね。
(見えないのですが)下にある麹のケーキが蓮根餅のようなしゃきっとねっとりな食感で面白い。説明で「麹のケーキ」と聞いていたのに、席の人みんなで「これってなんだろう?」と訊きあってしまう。
麹は知っている。でも麹のケーキなんて今まで出会ったことがないので、馴染みのある食材なのに分からない。それがとてつもなく面白い。
トマトの花
一口で食べてしまったので、ちょっと記憶が曖昧なのですが、石垣島のバラの仄かな香りの後ろでセミドライトマトのぐにっとしたテクスチャーを軸に、トマト、ハスカップ、サルナシ等、様々な酸味が時間差で押し寄せてくる一品。それらの様々な酸味が重なり合いつつも微妙に時間差で舌に届き、長く余韻を残していく。そんな一品でした。
(写真では見えていませんが)ガクの部分はナスタチウムの葉で表現。見えないところまでのこだわりが憎い。バラの部分は季節によって変わるらしく、直近(5月頭)ではオレンジ色になっていました。
桜の葉
一口で食べてしまったので(以下略)、いわゆるサクラ味はせず、香りを楽しむためのものかな。裏には黒ニンニクのペースト。僅かな酸味は他のレビュー記事を読むとハスカップの粉だったのかな。
いわゆるニンニクの喉の奥に残る匂いは全くせず、濃いうま味の部分のみを引き出した印象。黒ニンニクのこの少し重ためな印象に軽やかな桜の香りと僅かな酸味がよく合う。ペーストがなめらかだったにも関わらず、桜の葉の筋が全く気にならなかったのも個人的にはちょっと驚き。
ポーレンのジェル
やさしいトマトの酸味があるゼリーにふりかけをかけた感じ(語彙力のなさたるや)。今まで食べたことのないポーレン(ミツバチの花粉)がたぶん私の中でふりかけの玉子の印象になった。残念。
上のふりかけ部分(言い方…)の塩味と(レビュー記事の受け売りで)ハイビスカス由来と思われる酸味が割と強めで、それを下のゼリーが受け止めながらスッキリした食後感に。
心の準備が出来ていない状態で臨んだ一皿目。どれもはっきりとした味の中で複雑な味が時間差でやってくる。口に入れた瞬間からまるで不思議の国のアリスのラビットホールに迷い込んだような、最後まで何が起こるか分からない味わい・香りの嵐。この時点で約13万円払って、かつ諦めなくて本当に良かった…と心の中で号泣していました。
海藻のしゃぶしゃぶ
若わかめ、トサカノリ、ミリン、ユミガタオゴノリ(同行者の文字起こしに感謝)といった海藻と山菜のあまどころ、柑橘の小夏をしゃぶしゃぶするという趣向。
右のお鍋の中には熱せられた石が入っており、熱々で供されます。中には燻製したメカブから取った酸味のあるお出汁。
手前はポン酢風の付けダレ。ポン酢風と書いたのは、なんと生青海苔を発酵させた調味料にハバノリのオイル、シーベリーを入れたものであってポン酢ではないから。
海藻をしゃぶしゃぶするとビックリするくらい鮮やかに色が変わります。楽しい。
生の海藻でないとこの色変化は出ない(はずな)ので、生産者さんとの深いつながりを感じる一皿でもあります(シーベジタブルさんが入っているからこそかも)。
シーベジタブルさんの記事はこちら
塩味の効いたもの、しゃきしゃきで少しぷちっとする食感のもの、いわゆる我々が知っている海藻の味と食感の物。
日本人ですら知らない海藻の味わいにnomaで出会ってしまうだなんてちょっと悔しい。でもそれよりも新たな海藻の魅力を知れたのが嬉しい。
途中でしゃぶしゃぶしている海藻をお箸から取り落として、「この海藻だけでいくらするんだ…」とモッタイナイ精神を発動し、お鍋の底に熱せられた石がある中を必死でお箸で捜索するターンもちょっと楽しかった。
(隣の方も取り落としていたので、断じて私のお箸力(なんだそれ)のせいではないと思う)
小夏をしゃぶしゃぶするというのも初体験。果実のジューシーさと酸味のある出汁が合い、かつ温まって甘みが増すのでこれがまた美味しい。これはいわゆる昆布だしではなく、酸味のあるこの出汁だから出来たしゃぶしゃぶだろうな。
あまどころはアスパラガスのような食感という説明があったが、まさにそんな感じでしゃきしゃき。
「この出汁だけ飲みたいよねぇ」という総意の元、謎のコミュ力を発揮して、スタッフさんに通常提供はないスプーンを出して頂き、出汁だけ飲んだり、ポン酢風のタレだけ飲んだりして楽しませて頂きました。出汁+タレの酸味の組み合わせが至高過ぎてスプーンが進むこと、進むこと。
スタッフさんに「ご堪能頂くのは嬉しいのですが、この先もあるので飲みすぎないでね」と言われました。てへっ。
ノンアルコールペアリングは『メロンとサルナシ』。そこにゼラニウムと山椒等を加えたもの。酸味の中にいるメロンとゼラニウムのこっくりとした重めの香りに海藻のうま味が、鼻にほんの少し余韻を残す山椒に海藻がよく合いました。
タケノコとヤリイカの出汁
ここで冷たいお皿への温度変化。
タケノコは燻製したとうもろこしと一緒に火を入れ、ゆっくり冷ましてからとても薄くスライスしたもの、ソースはやりいかのエキスにジャスミンで香り付け、そこに麹で作ったオイルを。
しゃきしゃきとしたタケノコの食感や旨味はそのままに、ただ今まで見たことのない薄さで切られています。これは誰が食べてもたぶん筍って分かると思う。
秀逸なのは合わされているソースとタケノコに移されたトウモロコシの香り。ソースだけ飲むとトウモロコシの甘さを感じるのですが(たぶん筍に挟まっていたペーストが解けている)、筍と頂くと、とてもイカ!
同行者が「イカとトウモロコシって夏祭りみたいですよね」と言っていたのですが、微妙に燻製香があるので納得感がすごい。案外的を射ているのでは。ジャスミンはニュアンスくらいで言われなければ全く私は取れず。
昆布や鰹出汁にタケノコは分かるのですが、イカの出汁?しかもとうもろこしと一緒に火入れしたですって?そこに黒コショウのアクセントがあり、お皿としては日本料理っぽいけれどもそうではない何か。
筍×とうもろこし&イカの出汁という組み合わせが日本料理から外にはみ出している感。筍の間に挟まっていた、食感は梅干しの皮だけど全然梅干しの味がしないやつはなレビューを読むにトウモロコシのペーストだった模様。
ノンアルコールのペアリングは知覧の煎茶。
後で知覧の煎茶をいただく機会があったのだけれど、いわゆる旨味・甘み・渋み強めのお茶ではなく、さらっと美味しいお茶だったので、複雑みのある味わいをリセットさせ、次の一口がまた楽しめるようなそんな仕掛けのペアリングだったように感じた。
6,000文字を超えているので、一旦ここまで。
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<体験記>noma kyoto(4/22 12:00~)後編|shiba|note