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「チャリンチャリン太郎」

 『太ろう』という店ができていた。すでに太っている私などからしたら一目見ただけで冗談じゃないと避けて通りたい店名だが、案外客はあるようで、なかなか流行っている様子であった。むろん体格がひょろっとしていてもっと肉付きが良くなりたいというニーズは決して少なくないだろうが、あまりにもストレート過ぎはしないか。
 だがそうこうするうち酷暑や流行り病にやられて私も痩せてしまった。つい好奇心も手伝い『太ろう』の扉を叩いてしまったのだ。
「いらっしゃいませ!」
かけ声とともにチャリンチャリンとカウベルが鳴る。なあんだただのの喫茶店じゃないか。私はブレンドを頼みマスターに話しかける。
「おたくの店名変わってるね」すると彼はこう答えたのだ。
「上手い字でしょ。息子の太郎が書いたんです。まだ小学生だよ。郎の字は中学で習うらしいけど。今から稼業に参加する意識を持たせてるんです」
将来を見すえた経営者意識に感心し自分もいくらか太っ腹になっていた。

410文字

コーヒーショップもチェーン店ならチャリンチャリンとロイヤリティーが本部に😓

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