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春の夢 夢みるギター

 春の夢魔にでも襲われたのだろうか? これは夢だ。どうか夢であってくれ。

「鳴らぬならメルカリに出せアルペジオ」
そんなあ、勘弁してくださいよお。
待て待て、
「鳴らぬなら弦を付けようアルペジオ」
これでどうじゃ? 
それは少しマシだけど丁寧にやってくださいね。
三番目の持ち主は一番親切そうだった。
「鳴らぬなら練習しようアルペジオ」
うんうんそれだよ、頑張ってね。
 だけど練習してくれる気配はなく、僕はずっと物置に放置されていた。何度目かの春がやってきて、ホトトギスがさえずる。
「良かったねみんな行ってしまったよ」
僕は運ばれて行く。ここは何処だろう。
「じいちゃん、忙しくてとうとうギター弾いてる暇もなかったよな、だからせめてあっちで楽しんでくれ」
「待ってください、金属の部品は一緒に入れないでくださいね、あと解け残った雪とかも」
「なんだよ、じゃあネイルはどうなんだよ」

 状況はわかったから、早く覚めてくれよこの春の悪夢。

401文字

孫は仕方なくリストを入れた五七五と遺品の一部、ありがとうな。一人取り残された僕はときどき呟く春の夜の寝言を。

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