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「新国立劇場 喜歌劇こうもり アイグル・アクメチーナ」2020年11月29日の日記
・新国立劇場での”こうもり”開幕初日。
・チケットを買ってからの1か月間、とにかくこの日を楽しみにしていた。
・オペラやコンサートなどのチケットって半年くらい前から前売りが始まるのが一般的だけど、今回はもちろん世間の情勢があり、ギリギリでの発売となった
・2階席前列のど真ん中の席を取れたので、まずは眺めが最高だった...。
・オペラは、客席と歌手たちが歌う舞台の間に、客席よりもさらに一段下がっている舞台があり、このスペースにオーケストラが並ぶ(オーケストラピット)。
・2階から見ると、舞台の全体が見えることはもちろん、オーケストラピットの景色もよく見える。
・本公演はドイツ語で日本語と英語の字幕。新国立劇場は舞台両サイドに電光掲示板みたいのが2つずつあって、そこに日本語と英語の字幕が表示される。
※以下、感想を時系列順に書こうと思ったけれど、そうすると先に今回の舞台演出のネタバレを書かざるを得ないので、先に、見終わった後に感じた”こうもり”の魅力を書きます。ネタバレは無しです。
・1幕、2幕、3幕どれも本当に素晴らしく、たくさんの出演者とたくさんの聴衆が同じ空気を通してつながる、大規模なコンサートならではの、ずいぶん久しぶりな幸せな感覚だった。
・”こうもり”が初演されたのは1874年の4月。
・その1年前、1873年は本来、帝都ウィーンにとってウィーン万博開催など、世界へオーストリア=ハンガリー帝国の隆盛を示す華々しい1年となるはずだった。
・しかし、現実はコレラの感染症の大流行、ウィーン万博開幕直後に発生した株価の大暴落など、国民は経済的にも精神的にも辟易する結果となった。
・ウィーン万博が始まるまでの期間、長年、ウィーンは都市大改革を推し進めており、古い城壁を取り除き、街灯はロウソクからガス灯に置き換えられ、道路や公園、公共施設の整備が急速に進んでいた。
・その総仕上げとして、近代国家に生まれ変わったオーストリア・ハンガリー帝国を世に示す”ウィーン万博”に期待が高まっていた分、国民の絶望の反動は大きかったようだ。
・でも、ここに私が”こうもり”を好きな理由がある。
・ウィーン万博が開催される年に、感染症の大流行や経済的な大きい打撃を受けてしまったこの歴史は、いまの日本の状況とここまで似るか、というほどに類似している。
・この半年ほど、多くの国で”芸術”は真っ先に活動が制限され、”延期”、”中止”となったコンサートやライブは数知れない。
・私が知らないだけで、今回の打撃をきっかけに、解散してしまったグループや廃業してしまった会場も数知れないことだろう。
・しかし、1873年のウィーンっ子たちは、現代と類似した状況下でありながら、芸術を制限するどころか新作オペラ”こうもり”を作り上げることを望み、”こうもり”に出てくる歌詞のとおり「どうしようもないことなのだから、シャンパンと共に忘れる」ことを良しとした。
・私は今日の”こうもり”を観た時、その愉快なストーリーや出演者たちの素晴らしいパフォーマンスに加え、この当時のウィーンっ子たちの気質に惹かれた。
・”こうもり”で策略にはめられギャフン言わせられるアイゼンシュタインは、”金持ちの銀行家”という設定である。
・大恐慌に経済があおられていた当時のウィーンの大劇場で、国民たちは架空のマヌケな銀行家をギャフンと言わせることで気を紛らわせていたのかもしれない。
・今のご時世に”こうもり”が観れたことは、私にとって期せずして”こうもり”初演時のウィーンっ子たちの気持ちをかなり近いレベルで追体験できた本当に貴重な機会になった。
※以下、今回の新国立劇場での”こうもり”の舞台演出などのネタバレがいきなり始まります。
・いい?
・いいのね?
・第1幕で私が新鮮だったのは、舞台がアイゼンシュタインの家の外であったこと。
・家のすぐ外のガーデンテラスみたいな広場で、主人公アイゼンシュタインやその妻ロザリンデをはじめ、各キャラクターたちの掛け合いが展開される。
・そのガーデンテラスのカラーやデザインもすごく良くて、アルフォンス・ミュシャが描く花束のような配色の素敵な空間演出になっていた。
・私は今回”こうもり”を観るのは4回目になるのだけど、過去3回はどれもアイゼンシュタインの家の中だったと思う。
・少し調べてみると、新国立劇場での公演では例年、第1幕はアイゼンシュタインの家の外が設定されるようだった。
・際立っていたのはロザリンデ(アイゼンシュタインの妻)を演じたアストリッド・ケスラーの透き通るソプラノの歌唱力。
・頭1つ抜けているというか、私は声楽は全然専門的に学んだことはないけれど、”超えられない壁”の向こう側のテクニックとギフトであることをハッキリと感じてただただ圧倒されてた。
・第2幕は華やかなオルロフスキー侯爵邸での舞踏会のシーン。
・オルロフスキー侯爵を演じたズボン役(男性役を演じる女性)のアイグル・アクメチーナがめちゃくちゃにかっこよかった...好き...。
・20代の若手メゾソプラノで、新国立劇場は初登場。
・出で立ちの華やかさに加えて、筋の通った歌声にすっかりファンになってしまった。
・日本語で「アイグル アクメチーナ」で検索しても、ほとんど今回の公演の情報しかまだ出てこない。
・「Aigul AKHMETSHINA」で検索すると、各地での公演の様子やメディアからの評価を知ることができる。
・推していって日本語での検索結果を増やすぞ!
・日記のタイトルは「アイグル・アクメチーナ」にします。
・今回の公演以外でまた来日して公演してくれる機会があれば必ず行く。
・パーティーのシーンではシュトラウス二世のポルカ「雷鳴と稲妻」が演奏され、東京シティ・バレエのみなさんも出演された。
・2幕ではオルロフスキー侯爵に加えて、イデーレの茶目っ気ある性格の魅力も1幕に増して表現されていた。
・第3幕の監獄のシーン。
・看守であり酔っ払いのフロッシュ役は、キャストの中では唯一歌わない役で、3幕にしか登場しない脇役ではあるけれど、”こうもり”では恒例でベテラン俳優がキャスティングされ、公演の目玉の1つとして注目されている。
・今回は桐朋学園で教授も務めるペーター・ゲスナーがキャスティングされていたのだけど、これがとってもはまり役で、私たち観客はすぐに彼の演技に生み出された雰囲気のとりこになってしまった。
・ちなみに今回フロッシュが手に持っていたのは焼酎で、「銀行に金を預けても金利は10%、焼酎のほうがマシだ。40%だから!」と期待通りのキャラクターを見ることができた。
・監獄から種明かしのシーンに移る瞬間は劇的で、おそらく新国立劇場の演出では恒例なのだけど、これまで監獄のセットだと思っていた背景は幕で、それが左右へ引けると、2幕で見えていたパーティー会場とそこにいたたくさんの仕掛人たちが登場する。
・大団円を迎えて、おなかいっぱいの満足感で帰った。
・プログラムも買った。(1000円)
・でかクリスマスツリーも見た。