黒柴的パンセ #46

黒柴が経験した中小ソフトハウスでの出来事 #31

ここでは、中小ソフトハウスで勤務していく中で、起こったこと、その時何を考え、また今は何を考えているかを述べていく。

「この資料は、誰に向かって書いていますか?」
これは、あるプロジェクトに参画したときに、そのプロジェクトのマネジメントをしていたコンサルから言われた言葉である。

このプロジェクトは、アミューズメント企業向けのパッケージ開発を行っており、その中で基本設計作業を行っていた。
作業の内容としては、すでに作成されている要件定義書を紐解いて、製造するパッケージソフトウェアの基本設計書に落とし込んでいくことになる。
いわゆる「ドキュメント作成」という作業にとなり、一部に検証用のプロトタイプを作成するチームもあったが、プロジェクト大半のメンバーは毎日検討資料を書いては、このプロジェクトの要件定義を行ったコンサルチームのレビューを受けていた。

この開発に参画する2~3年前くらいから、黒柴は社内でのポジションはかなり上位となっており、ほとんどの作業はみんなが嫌がる「ドキュメント作成」になっていた。
見積り依頼に対する見積もり提案書や、プロジェクト報告、トラブルの説明や対策に関する資料など、社内・社外にかかわらずいろいろな文書を作成することに携わった。

そんなことから、黒柴は自社内ではこの手のドキュメント作成作業の上手い人という評価を得ていた。しかし、黒柴自身ではこのドキュメント作成に対して「上手くやれていない」という感じが終始付きまとっていた。
それは、資料を読んだ人の反応が押し並べて「良くない」のである。
これは、特に社外の人が顕著だった。かなり頑張って作成した見積もり提案書を読んだ社外の人の反応は、すごく薄かった。当然、受注にもつながらなかった。

当然ながら、見積もり提案書ということで、社内レビューも通過していた。社内レビューでは「まあ、これでいいんじゃないか」という感じで、いくつか追加の指摘事項は発生したが、「やり直し」という感じで完全にNGをもらうことはほとんどなかった。
それ故に、この「自分の資料に対する読んだ人の反応が良くない」という課題は黒柴を悩ませた。

話しは戻って、プロジェクトに参画して、要件定義書の理解フェーズを通過した後、基本設計書作成に関連する検討資料を作り始めた。
最初の資料をレビューしてくれたコンサルが、黒柴の資料を一読して最初に言った言葉が冒頭の言葉であった。
この言葉を聞いて黒柴は、ものすごく衝撃を受けた。この時まで、黒柴は自分が書いた資料を読む人のことなど、1ミリも考えたことがなかったからである。

この指摘をもらった後、「誰に向かって書く資料なのか?」ということを意識してドキュメント作成を行うようになって、だいぶ読んだ人の反応は良くなった。中には、「黒柴さんの資料は、論理的でわかりやすいね」と評価してくれる人も現れた。
そういう体験が重なってくると、「ドキュメント作成」というソフトウェアエンジニアが忌避しがちな作業も楽しくなってくるというもので、より深くドキュメント作成について考えるようになり、それはまた高評価を得るという好循環を生み出すことにつながった。

「書くこと」が楽しくなってくると、パンセ#45で書いたような「ノウハウ」をドキュメントとしてアウトプットして、「ナレッジ」として再利用できるようにするということもできるようになってくる。
では、なぜ自社ではそのような好循環が生みだせていないのか?

それは「誰もドキュメント作成の楽しさを示せていない」ということに尽きると思う。
上記したように、コンサルが黒柴の資料作成について指摘をしてくれた以前に、いくつもの資料が社内レビューを通過してきたが、コンサルのような指摘をしてくれた人は、社内には全くいなかった。
自社のマネージャ層、営業を含めて、皆エンジニア上がりの人ばかりなので、彼らにとっても「ドキュメント作成」、ひいては「ドキュメントのレビュー」というのは、忌避すべきアクションなのだ。
「書く」、「書いて残す」、「書いたものが高評価を得る」という楽しさを示すことができる人がいない以上、「ノウハウ」がアウトプットとして整理されて、「ナレッジ」として活用されることは無いと感じる。

諸兄の社内でも、「書く」という楽しさを示せている人は居るだろうか?



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