
Film Out Episode9 -秘密の時間-
次の日、僕は、テヒョンの会社の入り口に立っていた。
ガラスに映った自分の姿を見て、スーツの襟を正し髪の毛を整える。
そして、深呼吸をしてから受付へと向かった。
しばらくすると、テヒョンが小走りにやってきた。
「アンニョン」
笑顔でそう言った彼に、僕も思わず微笑んでしまう。
「こっちだ」
そう言って彼は、僕の背中に手を当ててエレベーターホールへと案内する。
僕は、促されるまま、その案内に従った。
エレベーターはどんどんと上へと昇っていき、次々と同じエレベーターに乗った人たちが降りていく。そして、二人だけになった途端、テヒョンが僕の隣にそっと寄り添って言った。
「そのスーツ、やっぱりよく似合う」
「そう?あんまり着慣れないからちょっと窮屈」
僕はそう言って、少しネクタイを緩めた。
そんな僕を見て、彼は微笑んだ。
「すぐ慣れるよ」
彼がそう言ったと同時に、エレベーターは最上階へ到着した。
僕たちが降りると、テヒョンが僕の先を歩いて行った。
そして、一つのドアにたどり着き、テヒョンがノックした。
「どうぞ」
中から声がする。
テヒョンがドアを開けた。
「入って」
彼に促され、僕は一礼をして中に入る。
そこには、ソファに座った男女がいた。
女性には見覚えがある。
「また会ったわね。元気だった?」
先日僕がテヒョンの彼女と勘違いした彼の姉だった。
「なんだ、会ったことあるのか」
男性が、僕と女性を交互に見た後、立ち上がって僕に近寄った。
「かわいい子でしょ」
そう言って、テヒョンの姉も立ち上がった。
「私は、キム・ジョンヒョンだ。この会社の代表だ」
男性は、片手を差し出し握手を求めた。
僕は、恐縮しながらもその手を握り返した。
「僕の兄だ」
テヒョンが言った。
驚いた僕は、握手していた手に思わず力が入ってしまった。
「やー!痛いよ!」
僕は、慌てて手を放す。
「うわ、君は馬鹿力だな」
ジョンヒョンは、笑いながら手をブラブラとさせた。
「すみません、すみません」
僕は、何度も何度も頭を下げた。
それを見ていたテヒョンとテヒョンの姉は、声を出して笑っている。
それから、テヒョンは、姉を紹介した。
「こちらが、僕の姉のキム・ジウン」
「こんにちは」
そう言って、彼女は手を差し出し、僕と握手を交わした。
しばらくして、4人で雑談を終えると、オフィスに案内された。
テヒョンから上司を紹介される。
その後、上司との業務を終え、夕方になり、帰り支度を始めているとテヒョンが現れた。
「ご飯食べに行こう」
「はい」
僕は、歩き出した彼の後を追った。
着いた店は魚料理が美味しいらしく、僕たちはそれぞれ違うものを注文した。
「おいしい。ヒョン、いい店見つけましたね」
「でしょ?これもうまいよ」
そう言って、彼は僕に自分が食べていた料理を食べさせてくれた。
その後、食事を楽しんだ僕は、彼が運転する車の中にいた。
段々と僕の家に近づく。
運転をしながら音楽にのっていた彼は、ふいに静かになった。
沈黙が訪れる。
そして、車は僕の家に到着したが、停車させたまま沈黙は続いていた。
しばらくの沈黙の後、僕は意を決して言った。
それは、彼も同じだったようだ。
「泊っていきます?」
「泊ってもいい?」
二人で顔を見合わせ、吹き出して笑ってしまった。
しばらくして、先に寝支度を整えたテヒョンが、寝転びながらスマホを見ている。
僕は、それを横目に髪を乾かしていた。
時々聞こえてくる彼の笑い声。
気になった僕は、チラチラと彼を盗み見る。
そのことに気づいた彼は、横になったまま言った。「おいで」
僕は、その言葉に誘われるがまま彼の側に寝転んだ。
すると、彼は僕の頭を引き寄せ、僕は彼の腕の中に収まる形となった。
僕の心臓は、彼に聞こえてしまうのではないかというくらい激しく鼓動していた。
僕はそんな状態なのに、彼は涼しい顔をしてスマホを見ている。
彼はなんともないのだろうか。
そんな風に思っていると、彼はスマホを見るのを止めて僕の手を取り、自分の胸に押し当てた。
「すごくドキドキしてる。壊れそう」
彼は、そのドキドキを楽しんでいるかのようだった。
その笑顔が可愛くて、たまらず僕は彼にキスをした。
段々と深くなっていくキス。
僕はそのキスを、彼の胸そして彼の下半身へと徐々に移した。
「あぁ」
彼の声が漏れる。
ふと、僕は我に返った。
やばい、この家の壁はあまりにも薄い。
こんな可愛らしい彼の声を、他のやつに聞かせてはダメだ。
「ごめん、声我慢して。壁薄いから」
僕は慌てて言った。
それを聞いた彼は、眉間にしわを寄せてグッと口唇に力を入れた。
そんな彼が愛おしくて、もっとそんな彼を見たくて、僕は彼の中に入っていった。
すると、小さく彼の声が漏れ、顔がゆがむ。
「痛い?」
僕がそう聞くと、彼は小さく首を振る。
それを合図に僕は腰を動かす。
「んんっ」
さらに彼の顔が歪み、強く下唇を噛んだ。
あまりに強く噛んでいるので、僕は彼にキスをしてゆっくりと舌を絡める。
彼から漏れる熱い吐息に、僕はたまらず彼の奥へと強くより深く突き動かした。
やがて頂点に達した僕たちは、互いを抱きしめ合いながら眠りに落ちた。
夜の静寂は、2人の心が溶け合った余韻に優しく包まれていた。