まいねぇの東京物語2
ささやかな昭和年代記2
憧れの東京は
空気の中に
タクワンの匂いがした。
田舎暮らしだった
母と私と弟は
東京に仕事を見つけた
父と暮らすために上京。
父が呼んでくれたアパートは
東京の下町のさらにすみっこ。
タクワン工場が近くにあった。
大人たちが引越し荷物を
片付けている間、
ジャマにならないようにと
私は、初めての東京を
1 人で歩いてみることにした。
実は、東京に来るまで
タクワンを食べた記憶がない。
だからタクワンの匂いを
嗅いでも、なんの匂いか
分からなかった。
ただ嗅ぎなれない匂いに
誘われて歩いて行くと
そこに
工場らしい建物があった。
工場の広場には
銭湯のお風呂みたいに
大きな漬け物の桶が
置いてあった。
巨大な桶とタクワンが
私の中で結びつくには
もう少し時間がかかった。
少し離れて歩くと
近くの空き地に人が入れるような
土管があり、そのまわりで
子供たちが遊んでいた。
( これが東京の子だ )
なんだか、緊張した。
1 人の子が、私に気づき
近寄ってきた。
ドキン ドキン と
体が揺れるような気がした。
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