疑惑の人。
「あ、これポイントもつけておいてね」40歳くらいの女性はにこやかにそう言った。
コンビニによく来る買い物代行さん。病気の人など”買い物難民”と呼ばれる人の味方なお仕事。けっこう重いものなども頼まれて大変なのだ。
「はい」と店員の私がスキャンをする時に、そのカードの持ち主の名前が見えた。
「・・?」あれ、この名前。
この人のつけている名札と名前が一致してるけど・・。
言葉に出ない奇妙な違和感が私を包んだ。(今のってご利用者さんの買い物よね?)
代行さんはニッコリすると
「いつもどうもありがとう」と言いながら去っていく。
親しみのある雰囲気が、急に疑惑あるものに見えてきた。
その人は仕事でよく来る人なのでこっちも悪い印象を持ったことはなかった。重い水など何本も運んでいくのを手伝ってあげたいくらいに思っていた。でも、今見た行為は
疑問しか浮かばない。そう思って、同僚に相談した。
「⋯!あの人だったんですか?」
驚いたことに「実は他の人からもそんな人がいると聞いてました。あの人でしたか」と言う。やはり他にも気がついている人はいた。
やめさせなくちゃ、こんなこと。
本人は軽い気持ちなのかもしれないけど、これはダメ。しちゃいけないことなんだから。私たちは目を見合せた。
「私たちが気がついてるってこと、教えた方がいいわよね。こんなこと続けてたら怖いって思わせなくちゃね」
あの人、バレたら仕事辞めさせられちゃうかもしれない。でも、このまま放っておいたらずっとやり続けることも想像できた。それもダメだ。
次にその人が来た時。
またカードをだすので思い切って声をかけた。
「それ、誰のカードですか?」
「え。」その人は
サッとカードを引っ込めた。
「やだあ、間違えちゃった」と、恥ずかしそうに笑って見せた。私もすごい作り笑顔で「あら、それじゃなかったんですね?」と切り返した。
その日、その人はポイントをつけずにサッと立ち去った。
それきり、姿を見せなくなった。店を変えたのか?仕事を辞めたのか?真相は分からない。恐ろしくなってくれていたら良いのだけど。
人は笑顔の裏にも色んな表情がある。それを思い知った出来事だった。
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